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親ガチャ失敗の僕は、絶望の中で七色の君に出会う【4】

 そういえばコスプレ美少女は、親ガチャSRお嬢様と同じく僕の名前を知っているみたいだったな。


 どこで知り合ったんだ?

 あんな美少女。


 火曜日の僕は、そんなことを考えながら授業を受けていた。


 親ガチャSRお嬢様は欠席。

 クラスメイトや教師たちは、僕の拒絶を受け入れるように、距離を取りつつも僕を攻撃してくることはなかった。


 平和……でいいのかな。

 だからこんなことを考えてられるのだろうか。


 雑音が小さくなり、食事は色を取り戻した。

 しかし、相も変わらずネカフェ難民の僕は、夜にゲームセンターへ行くことを決意する。


 変わったようで、変わらない日常とでもいうのか。


 さて、今日はコスプレ美少女は、いるのだろうか。


 いたっ!


 今日は黒髪だった。

 無造作ヘアーとすら呼べない、風呂に入っているのかも怪しいほどの乱れた髪型で、着やすいからなのかダボダボの黒いジャージ姿だった。

 化粧もしていないのだろう。

 それでも美しいのは、やはり素材そのものが良過ぎるんだな。


 黒の彼女は、ゲームセンターの入口の壁に寄りかかってスマホをいじっていた。


 ソシャゲかな?

 共通の話題で会話ができるかな?

 ガチャ良いの当たった?


 そんな会話を期待して近付くと、「だるっ……」の一言でスマホをポケットに閉まって去っていく。


 あれ?

 それだけ?

 え、それって何のコスプレ?

 素の君なの?


 僕の質問は心の中で消滅した。

 そんな姿を強面店員に見られて、恥ずかしくなった僕は踵を返してトボトボとインターネットカフェへと戻った。


 そして水曜日が始まった。

 またしても親ガチャSRお嬢様は欠席だった。


 しかし、欠席の彼女のことよりも、昨日の黒の彼女のことが僕は気になった。

 自分は他人と距離を置くくせに、無視されるとそれはそれで何だかモヤモヤしてしまう。


 もうちょっと彼女と会話をしようと決意するのがやっぱり授業中で、そうして今日もまた放課後にゲームセンターへと向かう。


 自分勝手を見透かされて、お前も距離を取られる辛さを味わえと言わんばかりにやり返されているのだろうか。

 だとしたらそのブーメランは僕に深く突き刺さっている。


 こんなの喰らった内に入らないと強がっているようで、実は喰らっていたのなら相当な致命傷だ。

 幻想の痛みであってほしい。


 だからブーメランなんてなかったんだと安心したかった。

 だからゲームセンターの中へと入る。


 一階、二階、三階と彼女はいなかった。


 四階のエスカレーター付近からは、彼女の姿は見えない。

 後は五階だけかと思いながら、念のために四階の奥へと僕は探しに行った。


 すると、彼女はそこにいた。


 ハートツインテールのハート部分をショッキングピンクに染めて、残りが淡いピンクの髪型。

 そして、童貞を殺すと言われた、胸元を大きく露出しているニットワンピを着ていた。


 そして、何のゲームをしているのかと思えば――。


『よーい、連打開始っす!』


 どこかで聞いたような幼稚園児な声と共に、ひたすらに『Hボタン』を連打して画面の中の女の子をいたずらしていた。


 しかも連打すればするほどあられもない姿になっていって――。


『そんなに見ないで下さい。お願いです』


 これ、脱衣麻雀ゲームじゃねーか!

 完全に不健全ゲームです!

 ご褒美画像、ありがとうございます!


 あえて何とは言うまい。

 彼女の髪と同じ、ピンク色の某が画面に表示されてしまった。


「ああ〜ん♡ わっちと一緒に昇天しておくんなんし♡」


 モジモジと身悶えさせながら吐く荒い吐息がゾクゾクと僕の心をくすぐった。

 何だこのエロいコスプレは。

 しかも言葉もエロスを隠そうとしていない。

 そして、花魁(おいらん)の使っていたような言葉遣い。


 過去の遊郭から、現代に転生した花魁ってこと?

 ばっかもーん!

 僕が海産物一家の家主だったら確実にカミナリを落としているわ! こんなもん!

 誰彼構わず肌を晒すなんてけしからん!


 で、この胸、本当に何カップあるの?

 飛び跳ねて喜び始めたんだけど。


 大きな胸が揺れたり弾んだりしている……あはは、大きい!

 Gカップ?

 いや、違う……違うな。

 Gカップはもっと、小さくプルンって動くもんな。


 僕は精神崩壊したニュータイプよろしく、Gカップ以上のプルルンと揺れるそれを見て大きく猫背になった。

 前屈みではない。

 大きく猫背だ。


 そんな反応を見たからか、ピンクの彼女はクスクスと笑っていた。


(ぬし)さん、わっちの魅力に(ほだ)されたでありんす? それとも、ゲームの娘に絆されたでありんす?」


 それは難しい質問だ。

 都会の人混み、肩がぶつかって一人ぼっちなのか、果てない草原、風がびゅびゅんと一人ぼっちなのか。

 どっちが泣きたくなる場所なのか決めかねる選択肢だった。


 僕はピンクの彼女だと即答したいのだが、それはそれで憚れる。

 昨日のうざいと拒絶した黒の彼女が役作りだったとしても、今回の誘惑するエロい彼女が役作りだったとしても、どっちに転んだとしても彼女の本心がどこにあるのか分からない。


 望まない答えかもしれないのだ。


「ま、わっちの魅力に絆された――「おい、姉ちゃん!」」


 うおっ! 何だ!

 気になるところで邪魔するなよ!


 そう思って大声の主へと視線を向ければ、俺に小遣いをくれている男どもだった。


「へっへっへっ、そんなスケベな格好で、スケベなゲームしてるんだ。俺たちの相手もしてくれるよな?」

「ひょー、この胸たまんねー」

「ゲーセンにすっげえ美少女が通ってるなんて聞いたら来るしかないよなあ?」

「それな!」

「おい、湖文ちゃん。俺たちの邪魔はしないよな?」

「そ、そりゃもちろん。君嶋(きみじま)さんたちの邪魔を僕がするわけないでしょ……」


 大人しく引き下がる。

 飼いならされたクズの習性。

 東京湾に沈められるのは今じゃない。

 彼女を救うメリットなんてこれっぽっちもない。

 ただ、面白かっただけ。


 けれど、面白かった日々が終わるのは残念だな。

 そう思って立ち去ろうとした。


「野暮や武左に用はありんせん。わっちに見合う男になってから、出直しておくんなんし。剛田(ごうだ)!」

「お、おお?」

「こいつ……」

「あの女のボディガードかよ……」


 ピンクの彼女に呼ばれて出てきたのは、いつもの厳つい店員。

 あれ、ここって君嶋さんのシマなんじゃ……。

 何で対立してるんだ?


「お嬢はオーナーの大事な一人娘だ。協力を持ちかけた俺らを裏切るってんなら、ここで縁切ってもいいんだぞ?」


 ポキポキと拳を鳴らす剛田と呼ばれた店員。

 某神拳の伝承者を彷彿とさせる凄味に圧倒されて、「ちっ、帰るぞ」と僕を押し飛ばして君嶋さんたちは帰っていた。


「怪我はないか?」


 転んだ僕に手を差し伸べてくれる剛田さん。

 ヤバい、男だけど惚れそう!


「あ、ありがとうございます……」


 そんな僕を冷ややかな視線が射抜いた。


「へぇ、主さんはそっちの趣味でありんすか……」

「あ、その……」

「モテモテでありんすな剛田。憂いが一つ消えてわっちは満足でござりんす」

「お帰りですか、お嬢」

「用は済んでしまいんす。わっちはお暇させておくんなんし」

「はい、お気をつけて」


 剛田さんは深く頭を下げてピンクの彼女を見送った。


「あ、あの……。あんな格好で帰してしまっていいんでしょうか?」

「お嬢に護衛などいらん」

「そんなに凄いんですか。あの人……」

「ああ、お嬢の紛争地帯での武勇伝を聞きたいか? 飛ぶぞ」


 ふ、紛争地帯!?

 どんな生活送ってきたんだ彼女は……。

 そして、それを聞いたら僕は飛ぶのか……。


 そんなことを考えていたら、剛田さんも何かを考えていたようで先程の提案を取り下げた。


「……いや、俺から話すことでもないな。また今度、お嬢に聞け」

「今度か……。今度なんて僕にあるんでしょうかね……」

「またここに来ればいい。お前の今度を信じているお嬢がきっとお前の未来を約束してやれる。俺から言えるのはそれだけだ」

「そうですか……」

「今日もどうせ暇なんだろ。あいつらから渡された金なんてぞんざいに扱ってやれ。ここで好きなだけ遊んで行け」

「はい……」


 剛田さんのアウトローな言葉は、もしかしたら僕が本当に欲しかった言葉なのかもしれない。


 正論なんて聞きたくない。

 そんな子供の僕にとって、心地よいものだった。

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