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親ガチャ失敗の僕は、絶望の中で七色の君に出会う【2】

 金曜日の入学式は散々だっが、ゲームセンターでのコスプレ美少女と遭遇する不思議な出来事が僕の少しの癒やしとなった。

 その後のゲームセンターでの時間潰しに没頭できたのだから、そういうことなのだろう。


 そして迎えた次の日。

 土曜日には月一回の学習会があると聞いていたが、この日は入学式の次の日ということもあって普通に休日だ。


 朝っぱらから暇を持て余し、ただインターネットカフェにこもっては、漫画やネット、スマホでガチャを引いたりした。


 今日は、最低レアリティより一つ上のものを引いたが、もう何百回と引いたおなじみのものであったため、速攻で強いキャラクターのエサとなって消えた。


 何だか緊急アプデが入って、ガチャの排出率がほんのちょっと緩和されたとかアナウンスがあったけれど、僕の運なんてこんなものだよなと思いながら、自分自身にもエサを与え、汚れた金によって養われている自分に嫌悪感が湧き上がった。


 深沼湖文のほとんどは、犯罪から作られております。


 半分は優しさで作られている頭痛薬を羨むほどに、僕の心はきっと真っ黒だ。

 腐臭がして、鳥肌が立つほどベタつき、吐き気を催す、そんな不快感の塊だ。


 外見(がわ)で誤魔化しているが、内面の毒に侵されたそれは爛れ、周囲に不快感を与える。

 口を開けばコールタールのような悪意が漏れ出て、やはり不快感を伝播させる。


 どうしようもないクズ。

 それが僕の自分自身に対する評価。


 そうして自覚すると、僕は個室のマットルームで横になって、無為の時間を過ごす。


 まともに眠れやしない。

 あるのは、電池が切れたように一時間程度の意識の消灯があるくらいのものだった。

 そして意識がある内は、ただノイズのように嫌な出来事が音になって届けられ、耳を塞いでも聞こてくる。


 壁をつくろうと思わなくても聞こえてしまう。


 何もしていないと、自分から雑音を利用しようと思っていないと、苦痛は緩和してくれやしない。


『世間体があるから殺さないだけ。じゃなかったら、とっくに殺してるわ』


『産むんじゃなかったわね。こんな捨てるのに困る粗大ゴミ』


『帰ってこなくていいわよ。あんた私のよがる声を聞いて楽しみたいの? ああ、もしかして、そういうオモチャとして私に使われたいの? 満足させられるなら考えてあげなくもないけど……』


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い――。


 僕はトイレに駆け込んで、エサを吐き出した。

 酸っぱい胃液が、荒れた喉が、余計に不快感を募らせる。

 涙目になって、激しい動悸と、目眩に襲われて、僕は便器に寄りかかって呼吸が落ち着くのを待った。


 気が付けば再び夜が訪れていた。


 口の中を綺麗にして、乱れた身だしなみを整えて、僕はフラフラと、何故か、理由もなくゲームセンターへと向かった。


 今日も癒やされると思ったのだろうか。


 昨日と同じく怖い店員と出会い、やはり無視をされて僕はエスカレーターに乗った。

 すると、早々の二階でウィッグを付けているであろう美少女を見つけた。


 顔は昨日の美少女だ。

 しかし、付けているウィッグと服装に変化があった。


 紫の前髪ぱっつんロングヘアーに、紫のスーツ姿。

 成金を主張したいのか、趣味の悪いゴテゴテしたアクセサリーで過度に着飾っている。

 そんな紫の彼女は茶色い棒を葉巻のように咥え、大人顔負けといった感じでスロットマシーンを遊んでいた。


『貴様が見たのは幻に過ぎん』


 派手な演出が画面に表示されて、「勝ったな、ガハハ!」と豪快に笑いながら紫の彼女はボタンを押す。

 そして、後ろで眺めていた僕に顔を向けると、品のない大口の開いた笑顔で僕に告げた。


「何や、兄ちゃんもこの台打ちたかったんか? 残念やったな。今日はウチの貸し切りや。もろたで、工藤!」


 そしてまた美少女はスロットゲームに没頭してしまった。

 何のこっちゃとこっちが言いたくなるのを堪えて、僕はすぐに四階へ行った。


 昨日の美少女がクイズゲームをしていたのならば、姉妹か何かだと確信できたのに、件のゲームは誰もプレイせずに放置されていた。


 やっぱりさっきのが昨日の娘なんだろう。


 コスプレごとの役作りでもしているのだろうか。

 意思疎通できなくても、見ているだけで面白かった。

 そう、好きになったとかではなくて、単純に面白い娘だなと思った。

 明日はどんな彼女を見られるのだろうか。

 だからもう別に今回の彼女を掘り下げようとも思わなかった。


 僕は期待を膨らませながら、適当に時間を潰してゲームセンターを出た。

 出る時にはもう紫の彼女はいなかった。


 そして、もちろんインターネットカフェに戻って僕の土曜日は幕を下ろした。


 ――日曜日。

 ゲームセンターに行くまでは、ほとんど土曜日と変わりなく過ごして夜を待つ。


 休日の彼女は何をしているのだろうか。

 朝の無料ガチャがSSRだったこともあり、まあ欲しいのとは別なものが当たったのだが、その結果が現実にも反映されると思っていた。

 星座占いが一位だった時のような、良い事が起きて欲しいという過度の期待。

 やはり抱くべきではなかったと、そう後悔するのは期待が裏切られたと確信してからで、0時を過ぎて、月曜日になっても彼女はゲームセンターに現れなかった。

 僕は閉店後の店の前に一時間だけ居座ったが、現れたのは、店から出てきた怖い顔の店員だけだった。


 休日は家で過ごすタイプなのかもしれない。

 何処か違う場所に出掛けたのかもしれない。


 いや、もしかしてたまたま金曜日、土曜日と連続で続いただけであって、このまま何日も彼女が現れないなんてこともあるのだろうか。


 凄く中途半端でモヤモヤした。


 彼女の違うコスプレを期待してしまった為に、これで終わりの可能性もあるのだと思ってしまったら、一気に冷めた。


 月曜日の夜に彼女がこなかったら、それですっぱり忘れよう。

 インターネットカフェの個室で静かにしている方が性に合ってるし、特別ゲームセンターに行く理由もないのだから。


 僕は眠れない夜を過ごして、朝日が登るのを待った。

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