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親ガチャ失敗の僕は、絶望の中で七色の君に出会う【1】

 絶望は尚も続く。

 学校の中へと入った僕は、再びあの嫌なお嬢様とすぐに再会した。


「あら、遅かったのですね。貴方のクラスは私と同じ一組ですよ」


 へえ、わざわざどうも。

 とは言わなかった。

 むしろ最悪だと言いたいくらいだ。


 しかし、なんでこいつ一緒だなんて分かるんだ?

 名前なんて教えてないはずなんだけどな。

 まあ、知ってても関係ないか。

 僕はどうでもよかったので「ああ、そうですか」と適当に相槌を打った。


 その反応に彼女が怒りの表情を作っていくのが分かった。

 だから僕は壁を作る。


『ほら、お前の母ちゃんが遊べない代わりにこの金で遊んでこい』


『邪魔すんなよ? それとも母ちゃんが俺にケツ振って喜んでる姿を大人しく見てるか?』


『ぎゃはは! 俺たちには売ってください、何でもしますからっておねだりする女が、息子には殺してやるだもんな! 同情するぜ! 俺でも言われたことねーわ! ぎゃははははっ!』


『今日は五人相手だぞ? 良かったな! 満足して動かなくなったらしばらくは殴られずにすむんじゃないか?』


『腰砕けるまで遊んでやろうぜ』


「―――――――――――! ――――――! ――――――――――!」


 何かお嬢様が文句を言っている。

 しかし僕にはそれを聞き取ることが出来ない。

 僕に今聞こえているのは、あの日、僕の家に来た男たちが楽しそうに言っていた会話だけだ。

 そんな過去の雑音を流すことで、彼女の声を掻き消していた。


 こいつの名前なんてどうでもいい。

 親ガチャSSRお嬢様と呼ぶことにしよう。

 そう思って、彼女の文句を無視して教室へと向かった。


 ちなみにそんな傍らで、クラスが一緒になれて喜ぶ新入生女子二人の姿があって、更にそれを祝福する上級生男子二人の姿が見えた。


 神様とは何とも不公平な存在である。

 

 そして、そんな不公平が追い打ちをかけてきた。

 所謂、死体蹴りというやつだ。


 親ガチャSSRお嬢様の話を無視し続けたら、彼女から、おそらく初めて顔を合わせるクラスメイトたちに今朝の僕の醜態が語られたのだ。

 距離を置かれるのは必然だった。

 中には彼女が言っていたことは本当なのかと確認してきた奴もいたけれど、「そうだよ。他人の不幸ほど楽しいものはないよね」って返したら嫌な顔をしてやっぱり距離を置かれた。


 これで僕の高校三年間、ぼっち生活が約束されたものだな。いや、卒業までそもそも通えるのかな?


 色付いているとも思えない僕の人生。

 灰色の入学式。

 やたらスピーチの長い校長だとか、女子を子猫ちゃん扱いしそうなナルシスト生徒会長だとかの顔や名前を覚えようなんて気にもならず、入試2位が親ガチャSSRお嬢様だったなとかくらいの感想で入学式は幕を下ろした。


 そして、スーツの似合わない、むさ苦しい担任がホームルームを始めると自己紹介が始まった。


 最初の席順は名前で決まっているのか、『阿藤(あとう)』という名前から自己紹介が始まった。


 僕は『ふ』なので自己紹介の順番が後半なのは理解しているが、僕の次に呼ばれるであろう親ガチャSSRお嬢様の存在を知っても尚、その名前を覚えようとも思わなかった。

 背後から視線を感じるが無視だ。無視。


「深沼湖文です。陵光(りょうこう)中学から来ました。よろしくお願いします」

「あー、お前が新入生代表を辞退した入試トップの深沼湖文ね。電話で話した感じ通り暗いなあ。もっと元気だしていけよ!」

「はあ……」

「じゃあ、次――」


 担任の言葉を聞いて、クラスメイトたちの視線が突き刺さった。


「あれが入試トップだって?」

「陵光に凄く性格が良くて、成績優秀な生徒会長が入試トップで入ってきたって噂だったけど彼なの?」

「で、本性が今朝のあれ? うわあ、幻滅だわ……」


 はいはい、勝手に幻滅してくれよ。

 しばらく悪口が続くかと思われたけれど、親ガチャSSRお嬢様の咳払いによって終わりを迎えた。


「私は――――――。――――――――――――――――――――――。――――――――――――――――」


 僕は咄嗟にまた壁を作った。


『俺たちのこと、誰かにチクったら、どうなるか分かるよな?』


『お前のことは見張らせているからな? 金は渡してるんだ。せいぜい俺らのシマで、俺らの監視の中で暮らしてくれよ? バイトなんてするなよ? サツに言っても無駄だからな?』


『あ、今は入らねーほうがいいぞー。お前の母ちゃん、色々と臭いの垂らしてるからよ』


 過去の不快な音で親ガチャSSRお嬢様の自己紹介を遮り、しばらくはそのままで過した。

 とりあえずしばらく黙って耐えていると、担任が教室を出ていったので自己紹介は全て終わったらしい。

 クラスメイトたちも帰りの支度を始めていた。


 しばらく不快な音に晒された弊害で僕はしばらく動けなくなって、その間にクラスメイトたちの大半は帰ってしまった。


 人気(ひとけ)がなくなってきたので、僕はなんの気なしにスマホをいじると、ゲームのアプリを立ち上げて無料ガチャを引く。


 引いた結果は、当然と言うべきか最低レアリティだった。


「そのゲーム、好きなんですか?」


 唐突に話しかけられて僕は驚いた。

 相手は親ガチャSSRお嬢様だった。


「嫌いですよ。ガチャに依存してるくせに、SSR排出率詐欺ってるんじゃないかってくらい出が悪いですからね」

「嫌いなのにプレイするのですか?」

「まあ、こんなゲームでも世の中の不公平さを味わうくらいには楽しめますからね。失礼します」


 僕はスクールバッグを担いで立ち上がった。


 油断して壁を作れなかったのが敗因か。

 でも今回は会話をしたことで満足したのか、それ以上話しかけてはこなかった。


 本当ならもう二度とはなしかけてくるなよと暴言を吐きたいくらいだが、そんなことをすれば顔に靄がかかった女の子の幻を見てしまう。


 ああ、何で僕は親ガチャ失敗で生まれてしまったのだろう。


 こんな不快な音を聞かなければ生活できないだなんて、やっぱり生きていても特に面白いことはないな。


 僕は学校から少し離れた公園のトイレに入って、スクールバッグの中に用意していた服へと着替える。


 家に帰ることは出来ない。

 今の状況を詳しく知られたくないのだろう。

 お金だけ渡されて、僕は学生の身分にありながら、繁華街のネカフェ難民となっていた。


 母につきまとう男たちの系列の店に行けば、高校生が深夜にいても注意されない。

 逆にいても無視しろというお達しなのだろう。

 絡まれないというのは有り難いことだった。


 そして、最近はゲームセンターも始めたらしい。

 あそこなら行っても問題ないと、インターネットカフェにいた僕に男の一人が教えてくれた。


 通りに置かれたコインロッカーで荷物の出し入れをして、洗濯はコインランドリーで済ませ、シャワー、食事、娯楽などの残りはインターネットカフェに頼る。

 そこにゲームセンターも追加されたわけだ。


 まあ、暇潰しにはなるか。


 そんな気持ちで僕はインターネットカフェで夜中まで過ごしてからゲームセンターへと向かった。

 そこは、レトロゲームを中心とした、六階建ての建物だった。比較的狭いフロアなので、ジャンルごとに別の階層で分けてゲームを設置しているようだ。


 ゲームセンターの名前は『シャングリ・ラ』。

 こんな所にシャングリ・ラ(理想郷)があってたまるかと悪態つきそうになってしまったが、ゲームセンターの名前くらいどうでもいいかと捨て置いた


 一階はUFOキャッチャーのようなプライズゲームや、プリクラなどがあった。

 体格の良く、目付きが鋭い店員がこちらを一瞥したが、やはりと言うべきか僕を無視した。


 エスカレーター付近のフロアガイドを見ると、二階はメダルゲーム。三階は音ゲー。四階はビデオゲーム全般。五階はカードゲームとなっているらしい。

 六階は記載されていないので、事務所とかそういうのだろう。


 僕は適当に四階へと向かった。


 そもそも今のゲームセンターって売り上げ厳しいんだったっけ。

 人気(ひとけ)のなさにそんなことを考えながら、どんなゲームがプレイできるのかと物色していると、派手な黄色のツインドリルという、いかにもお嬢様的な髪型の美少女がゲームをプレイしていた。


 服装も髪色に合わせて派手な黄色のドレス。

 同年代であろう可愛らしい顔立ちと、少女らしからぬ大きな胸。

 全てが整っていて、故に不自然。

 人間とはここまで完璧な状態で生まれてくるのだろうかという疑問。

 二次元が来いって誰かが言って召喚したのだと説明されたら、それを信じてしまいそうな存在。

 親ガチャSSRお嬢様がSRに降格したくらいの存在が現れてしまった。

 自分で例えるのも酷い話だと思うが、クラスメイトの彼女が最上級ではなかったと僕自身が確信してしまったのだから仕方ない。


 それくらいにインパクトがあったのだ。


 しかし、ここは舞踏会じゃねーぞ。

 ゲーセンだからな。

 来るとこ間違えてないか?

 いや、ゲームをプレイしているから間違ってはいないのか。

 それに、派手な黄色の髪はウィッグだよな。

 ウィッグなんてしなくても十二分にドレスが似合ってるんだが、何かのコスプレか?


 お嬢様なのか、お嬢様に見せかけた美少女なのか分からないアンバランスさがあったからだろうか。

 それとも、そんな格好でよくゲーセンにこれたなという思いがあったからだろうか。


 お嬢様にも関わらず、僕は嫌悪感を抱かなかった。


 まあ、そんなわけで不思議と視線は黄色の彼女に吸い付けられた。


 彼女がプレイしているのはクイズゲームだった。


 クイズで何でも解決する探偵が5秒ルールのクイズ問題を解いていくゲームで、彼女はそのカウントダウンの開始である『5』で即答してしまい、スイスイと問題をクリアしていった。


 うわ、連打早押しクイズすらカウント『5』で正解してんじゃん。


 もうチートや!

 チーターやんそんなの!


 僕はベータテスターに嫉妬する攻略者の気持ちが理解できた。

 TASさんってリアルに存在したんだな。


 そんなことを考えて、僕が戦慄している間に黄色の彼女はゲームをクリアしてしまった。


 そして彼女はハイスコアランキング1位のイニシャル入力を放棄して立ち上がり、エンディングを堪能することなく僕に尋ねてきた。


「こんなくだらない雑学すら網羅してしまうわたくしは、正しく完璧なお嬢様ですわね。そう思いませんこと? ド貧民」


 ド貧民と直球で見下されたが、遠回しに見下されるよりも嫌味がない。

 その通りだと思ったし、コスプレしている彼女に言われても最初から話半分というか、冗談を言い合っているとか、そんな感じだった。


「ええ、さすがですお嬢様」


 だから僕は惜しみのない笑顔で称賛できた。


「ド貧民にしては、物分りが良くなったようですわね。ま、よろしくてよ。お前が立場を弁えていることが知れて満足ですわ。その心をどうかお忘れにならないで下さいませ。おほほほほ!」


 筐体に置かれていた派手な扇を持って口元を隠しながら高笑いをする黄色の彼女。


「では、ご機嫌よう」

「あ、はい……」


 満足に挨拶することもできず、僕の頭には『?マーク』が浮かんでいた。


 はて、物分りが良くなった?

 あんな巨乳で可愛いコスプレ美少女の知り合いいたかな?


 僕は彼女がエスカレーターを優雅におりていく様を見送りながらそんなことを思ったのだった。

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