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Stage2 最凶の勇者、復讐を遂げる

グロいのは多分、ここまで。

雪菜(せつな)、この世界に隕石を降らせたら俺も会いに行くから、もう少し待っていてくれ。」


 そう言って少年が人差し指を立てた時、ソレは現れた。


 雲を割り、血煙を消して空から舞い降りてきたのは、ダヴィデ像を思い出させるような年若い男だ。男は自らを神と称した。


「ねぇ勇者くぅん、使えない君の妹が死んだくらいでバグるのはぁ、やめて欲しいなぁ。・・・折角洗脳しやすいように子供を選んであげたのにさぁ?こぉんな子供一人御しきれないなんてぇ、ここの国王は無能だねぇ?」


 ケタケタと嗤う神に、少年は唇を噛み締める。


「これからこの世界ぃ、再建しないとだからさぁ。さっさとぉ――死んでね?」


 爽やかな笑顔で死ねと宣う神に、少年の殺意が膨れ上がった。


「――使えない?雪菜を侮辱するな下衆がっ!俺らを選んだってんなら、諸悪の根源はテメェじゃねぇかっ!」


「ふふっ。面白いことを言うねぇ、勇者くぅん。・・・私は神だよぉ?私がこの世界のぉ、ルールなんだよぉ?私に選ばれたのにぃ、ちゃぁんと働かない君たち人間がぁ――諸悪の根源、だろ?」


 飄々とした態度を崩さない神の様子に、少年は悟る。この神とやらを抹殺しない限り、この世界では第二第三の被害者が生まれ続けるのだと。


「もういいよ。テメェは殺す。神だろうが何だろうが関係ねぇ。ぶっ殺す。今からここで、ぶっ殺してやるっ!」


「神がぁ人間ごときにぃ、負ける訳ないだろぉう?哀れな勇者よぉ。・・・神の慈悲だぁ。今直ぐにでもぉ、妹のもとに送り届けてやろぉ。・・・あぁそれともぉ、君の妹とやらと同じ様にぃ――凌辱の末に嬲り殺されたいかい?」


「黙れ。」


 少年の制止も聞かず、神は残忍に嗤った。


「あれは愉快だったねぇ。勇者の妹でありながらぁ無能だった所為で虐められぇ。唯一の味方であった君はぁ、魔王退治から帰ってこないぃ。なまじ顔が良かった所為でぇ?クズ国王に手籠めにされぇ。挙句嫉妬に狂った王妃にぃ拷問の末に殺されたぁ。・・・いやぁ、良い見世物だったよぉ。城門に死体を飾っていたのも傑作だったなぁ。・・・絶望と恐怖に歪んだぁ君たち兄妹の顔ぉ――娯楽として最高だったよ?」


 心底愉しそうに笑う神の様子に、少年の中で何かが壊れた。


「殺す。――殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺す殺す殺ス殺すコロす殺スコロスコロスコロスころスコロすころすコろスこロスコロスッ!」


 長らく動かなかった感情が、神の前ではいとも簡単に暴走する。


 神に向かって跳躍した少年の足元には、踏み込む力によって大きなクレーターが完成していた。


「来い!紅雪っ!」


 その叫びに応えるように、少年の手の中には一振りの太刀が顕現する。

 今までに何度も少年の命を救ってきた紅雪は、召喚の際に地球の神から与えられたユニークスキルだ。

 触れたモノを瞬時に凍結させる紅の刀身は、主の感情に共鳴して吹雪を纏っていた。


 神の首を狙った一閃は、掠りもせずに空を切る。


「よっとぉ。流石だねぇ勇者くぅん。人間としては異常な強さだぁ。私も危ないかぁもしれないなぁ。・・・当たればだがねぇ?」


 軽やかなステップで斬撃を躱した神は、ニヤリと哂う。

 その表情は、神というよりも悪魔を彷彿とさせるような、邪悪なものだった。


 一方、神本体に攻撃を当てるのが難しいと分かった少年は、当たれば危ないという神の言葉に活路を見出していた。


 目の前の神は、魔王を含むこの世界の人類が誰一人として視ることさえできなかった少年の斬撃を難なく躱して見せた。

 普通に戦えば勝ち目はなく、一方的に刻まれるだろう。

 だが、自分の勝利を信じて疑わない傲慢な神は少年を舐め切っていた。

 要は隙だらけだったのだ。


 この油断こそが、少年の勝機に繋がる。


 いける。そう呟くと、少年は神の周りを疾走する。

 紅雪を振り回しながら、神を中心とした渦を描くように走り続けた。


「おぉやおやぁ。突然走り出すなんてぇ、気でも触れたかぁい?無闇に武器を振り回してもぉ、私にはぁ掠りもしないよぉ?」


 神の言葉にも耳を貸さず、少年はひたすらに走り続けた。

 やがて、少年の無視に機嫌を悪くした神が、少年を殺さんと魔法を使い始める。


「《人形使いの権能(マリオネット)終幕(フィナーレ)》・・・神の格をぉ思い知るがいさぁ。」


 祝福と称し上空に出現したのは、純白の羽根だった。

 無数の白い羽根が、ふわふわと舞い落ちる。

 一見すると幻想的な光景だが、その羽根の一つ一つには魔力とは異なる濃密なエネルギーが込められており、触れれば怪我では済まないだろう。


「チッ。何がフィナーレだ!出演者皆殺しの人形劇なんざ観たくねぇよ。つーか俺はテメェのマリオネットじゃねぇから!」


 儚げで清廉な見た目と異なり、大量殺戮兵器として機能している白い羽根に、少年は悪態を吐く。

 魔力であれば相殺できるが、この羽根にはそれができない。


 走り続けることを断念した少年は、紅雪を構えると目を瞑り、鋭く息を吸い込んだ。

 視界を遮断し、羽根のエネルギーのみを捉える。

 細く息を吐きながら、少年は降り注ぐ羽根の雨を、的確に切り払っていく。


 少年は切り続けた。

 息が切れても、振り続けた腕が痛んでも、集中力を切らすことなく切り続けた。

 約五分間、絶え間なく降り注いだ羽根に、少年の疲労は溜まっていった。


 やがてエネルギーの気配が無くなると、少年はその場に膝をつき、目を開く。


「ほぅ。濃縮した神力を切れるんだぁ。君の剣はぁ普通じゃぁないねぇ。」


 興味深そうに目を細める神から約十メートル。

 少年は必死に息を整えていた。


「はぁっ・・・俺の刀にっ、斬れないものはっ、無いんだよっ!・・・」


「なるほどぉ。・・・()()、ですかぁ?これだからあの女神はぁ、情が深くて困るんですよぉ。余計な真似をぉ!」


 苛立ちが滲み出る声とは裏腹に、神はニヤリと笑ってみせた。


「でもぉ、私の勝ちですよぉ勇者くぅん。・・・そろそろぉ、チェックメイト、でぇす。」


 少年は、半ば本能的に右に跳んだ。

 直後、大きな衝撃に吹き飛ばされた身体が宙を舞う。

 吹き飛ばされた瞬間、巨大な黒い羽根が爆ぜるのが見えた。

 一歩遅ければ、少年はあの羽根の直撃を免れなかっただろう。

 少年の額に冷たい汗が滲んだ。


「・・・うっ・・・ぐっ・・・」


 四・五十メートル程吹き飛ばされた少年は、左肩の猛烈な痛みに苦し気な呻き声を上げる。

 見ると、肩の下辺りで左腕がゆらゆらと揺れていた。

 爆発の衝撃で上の四分の三程度が千切れ、僅かな筋肉で繋ぎ止められている状態だった。


「っ・・・クソが。・・・あがっ・・・左腕がっ・・・お釈迦になっちまったっ。」


 ごぽり。少年の口から赤黒い血が溢れる。

 どうやら内臓も傷付いてしまったらしい。


「ほぅら、チェックメイトですよぉ?勇者くぅん。・・・冥土の土産に教えてあげようじゃぁないかぁ。私の権能はぁ、人形使いの権能ぅ。この世界はぁ、私が遊ぶためのぉ玩具(おもちゃ)でしかないのさぁ!君たちマリオネットもぉ、みぃんな玩具(おもちゃ)ぁ!修理するのも壊すのもぉ、ぜぇんぶ、私の気分次第さぁ。マリオネットはぁ、人形使いに勝てないぃ。・・・それが私のぉ、この世界のぉルールだよぉ?」


 満身創痍な少年に向かって、掠り傷一つない神が涼しい顔で言ってのける。

 きつく噛み締められた少年の唇から、一筋の血が流れた。


 よろよろと立ち上がった少年は、筋肉や血管、骨などが飛び出してグチャグチャになっている断面を睨みつけると、肩からバッサリと斬り落とした。

 紅雪の冷気で、左腕の断面がパキパキと凍り付き、止血がなされる。


「うあ”ぁ”っ・・・いってぇ。クソ痛ぇわ。でも、さっきよりましだっ!・・・誰が操り人形だって?そういうことは俺に勝ってから言えやクズ。・・・まだ俺は負けてねぇ!」


「これだけの傷をぉ受けても諦めないとはぁ、君はマリオネットではなく害虫でしたかぁ。・・・首を落とせばぁ死にますかぁ?」


 神の右腕が大きくうねり、変形する。

 現れたのは白く輝く大剣だった。


「はっ。出来るもんならやってみやがれクソ野郎!俺はここから()()()()()()()お前を殺してやるよ。」


 少年を完全に見下している神が、傲慢に嗤う。


「一歩も動かない?動けない、の間違いではぁ?」


 一歩。また一歩。神がゆっくりと少年に接近する。

 当初の()()()()の展開に、少年はほくそ笑む。


「さぁてね。俺が動けないかどうか、確かめてみたら?」


「いいだろぉう。私が直々にぃ、止めをさしてやるぅ。」


 そして、遂にその瞬間が訪れた。


 神が立っていたのは、少年が走り回っていた円の、()()だった。


「お前が単純なアホで助かったよ。・・・《飛燕(ひえん)》。」


 刹那、神を取り囲むように無数の亀裂が発生する。

 幾重にも重なったそれは、少年が()()()()()()斬撃に他ならない。

 少年の合図を受けて、夥しい数の斬撃が中心へと放たれる。


 少し遅れて、神が自らを守るべく腕を振るう。

 しかし斬撃に触れた瞬間、大剣に変じていた神の右腕は半ばから切断された。


「――っ?!なzっ」


 驚愕をあらわにした神が口を開くが、彼の口が言葉を紡ぐことは無かった。


 白い首が裂け、腕が細切れになり、胴体がズタズタに引き裂かれる。

 ドバドバと溢れだす鮮血。

 胴体だったモノから飛び出す内臓。

 神だったモノがただの肉片に変わっても、斬撃は止まない。

 次から次へと飛来する斬撃が血に塗れた肉を断ち、骨を砕く。

 グチャグチャに切り刻まれた内臓からは、胃液やら何やらが飛び出て悪臭を放つ。


 何千、何万にも及ぶ斬撃が、神の肉体を徹底的に破壊し尽した。

 後に残ったのは、血と何かが混じった液体と、そこに浮かぶミンチ状の肉片。

 その中で、何故か傷つくことなく残っていた白い心臓が、ドクンドクンと拍動している。


「・・・何だよ。神といえども心臓以外は人間と同じ肉の塊かよ。神だって飯も食えば糞もするってか?がっかりだよ。・・・何もねぇのに動いてる心臓とか、気色悪ぃ。生命力はゴキブリ以上かよ?!」


 ミンチ肉の中から心臓を引き摺り出した少年は、うへぇと嫌そうに顔を顰めながら、それを握り潰した。

 グチャっと潰された白い心臓は、少年の手の中で急速に干乾びていく。


「うわっ?!気持ち悪っ。」


 突然干乾びた心臓に戦慄する少年をよそに、神だった赤いモノが発光し、光の粒子となって消えていく。


「何この、突然のファンタジー・・・。」


 神を失った世界は、呆気に取られている少年を置き去りにして崩壊し始めた。


 世界中で空が割れ、海が蒸発し、火山が噴火する。


 少年の近くに海や火山は無かったものの、ひび割れる空に、少年は現状を理解した。


「なんだ、隕石は要らなかったな。」


 空も。家も。死体も。地面も。

 すべてが一様に、硝子のごとく砕け散る。


 やがてすべてが消失し、世界があった空間を濃密な闇が支配する。


 憎かった世界の最期を見届けた少年は、そっと意識を手放した。


『カイ兄、幸せになってね!』


 いつか聞いた雪菜の声が、聞こえた気がした。






 <特異点の誕生を観測しました。――世界機構(システム)を起動します。>

読んでいただき、ありがとうございます(`・ω・´)ゞ

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