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♪9.日曜日のお出かけに向けて

 日曜日のお出かけに向けて、あたしは毎晩せっせとワンピースを作っていた。

 瑠衣先輩に御礼のつもりで、と思い立ち作り始めたこのワンピ。よくよく考えてみると、いくらあたしが手直ししたとはいえ、あの元ボロの服でお出かけは少衝無理があったのでちょうど良かったかもしれない。

 その他にも、ワンピをプレゼントするメリットは数々あった。

 美佐緒先輩とのことでお姉ちゃんにはだいぶ心配をかけてたので、瑠衣先輩とはちゃんとうまくいってますよーってのをアピールするにもいいきっかけになる。あたしの腕前も褒めてもらえる。もちろん瑠衣先輩との仲も深まる。

 そのためとはいえ、たった6日で仕上げるのは結構しんどかった……。

「夏音ちゃん?」

「えっ、あ、はい!」

 愛用の小型ミシンの音にかき消されていて気付かなかったが、お風呂からいつの間にか帰ってきていた瑠衣先輩が覗き込んでいた。あたしは驚いて手を止める。

「間に合わなそうだったら無理しなくていいよー? 学校の課題があるならそっち優先してね?」

「大丈夫ですよぉ。今度の課題は来週末までに仕上げればいいので全然余裕ですもん。それに、瑠衣先輩にはシンプルなワンピが似合うと思うから手の込んだことはしてませんし」

 ちょっと強がった。でもあたしがにっこり笑うと「そお?」と言って瑠衣先輩も安堵の顔になった。

 だぶだぶに作ったほうがかわいいアニマルパジャマとは違い、ワンピースとなると詳細な採寸から始める。学校ではまだ習わない技術もあったのでちょっと苦戦した。

 左右のウエスト部分にギャザーを入れたり、スカートの裾をドレープ風にしてみたり、分からないことは教科書やネットで調べながらだったので、当初の計算よりも結構時間がかかっている。

 それと、いくら瑠衣先輩が優しいからと言っても、受験生なのでこちらから気を遣って作業時間を制限している。ミシンは瑠衣先輩が部屋にいない時にしか使わないし、紙袋やビニール袋の音も意外とうるさいので、瑠衣先輩が寝る支度を始めたら、あたしも片付けて寝る支度をする。

 そんなこんなで、当日ギリギリに仕上がったチャコールグレーのワンピース。やはり自分的にはいくつか納得のいかない部分があったが、完成品を手にした瑠衣先輩の喜びようといったら……。

「ありがとう、ありがとう夏音ちゃんっ! すごいねこれ……着るのもったいないよー!」

「えへへ、頑張りましたもん。早く着てみてくださいよぉ」

「うん。……緊張するなぁ」

 瑠衣先輩は出来たてのワンピを抱きしめてはにかんだ。あんな服ばかり持っていたけど、逆に言えば物を大事に思う気持ちが強い人なのだ。ドジさえ起こさなければ長年着てもらえるだろう。

 恐る恐る袖を通すのを眺めていた。膝下に揺れる丈もちょうど良さそう。袖丈も首周りも。背中のチャックを上げるのに苦戦しているようなので手を貸した。うん。ウエストラインも奇麗に見える。

「ど、どうかな……」

「かわいい! すっごく似合いますよ、瑠衣せんぱーい。オシャレだけどかしこまりすぎないし、自分で言うのもなんだけど、めっっっちゃいい感じーっ」

「え、えへへ……そうかなぁ……」

 鏡の前で2人並ぶ。はにかんだ瑠衣先輩の顔は真っ赤だった。自画自賛するあたしもつい笑顔になってしまう。

「それとですね、ついでに前髪切りませんか? 普通のハサミしかないけど、あたし前髪切るの得意なんで」

「いいの? 夏音ちゃんはほんとに器用だなぁ。なんでも出来るんだね」

 ほんとは去年までお母さんが切ってくれていた。あたしは中1の時に1回自分で切ったことがあるだけなんだけど……それは内緒。

 奇麗な洋服を着たら黒縁メガネにかかる不揃いな前髪が余計に際立って見えるから、ね。

「いいですよーって言うまで、目ぇ開けちゃダメですからねー。動かないでくださいねー」

「はーぁい」

 瑠衣先輩に顎の下で新聞紙を広げているよう指示し、慎重に切り揃えながら思う。ついでにいつも適当に結ってあるだけの後ろ髪もきちんと結んであげよう。あたしはハサミと交換にブラシを手に取った。

 サイドテールに束ねてリボンで飾る。ピンク地に少しシルバーのラメが入ったリボン。チャコールグレーのワンピに黒縁メガネだけじゃ暗めなので、差し色で女性らしさを引き立たせた。

「なんか……お嬢様みたい」

「あはは。なに言ってんですかー。瑠衣先輩はリアルお嬢様なくせにぃ。さっ、あたしもちゃちゃっと支度しまーす」

 未だ鏡の前で呆然とする瑠衣先輩の後ろで髪を梳かす。入学前にセミロングからショートボブにしたあたしは、おでこのパッチン止め以外はアレンジできない。たまにはカチューシャでもするか、と市販のレース柄をチョイス。

 それにしても、瑠衣先輩がぐっと大人びて見えるからか、今日のあたしは一段とちんちくりんに見える。しょうがない。いくら大人っぽい服を着ても、大人っぽく見えないどころか『お母さんの?』って感じで全く似合わないのだから。

 オレンジ色のパーカーを羽織ったところでスマホがピロンと鳴った。見るとアカウント名『SHION』と表示されている。お姉ちゃんからのラインだった。

『エントランスにいるよ』

 約束は14時にエントランス集合。時計を見ると14時まで後7分あった。どちらかというと時間ギリギリにばたばたと現れるお姉ちゃんなのに……珍しい。

『すぐ行くー』

 返信してリュックを担ぐ。瑠衣先輩に向き直ると「行こっか」とあちらもトートバッグを肩にかけた。

 エントランスに入る角を曲がると、愛おしい赤毛がすぐ目に映った。今日のお姉ちゃんはポニーテールじゃなかった。パッチン止めもしていなかった。横髪と一体化した前髪を片方だけ耳にかけていた。夏休みに買い物に行った時もそうだった。

「お姉ちゃーん」

 言い終わる前に小走りな足音に気付いたお姉ちゃんが振り向いた。「夏音、おはよ」と言って小さく片手を挙げた。

「お待たせー。ってゆーかお姉ちゃん、全然おはよーな時間じゃないじゃん。あははっ」

「あはは、ちゃんと午前中から起きてたのに何でおはよーって言っちゃったんだろ?」

「でも確かに、午後に会ったら何て言うのが正解なんだろうねー? 姉妹で『こんにちは』ってのもおかしいもんねー」

「確かに! うーん、じゃあお嬢様高校らしく『ごきげんよう』とか?」

 きゃははっと盛り上がる相葉姉妹について行けなかったのか、瑠衣先輩はきょとんとしていた。気付いたお姉ちゃんが慌てて頭を下げる。

「雉川先輩、ごきげんよう。いつも妹がお世話になってます。今日はよろしくお願いします」

 不慣れな挨拶に、あたしも瑠衣先輩も思わず吹き出す。『ごきげんよう』はやっぱりおかしいか、とお姉ちゃんも笑った。

「こちらこそよろしくね、汐音ちゃん。っていうか、夏音ちゃんにお世話になってるのは私の方なんだよー」

 日本人独特の「いえいえ、いえいえ」が繰り広げられている。まぁ、あたしと瑠衣先輩に限っては本当にお互い様だけど。そして本物のおばちゃんズのように「立ち話もなんですから」と歩き始めた。

「やっぱり姉妹だねぇ。パーツパーツは違えど、トータルすると似てるなぁ」

「1番上のお姉ちゃんも結構似てるんですよ? あたしよりも汐音おねえちゃんの方が似てるかなー?」

「へー、じゃあ美人三姉妹なんだねぇ」

 あたしと瑠衣先輩の会話をにこにこ笑いながら聞いてるお姉ちゃんは、たまにスマホを取り出しては何やらいじっていた。スマホに目を落とす度、髪を耳にかけている。

 お風呂上がりとはまた違う色っぽさに見惚れる反面、小さな霧が胸にかかる……。

『今度のお出かけに付けていくね。ありがとう』

 小さな天使の羽根をデコレーションしたパッチン止め、今日は忘れてしまったのだろうか……。

 あたしはちょっぴり寂しくなって、お姉ちゃんに腕を絡めた。温かかった。お姉ちゃんは一瞬こちらを見た後、そっとスマホをポケットに戻した。

 駅に近付くにつれ、休日のにぎやかさが感じられた。お目当てのスイーツ専門店は電車で3つ先らしい。瑠衣先輩のオススメを聞きながら構内へ入った。

「うん、もちろんまた行こうねー」

 改札を目前にICケースを手にしたところで、お姉ちゃんの足がぴたりと止まった。原因は分かっている。今の声の持ち主に気が付いたからだ……。

「あれ? 汐音じゃん。出かけるって言ってたの、夏音とだったのか」

 片手は別の女の子に向けられている。でも顔と言葉はこちらを向いている。英語表記の紙袋をぶらさげながら、にこにこと近付いてくる獅子倉茉莉花……。

 しれっと呼び捨てされたんですけどーっ!

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