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♪11.駅ビルの最上階

「駅ビルの最上階にあってね、眺めもいいんだよー。時期的に栗とかお芋のスイーツあるかもねー」

「まじスか? じゃあかぼちゃもあるかもスね。ぼくかぼちゃ好きなんスよねー」

「あるある、きっと。絶対おいしいやつだよねー」

 お前が土手かぼちゃだコノヤロー、とか思ったり。しかしスイーツ好きとは、王子キャラ気取りでも、所詮ただの女子高生じゃんかコノヤロー、とか思ったり。それともスイーツ男子気取りかコノヤロー、とか思ったり……。

 駅ビルの自動扉が開くと、もあんとした独特の空気があたしを包んだ。化粧品と雑貨のコーナーから甘い香りがする。瑠衣先輩は真っ直ぐエレベーターに向かった。

 フロアガイドに目が行く。雑貨コーナーも気になるし、アクセサリーコーナーもファッションコーナーも見たい。チビで巨乳のあたしに着れる服なんて売っているわけないので期待はしていない。でも……。

「先輩、帰りに他のフロア寄ってもいいスか? ぼく、今度の課題の参考にできるもんないか見たいんで」

「いいよいいよ! 汐音ちゃんと夏音ちゃんはどこか見たいとこある?」

 3人の視線があたしに向く。見たいところはたくさんある。むしろこのオシャレなビル、全部回りたい。でもワガママかな、と言い出せずもじもじしていると、察してくれたのはやっぱりお姉ちゃんだった。

「夏音、アクセサリーコーナー見たいでしょ。流行りが分かれば、フリマサイトで売るアクセも値段上げやすいからって前言ってたじゃない?」

「う、うん。あと……」

「あと、ポーチとか小物も作ってみたいって言ってたよね。雑貨も見る?」

 嬉しかった。お姉ちゃんはちゃんと分かってくれていた。あたしが言ってたことをちゃんと覚えててくれていた。自然と頬が緩む。見上げるとお姉ちゃんはうんうんと頷いた。

「じゃあスイーツの後はお買い物タイムとしますかぁ」

 寮にいる時の冴えない瑠衣先輩とは思えないほど生き生きしている。洋服ひとつでこんなにも変わるものなのかと、女子の魔法の威力に驚かされる……。

 最上階、エレベーターを降りると目の前に広がる女子の群れ。ショーケース超しに見える限り、空の食器を前におしゃべりしている人がほとんどだった。

 チーズケーキ系もおいしそう。でもせっかくだから、瑠衣先輩オススメのパンケーキも食べてみたい。王道だけどパフェも捨てがたい。いやいや、和スイーツも、ワッフルも……。

「夏音ちゃん、お目々キラキラしてるー。かわいいなぁ!」

 メニューに釘付けなあたしの隣に座った瑠衣先輩が笑う。目の前の2人も笑う。

「だ、だって、どれもめっちゃおいしそうじゃないですかぁ。ね、お姉ちゃん」

「ね。どれにしようかすんごい悩むなぁ。夏音、半分こする?」

「うん! じゃあ、お姉ちゃんのと半分こして交換ね! えっとね、じゃああたしは瑠衣先輩オススメのパンケーキから選ぶから、お姉ちゃんはチーズケーキ系から選んでおいて?」

「ふふっ、はいはい」

 それでもあたしは最後まで悩み、結局期間限定『安納芋ジェラードのパンケーキ』にした。獅子倉茉莉花が手慣れた口調で注文する。それでも他のメニューに後ろ髪引かれる。「いつまでも見てるからだよぉ」とメニューを奪ったのは瑠衣先輩だった。

 スイーツが来るまでの間、話の主導権を握っていたのはやっぱり瑠衣先輩だった。

 さすがデザイナーの娘はお目が高いらしく、獅子倉茉莉花のワイシャツがどこのブランドか、ジーンズがどこのブランドか、ズバリ言い当てていた。普段の服装を知らない2人は驚いている。あたしも別の意味で驚いている。

「じゃあぼくも瑠衣先輩の服、当ててもいいスか? それ、ビビアン・ローゼのでしょ?」

「ブブー、ざぁーんねーん! ふふーん、これはねぇ……」

「おまたせしました」

 正解を言い切る前に、次々と到着するスイーツたち。まぁ正解は後でのお楽しみということで、さっそくいただきますをする。

 瑠衣先輩は抹茶白玉入り栗ぜんざいを、獅子倉茉莉花はかぼちゃプリンのアラモードを、そしてお姉ちゃんはベイクド塩チーズタルトをそれぞれパクつく。一口食して歓喜の声が漏れた。

「夏音ちゃん、私の栗ぜんざいも食べてごらん? はい、あーん」

「いいんですかぁ! あーん」

「かわいいなぁ、かわいいなぁ」

 もぐもぐしてる側から頬ずりしてくる瑠衣先輩。さすがに食べている時はちゅっちゅしてこないらしい。ごっくんしたらお姉ちゃんと目が合った。ちょっと驚いてるっぽい。

「どしたの? お姉ちゃんのタルトもちゃんと半分貰うよ?」

「え、あ、うん。分かってるよ? 夏音、半分こして」

「おっけー! 奇麗に半分こしたげるねー」

 恐ろしく不器用なお姉ちゃんの皿を引き寄せ、ナイフでタルトを公平に切り分ける。あたしのパンケーキを半分乗せ、交換にタルトを貰った。

 レアも好きだけど、どちらかというとベイクド派なあたしの好みを分かってて注文してくれたに違いない。塩気が効いていておいしい! また歓喜の声が漏れる。

 あっという間に空っぽになったあたしのお皿。フォークとナイフを揃えて置く。幸せで満腹のため息を溢してソファーにもたれると、獅子倉茉莉花がお姉ちゃんにスプーンを向けようとしていた。

「い、いらないって。あんたが食べなさいよ」

「いいじゃん。このかぼちゃプリン、弾力があってめちゃめちゃおいしいから一口でも食べてみろって」

「い、いいわよっ。恥ずかしいから外ではやめてっ」

 外、では……? 「食べたいくせにぃ」と茶化されて真っ赤になるお姉ちゃん。戻っていくスプーンを目で追っている。ニヤつきながらそれを口に入れる獅子倉茉莉花。

「性格わるーっ! うちのお姉ちゃんに意地悪しないでよねっ」

「え? だって汐音がいらないって言ったんだぞ? ぼくは悪くない」

「悪いっ! 意地悪な顔してたもんっ」

「悪くないって。ぼくは汐音に食べさせようとしたのに、汐音が変な意地張るから……いてっ」

 急に太腿ら辺を摩り出す獅子倉茉莉花。見るとお姉ちゃんがギロリと睨み付けていた。叩いたのかつねったのか。お姉ちゃんは獅子倉茉莉花にだけ凶暴になる時がある。

「仲が良いなぁ、2人は。付き合ってるって噂はほんとだったんだねぇ」

 サラッと爆弾を置いた瑠衣先輩。そのまま「あっ、見て見て! 船だぁ」と海を見下ろしている。無邪気な横顔が夕日でオレンジに染まっていた。

 そうなのかもしれないって思ってたけど……そうじゃないといいなと思ってた……。

 でも、あえて聞かなかったのは、知るのが怖かったから……。知りたくないことが、きっとそれが事実だと分かっていたから……。

 だって、現にお姉ちゃんは気まずい顔してる。獅子倉茉莉花も、あたしと目を合わさないようにしてる。

 否定しない、それが答えなんでしょ……?


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