♪1.ロリ巨乳先輩
『ロリ巨乳先輩』
中2の頃、後輩の男子からそう呼ばれていることは知っていた。
あたし、相葉夏音は、中学の制服よりランドセルが似合う童顔。しかし胸だけはそれに似合わぬFカップ。同学年の中では陰で、名前になぞって『大砲』だの『キャノン砲』だの呼ばれていたことも知っている。
なんでここまで育ってしまったのか……。スロットがずれたようなあたしのパーツ、ブラウスのボタンを止めながらため息が出る。
『先輩、俺と付き合ってください!』
『ごめーぇん。あたし、好きな人がいるのぉ』
どうせあたしの胸しか見てないくせに……。あたしは君の名前すら知らないけど、君はあたしの何を知ってるわけ?
『先輩、週末僕とデートしてくれませんか?』
『ごめーぇん。あたし週末は他の人とデートなのぉ』
くりくりお目々で上目遣い。こちらがにこにことお断りすれば、後輩男子くんは「残念だなぁ」とにやにやする。そうね、残念ね、あたしの胸に触れられなくて……。
でも嘘じゃない。あたしには好きな人もいるしデートの約束だってある。
外見じゃなく、ちゃんとあたしの中身を好きでいてくれる。1番近くで、1番大切に思ってくれている人が……。
1つ年上で、いつも一緒だった。いつもそばにいてくれた。いつもいつも優しくて、これからもずっとずっとそばであたしを守ってくれて……。
『全寮制の高校っ? えっ、やだよ。それじゃあいつも一緒にいられなくなっちゃうじゃん!』
あたしがだだをこねても、向こうは「全寮制ってわけじゃないよ。家からじゃ遠いから入寮するってだけ」そう言ってただ困ったように笑っているだけだった。あたしや家族と離れても寂しくないの? 何度も尋ねたけど、1人で泣いている背中を見てから何も言えなくなった……。
知ってる、ずっと悩んでいたこと。分かってる、ずっと一緒じゃいられないことくらい……。
『夏音、夏休みには帰ってくるから、受験勉強頑張るんだよ?』
「もちろんっ。行ってらっしゃーい』
中学3年になってすぐ、あたしは塾には通わず、自分で必死に勉強した。一緒の高校に行きたいけど下流家庭のうちにはそんな余裕はない。
だからあたしは、受験勉強の傍ら、フリマサイトで手作りアクセを売って学費を稼ぐことにした。
三姉妹の末っ子のあたしは、ぶきっちょな姉たちとは違い手先が器用だ。姉たちのおさがりは袖や裾がほどけていることもあったし、何よりすくすく育ってしまうがゆえにはじけ飛んでしまいそうなブラウスのボタンを強化するために持ち歩いていた鍼と糸は、あたしにとってお箸とシャーペンの次に日常的必須アイテムだったからだ。
私立星花女子学園、それがあたしの目指す高校。中高一貫のお嬢様学校と有名だが、成績と学費が足りれば下流家庭のうちでも入学できないことはない。
なんと言っても入寮すればまた一緒にいられる。一緒にお風呂にも入れる。一緒に眠れる。
お姉ちゃんと……。