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お餅つき

 ペッタンコ、ペッタンコと、リズミカルに音が紡がれる。

 杵で餅をつく人と、臼の横に控え、手に水をつけて引っくり返す人は、ローテーションで順番に回されていた。

 神であるツクヨミも杵で餅をつき、手を水で濡らしてタイミングよく餅を引っくり返し、手の平を餅とり粉で真っ白にして、満月のような丸い形に餅を整えている。

 どちらかといえば、セツ達がせっせと餅をつき、ツクヨミは高みの見物をしているイメージがあった。けれど、ツクヨミとセツ達は、一緒になって楽しそうに餅をついている。

 ツクヨミの立場を教えてもらっていなければ、面倒見のいい美人なお兄さんという感じだ。

 ツクヨミとウサ耳達の関係は、小学校の先生と生徒みたいに見えなくもない。とても和気あいあいとしている。


(やってることが、全然神様っぽくないな……)


 陽菜も、セツやウサ耳達に巻き込まれ、餅とり粉まみれになりながら、せっせと餅を丸めていた。


「よし、これで最後だ!」


 引っくり返す役になっていたツクヨミが、餅とり粉が広げられている板の上にボンッとつきたての餅を置く。

 真っ白でスベスベつやつやしている餅から、ホワホワと白い湯気が立ち昇る。餅をちぎる係になっているウサ耳が、丸めやすいように軽く形を整え、ポンポンポンと板の上に置いていった。

 陽菜は板の上に置かれた餅をひとつ取り、コロコロと形を整えて丸めながら、同じように隣でせっせと餅を丸めるセツに話しかける。


「やっぱり、月のウサギはお餅をつくんだね」

「う〜ん? うん……そうねぇ。今日は、お祭りだからね」

「お祭り?」

「そう。昔から、お祭りにはお餅だよねぇ」


 それに……と、セツは一緒に餅を丸め始めたツクヨミに目を向ける。


「アッチの世界では、中秋の名月の日に、お月見って行事でお供え物をしてくれるでしょ? 神社では祝詞なんかも上がるし、ツクヨミ様にとっては大事な行事なんだぁ」

「そっか……月って、ツクヨミ様の象徴だもんね。重要な一大イベントだ」

「そうだよぉ。だからね、みんなで協力して準備するんだぁ」


 セツは、庭に在る池のほとりに、注連縄で結界が張られている一角に目を向ける。陽菜も首を伸ばし、結界の中に組まれている祭壇に目を向けた。

 白木の祭壇には、セツが採ってきたススキと、中にお酒が入っている白磁の徳利が並べられている。そして祭壇の中央には、一番最初についたお餅が、朱塗りの大皿に美しく盛りつけられていた。

 今日という日のため、セツ達が精一杯に準備をしてきた集大成が、そこにある。


「さて……では、そろそろ我は準備に取りかかる。あとは任せてよいか?」


 ツクヨミが声をかけると、ウサ耳達は口々に、はーい! いいよ〜と返事をする。


「では、頼んだ」


 ツクヨミはパンパンと手についている餅とり粉をはたき、襷がけにしていた紐を解くと、隣に控えていたウサ耳に手渡す。

 腰まである長い白銀の髪をひるがえし、(きざはし)を昇って屋敷の中に入っていった。

 餅を全て丸め終え、手持ち無沙汰になっていた陽菜は、最後のひとつを丸め終えたセツに問いかける。


「準備って、ツクヨミ様なにをするの?」


 セツは粉まみれの手をはたきながら、陽菜の問いに答えた。


「できたお餅をコッチ側でもお供えしてるでしょ? あの祭壇の前で、アッチの世界で上げられた祝詞に応じる儀式をするの。儀式っていっても、禊をして着替えたツクヨミ様が、承ります〜みたいな内容を述べるだけなんだけどね。堅苦しく、畏まった感じじゃないよ。簡単なもんさぁ」

「セツちゃんも、その儀式に参加するの?」

「セツは今年の当番じゃないから、参列しないよぉ」

「ふ〜ん……。当番制なんだね」

「そ! 今年のセツは、洗い物当番なのさぁ」


 と、言うわけで……とセツは立ち上がる。


「セツは洗い物に行ってくるよ。陽菜ちゃんは、どうしとく? 一緒に来てもいいし。それとも、儀式見る?」


 陽菜は、儀式を見るかという提案に、とんでもない! とフルフル頭を左右に振った。


「そんなの畏れ多いよ〜! 無理ムリ! 一緒に洗い物がいい」

「え〜もったいない。せっかくのチャンスなんだから、見ればいいのに。中秋の名月の日にコッチの世界に来ることなんて、そうそう無いんだからさぁ。ホントにいいの? 後悔しない? またとない機会だよ!」


 鼻息がかかるくらい、セツの顔が近い。セツの圧と勢いに、陽菜は気圧されそうになる。

 洗い物ではなく、セツが大好きなツクヨミを見てほしい。そんな心の声がダダ漏れだ。

 セツの機嫌を損ねてまで、洗い物に固執するような陽菜じゃない。


「じゃあ……遠くから、眺めていようかな」

「うん! ぜひ、そうして」


 望む答えを口にした陽菜に、セツはニコリと満足そうな笑みを浮かべたのだった。


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