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古びた社

 セツに連れて来られたのは、山の麓にある鳥居の前。

 木製の鳥居は、ところどころ朽ちていて、雨風にさらされた年月の長さを想像させた。


「なんか、ちょっと不気味かも」


 素直な感想を口にすると、悲しそうにセツの耳がシュンと垂れる。


「そうなんだよね。凄く力のある素晴らしい神様なんだけど……。どうしても、社のお手入れは人間次第ってところがねぇ。あるのよねぇ。信仰心に左右されちゃうっていうかさぁ」

「信仰心?」

「簡単に説明すると、神様を信じる心とか、神様に感謝する心かな?」


 陽菜が難しい表情で小首を傾げると、セツは「えっとねぇ」と思考を巡らせながら、胸の前で両手を合わせた。


「この国の神様はね、感謝の心がお好きなんだ。ほら、ありがとうって思うと、お礼になにかしてあげたくなるじゃない? 大好きな人には、なにかしてあげたいって気持ちが、強くなったりすることなぁい?」


 母の日や父の日、敬老の日に、いつもありがとうと、お礼を伝えてプレゼントをあげる感じだろうか。

 感謝の対象がいつもお世話になっている人であるなら、陽菜にも、セツの言いたいことは理解できる。

 でも、身をもって神様になにかをしてもらったと実感できることなんて、陽菜には今まで一度も無かった。


「ツクヨミ様って、具体的になにをしてくれてる神様なの?」


 セツがツクヨミを慕っていることは、あふれ出る雰囲気で分かる。でも陽菜は、セツが慕っている神様のことをなにも知らないのだ。


「ツクヨミ様はね、太陽の神であるアマテラス様と、海原を治めるように指示されたけど人間の世界に行くことになったスサノオ様の兄弟神なの。と〜っても貴い神様なのよ」

「ふ〜ん……。なんか、めっちゃ凄い神様なんだね」


 陽菜の素直な感想に、そうなの! と、セツは赤い瞳をキラキラと輝かせる。興奮からか、胸の前で合わせていた両手をギュッと握り締めた。


「でも、全然威張ったりとかしなくて、お月様の輝きそのものでさ。す〜っごく穏やかな神様なの。でもね、楽しいことが大好きだし、セツ達みたいな子にも優しくて、セツはツクヨミ様が大好きなんだぁ」


 質問の意図としては、どんなご神徳がある神様なのか問うたはずなのだが……。セツはツクヨミの人物像というか、性格のほうを答えている。

 具体的に、セツがどう接してもらっているのか分かりやすかったけれど、陽菜の知りたい部分はそこじゃない。


(具体的にって……たしかに間違っちゃいないけど……)


 セツのキラキラ輝く瞳を見て、まぁいいか……と、陽菜は小さく嘆息吐いた。


「ここのお社がね、神様の世界に在るツクヨミ様の御殿と繋がってるのよ」


 セツに案内され、石段を登った先に現れたのは、これまた年月を感じさせる風合いのお社だった。

 古びた賽銭箱が設置され、その奥には六畳ほどの拝殿。その先に、高い位置には設置されているけれど、拝殿より小さな設計になっている本殿があった。


「凄く貴い神様なのに、こんなボロい神社なの?」

「あー! それ言っちゃう?」

「え? だって凄い神様なら、もっと大きくて豪華な神社を想像しちゃうよ。この神社、私が春や秋のお祭りに行く神社より、ずっと小さくてボロいんだもん」


 納得がいかない陽菜に、セツは不満を隠そうともせず、餅みたいに頬を膨らませた。


「神社によって、祀られてる神様が違うんだから、仕方ないじゃない。この地域にある、ツクヨミ様の元へ繋がるお社は、ここだけなんだもん。こんな小さな神社でも、集落の人達は祀ってくれてるんだから、ありがたいことなんだよ。信仰心によるかなぁって、セツはさっき言っちゃったけど、こうして建物を維持してもらえてるだけでもすっごくありがたいことなんだからね。建物の立派さが、神様の立派さに追いついてない神社なんて、たくさんあるの。見てくれに騙されて、侮っちゃダメなんだよぅ!」


 セツの語りは止まらない。

 地雷を踏んでしまったかも……と、陽菜は謝るタイミングを見計らう。

 けれどセツは「それにさ」と、唇を尖らせ、釈明を続ける。


「ここの神社はこんなだけど、よそではもっと立派に祀ってもらってるんだからね。ここだけを見て判断してほしくないな」

「分かった。ごめんね、ボロいって言って。ホントに、ごめんなさい!」


 陽菜は勢いよく、ペコリと頭をさげた。セツは慌てて、陽菜の頭を上げさせる。


「いいよぅ。ボロいのは本当だもの。ただ、ツクヨミ様をバカにされたみたいで、セツは嫌な気持ちになっちゃったんだ」

「うん……ごめんね。大好きな人に関係あること、けなされたら嫌だもんね。ごめんね」

「そんなに何度も謝らないで。セツは怒ってるわけじゃないからさ」


 セツはニコリと笑みを浮かべ、気まずい気持ちで胸がいっぱいになっている陽菜の手を握った。


「さあ、行こう。ここから先は、神様の世界だよ」


 セツに手を引っ張られ、社の中に吸い込まれる。

 (まばゆ)い光に飲み込まれ、陽菜は目を開けていられなくなり、ギュッと目蓋を閉じた。


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