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 表情筋を総動員して、私は顔を整えた。だけど心臓が痛いし耳が熱い、手も僅かに震えている。震えを止めるために手を押さえようとすると、先にカミュ様の両手で包まれた。心音が更にうるさくなって、カミュ様に聞こえてしまいそうだ。恥ずかしい、いっそ気絶してしまいたい。


 部屋にいる全員がカミュ様の御前にひれ伏しているので、私の動揺は悟られていないはずだ。今のうちに立て直さなくてはならないが……無理!この体勢で意識しないとか無理!

 そもそもカミュ様の見た目も声も、私の好みど真ん中なんだよ!そんな人の嫁とか、ああ駄目だ、想像しただけで鼻血が出そう。


 だいたい私なんぞがカミュ様の花嫁とか、冗談としか思えない。そうか冗談、いやエグモント王子との結婚を阻止するためのブラフ?私はカミュ様のお仕事を手伝う予定だから、従業員を守って下さったのか。


「そうだな、其方は我のもとに永久就職が決まっておる」


 カミュ様、今だけは私の心を読まないで!それと言い方!永久就職とか言われると、本当に結婚するんだって勘違いしちゃいますよ!?


 落ち着け、落ち着け私。深呼吸しつつ何か心を落ち着ける物をと、視線を彷徨わせる。げ、エグモント王子と目が合った。私と話しているうちにカミュ様の威圧感が薄れたので、顔を上げようとしていたのだ。

 復活したエグモント王子が、なぜか勝ち誇った顔で叫ぶ。


「ベアトリスと結婚するのはオレだ!だいたい貴様は何者──」

「この馬鹿もんが!!」


 再度国王陛下に頭を押さえつけられ、額を床にぶつける王子。ゴツンと良い音がした。おかげで沸騰していた私の頭も冷え、冷静さを取り戻す。

 代わって国王陛下はおかんむりだ。


「このお方は異界の神、ベアトリスは神の花嫁に選ばれたと説明しただろう!だから代わりに聖女フローラとの婚約を調えたと!聞いていなかったのか!?」

「ですが父上、魔王のこともありますし、ベアトリスは我が国に必要です!」

「あ、それならもう解決しましたよ」


 父子ゲンカに口を挟むと、エグモント王子に睨まれる。だがそもそも、私と父は国王陛下にその話をしに来たのだ。邪魔しているのはエグモント王子のほうなのに、いちいち喧嘩腰で腹が立つ。でも、もう少しだけ我慢しなければ。


 私はポケットに仕舞っていた指輪を取り出し、国王陛下に差し出した。それを王子がひったくるように奪って、自分の薬指に嵌める。

 あーあ、説明も聞かずに勝手に嵌めちゃって。後悔しても遅いですからね。


「ベアトリス、これはお前からオレ様への結婚指輪だな!」

「違います。魔王を封印した指輪です」

「ハッ、笑えない冗談だな。こんなちっぽけな指輪に、魔王を封印出来る訳が……」


 あ、感知しましたね?指輪から漂う魔王の気配。さすが勇者サマ。

 エグモント王子の顔が引き攣り、指輪を指から抜こうとする。だがもう遅い、それは一度嵌めると外れない、呪いの指輪だ。


「陛下。私は貴族の義務として、今朝から魔王討伐に出ておりました。そして無事魔王の封印に成功したことを、ここに報告致します。その証として、エグモント殿下が手にされている指輪を献上致します」

「その……さすがに半日で魔王を討伐したとは、信じられんのだが」

「はい、討伐は無理でした。私には封印するので精一杯でしたので、後はエグモント殿下にお任せしようかと」


 本当は討伐も出来たのだが、現状何もしていない魔王を殺すのは偲びなく、魔王の力だけを封じてきた。だが詳しいことは内緒だ。エグモント王子が知ったら、無力になった無害な魔王を殺しに行きかねないから。

 エグモント王子は功名心だけは人一倍だ。だから別に、勇者としての役割を与えてあげることにした。


「私の勇者の力を全て使っても、完全な封印は出来ませんでした。ですのでエグモント殿下、殿下の勇者の力で封印の維持をお願い致します。世界の平和は殿下に掛かっております、がんばって下さい」

「オイ待て、これ維持するの大変じゃないか?気を抜くと魔王の気配がどんどん濃くなるんだが」

「そのうち体を乗っ取られるかもしれませんね」

「はあっ?ふざけるな、今すぐこの指輪を外せ!」

「外せませんか?おかしいですね。でも魔王を封印出来るのは勇者の力だけですから、どちらにしろエグモント殿下が持っているしかないでしょう。丁度いいじゃありませんか」

「お前も勇者なんだろう?」

「いえいえ、私は真似事ですから。それに封印するのに勇者っぽい力は使い切りました」


 だから自力で何とかして下さいね、エグモント王子。


 それでも私に縋り付こうとするエグモント王子に、カミュ様が冷え冷えとした声で最終宣告を下す。


「勇者が心から聖女を愛すれば、聖女が覚醒し、勇者の力を増幅出来る。勇者であるベアトリスではなく、そこの聖女と真実の愛とやらを育めば良かろう」


 カミュ様のお言葉に、エグモント王子が項垂れる。かくして勇者と聖女は結ばれ、幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。


『ちょっとー、何処がめでたしめでたしよ、こんなの全然感動的じゃないわ!』


 忘れたくても忘れられない、不吉な声が聞こえた気がする。


『貴方も納得出来ないわよね、エグモント!さぁやり直すわよ!』


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