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 轟く雷鳴、強烈な閃光、焦げた臭いにもうもうとけぶる白煙。煙が薄れて視界が開けると、エグモント王子がいた場所には、真っ黒に焦げた物体が転がっていた。

 おかしいな、やり過ぎた?流石に全力は不味いだろうと思って、かなり力をセーブしたはずなのに。


 私は黒焦げの物体に近づくと、爪先でそっと転がしてみた。呻き声が上がる。よし生きてる、大丈夫だ。

 その場にしゃがみ込んで治癒の魔法を施すと、焦げた部分が次第に薄れてゆき、エグモント王子の生意気そうな顔が現れる。息もしてるし、あ、目も開いた。うん何の問題も無いね。


 治癒の魔法を終えて、私は立ち上がろうとした。その腕をガッと掴まれる。


「何か?」

「なっ、おまっ、オレ様を殺す気か!」

「ご冗談を。あの程度で勇者は死んだりしませんわ」


 オホホ、と優雅に笑ってみせると、エグモント王子の顔が青褪めた。黒くなったり青くなったり、忙しいことだ。

 私は呆然としたエグモント王子の手を離し、今度こそ立ち上がると、国王陛下に向かってカーテシーを披露する。こちらも真っ青な顔で、座っていた椅子から転げ落ちそうになっている。


「拙いものをお見せしてしまいました。今のは勇者のみが使える雷の魔法ですが、まだまだ研鑽が必要ですね。もっと威力を高めてから、改めてエグモント殿下に挑もうと思います」

「お前、本気でオレ様を殺す気か!?」

「だから死にませんよ。エグモント殿下には私の魔法など、効くわけがないのでしょう?かすり傷程度で済みますわ。それよりも陛下、私は勇者のみが使える魔法を披露致しました。私を勇者だとお認め頂けますか?」

「いや、でもお前、聖女の治癒魔法も使ったじゃないか!聖女で勇者だなんておかしいだろ!」


 うるさいな、私は国王陛下とお話してるんだけど。ちょっと黙っててくれないかな。さっきから話が進まないじゃないか。

 私がひと睨みすると、エグモント王子は更に血の気が引いて、顔面蒼白になった。這うように国王陛下の側に移動して、椅子の背に隠れる。よし、そのまま黙ってじっとしてろ。私が笑顔を向けると、国王陛下共々ヒイッと悲鳴を洩らした。


「先程の治癒魔法は、聖女が使う光属性のものではありません。水の魔法の一つです」

「で、でも光った……」

「気のせいです」

「で、でも」

「気のせいです。それか、単なる水の煌めきです」

 

 嘘ではない。水魔法をベースに、光魔法の治癒効果を上乗せしただけだ。

 

 百回の人生のうちの半分以上を、私は魔法の研究と研鑽に費やした。勇者エグモントが遊び呆けてまるで当てにならなかったので、私だけでも魔王を封印出来ないかと努力したのだ。そのため私は地火風水の四大属性と光属性の魔法を全て、無詠唱でぶっ放せるし、五属性の魔法を様々に組み合わせたオリジナル魔法も多数開発している。

 でも、そこまでしても魔王の封印は出来なかった。勇者の特別な力を使わないと魔王は封印出来ないと、駄女神が決めたからだ。この世界を創造した女神なのだから、世界の理も変えれば良いのにと思っていたが、そう都合よくはいかないらしい。


 最初に設定した理を変更するためには、煩雑な手続きと、膨大なエネルギーが必要なのだとカミュ様が教えてくれた。だからこそ神は世界を創造する時、よく考えて理を定めるものだが、駄女神は面倒なその作業を適当に済ませたのだろうと。やっぱり全ての元凶は駄女神だ。世界の命運を、たった一人に背負わせようというのがそもそも間違いだ。

 だからカミュ様にお願いして、勇者を増やしてもらった。今の私は正真正銘、カミュ様に力を授かった勇者なのだ。


「これで足りないようなら、四大属性の究極魔法を順にお披露目しましょうか?勇者には武勇も必要だと仰るなら、騎士団長と一騎打ちも致しますよ?身体強化を掛けて良ければ、一個師団が相手でも私は構いませんが」


 私が言葉を重ねるごとに、国王陛下が顔色を無くしてゆく。このくらい、勇者なら当然出来るよね?もちろんエグモント王子も出来るよね?


「い、いや、今日はエグモントの誕生会だ、祝いの席で死者を出す訳には……いや予定が!予定が決まっておるからな!今日は予定通りに過ごさねば!ベアトリス嬢が勇者かどうか──勇者だと認定するのは、また日を改めて!そういう事で良いか、公爵!!」


 国王陛下、どうして私じゃなく父に確認するのでしょうね?私と目が合う度に、慌てて逸らすのはマナー違反では?

 話を振られた父は、私の隣に戻ってきてくれた。ぽんと肩に手を置かれ、恐れられていないことに安堵した私は父を仰ぎ見た。三日月のように細められた父の目が、私を見つめている。

 あっ、これお怒りだ。

 私の肩に置かれた手に、徐々に力を込めながら父が言う。


「陛下のお望みのままに。我が娘が勇者かどうかは、改めて場を設けて吟味して頂きましょう。それまでにワタシも、娘とじっくりと話し合っておきますので」


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