勇者と魔女3
3人はナルと別れ自分たちの依頼主が待つ街へ歩いていた。
「本当にいいのかい?このまま帰っちゃって。」
「仕方ねぇ。ありゃ化け物だ。」
先ほどナルの前で話をしているときは平然を装っていたがリーダー格の男『ベルト』はいつもの3人になるとナルとの戦闘で感じたことを正直に話し始めた。
「今まで何人もの同胞を葬ってきた魔女だぞ。その魔女を守ろうとしてるやつなんざただもんじゃねぇとは思ったが…。
しかも魔女も慕ってる感じだったし守るってことはその魔女より強いってことだ。
お前らならわかるだろ?俺は最初から全力だった。全力で一撃でかたをつけるつもりだったんだ。
それがどうだ?全部防がれた上に息一つ切らしちゃいねぇ。おまけに俺ら全員を倒すほどの魔法の多重発動だと?」
黙って聴いていた2人『バルナ』と『ボルス』はベルトの話を聞いて少し苦い顔をしていた。
認めたくはないが理解しているのだろう。支援にまわっていたとはいえ一緒に戦い実際に目にしたのだから。
「只者じゃねえよ。今後敵になるかもって考えたらゾッとするぜ。」
「でもどうするのさ。私たちの街の場所まで教えちまって。街にもしものことがあったらどうするんだい。」
バルナはベルトの最後の行動に納得がいってなかった。あっさり負けを認めてしっぱ巻いて街へ逃げるのも嫌だがまさか自分たちのリーダーが敵を街へ招いてあまつさえ助けになろうなんてことまで言っていた。
魔女とそれを守る勇者?もしその2人が街で何か問題をおこしたら招いた自分たちの責任になるのではないのか。そんなのたまったもんじゃない。
ボルスは2人の話を聞いてはずっとうんうんと頷いている。
「あんな小僧放っておくほうが危険だ。住処も居場所もわかんねぇ。強さも未知数なんて恐ろしいだろ。
だったら敵じゃなくて俺たち側についてくれねぇかなと思っただけさ。敵なら凶悪だが味方なら心強い。
ギルマスにも同じこと言うつもりだ。」
「なっ!!けど味方になる保証なんてないじゃないか!あたし達…あの子が守る魔女を捕らえようとした訳だし。」
ベルトから予想外の回答が帰ってきたためか思わず声を荒らげてしまう。
「どっちだって一緒だろ。味方になる保証がないって言ったら敵になる保証もない。」
ベルトは相変わらずうんうんと2人の話に頷いている。
「そうだけどさ…」
バルナも納得したのかはたまたこれ以上の話は無駄と思ったのか、それ以上は何も言わなかった。」
「あとはあの兄ちゃんがちゃんと街まで来てくれるかだな…」
3人は今後の方針を話しながら街へ向かった。
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「た、だだいまです〜…。」
「ナル?なんでそんなよそよそしいの?」
「いやぁ…別にそういう訳じゃ…ないんだけど…」
(この子はほんとに自分がどんな存在かわかっているのだろうか…。)
現在ナルとイヴは森をぬけ街へ入るとメインさんが待つ宿へと戻ってきた。
イヴが自分の仲間で悪い子じゃないのは分かってるけど自分がどんな存在か把握して欲しい…。
「はぁ…」と溜息をつき頭を抱えるナルを見てイヴはハテナマークを浮かべている。
「おや。今日は早いおかえりなのね。」
2人がそんなにやり取りをしていると2階からメインさんの声が聞こえてきた。
掃除でもしていたのだろうか手にはゴミ袋と雑巾が握られている。
「いや…」と言いかけたところで「初めまして!」と遮るようにイヴが挨拶する。
「はぁーん…なるほどね」、とメインさんはニヤリと笑うと「初めまして」とイヴと軽く挨拶を交わしていた。
「まあまあ立ち話もなんだしとりあいずお風呂でも入ってきたら?」
メインさんにそう言われ自分の体をよく見てみると服はぼろぼろになり体中傷だらけである。
一応出血していた部分は回復魔法で止血してあるが服の汚れなどは落とせていない。
「ナル…怪我大丈夫…?」
自分のせいで怪我をしてしまったと思っているのだろう。心配そうにイヴがつぶやく。
「大丈夫。これくらいどうってことないよ。」
「イチャイチャしてるところ悪いけどさっさと入った入った!」
メインさんはそう言うとイヴを脱衣所まで連れていく。もちろん俺は自分の部屋でシャワーだ。
「気さくで良い人ね。」
「あぁ。まだあって2.3日しか経ってないけど俺もいい人だと思うよ。」
お風呂から上がり椅子に座って待っているとメインさんが紅茶を持って来てくれたので今日の出来事を話す。
イヴが魔女だと話したときはドキドキしたが帰ってきた返事は「あら。わかってるわよ。そんなこと。」
と返される始末だ。
(いったい何者なんだこの人…。)
「なるほどねー。それで2人はめでたく結ばれたって訳ね。」
「ちょ!」「む、結ば…え!」
「変なこと言わないでください!」
「ふふっ。2人して面白いわね。それでその冒険者を追って次の街に行こうって事かい。」
「そ、そうです。魔王の手がかりもないですし、その街がどんな所か気になりますし…」
こっちの世界にきて一番最初に来るのはこのエルンの街だ。始まりの街がこんなに廃れているにも関わらずさっきの人達は割とまともな装備をしていた。
あの人たちの言っていた街は栄えているのか?だとしたらなぜここはこんな状態なんだ。
ナルにとって先程の戦闘と会話には疑問が多すぎた。
それを解決するためにも早急に次の街へ向かう必要があった。
「あら。ナルは魔王のこと何も知らないの?」
先程のメインさんの言葉が残っているのか少し顔を赤くしながらイヴが声をかける。
「イヴは何か知っているのか?」
「勿論、ずっとあそこにいたとはいえこの世界に住んでるんだもの、話くらい聞くわよ。それに…」
そう言うと少し悲しそうな顔をしたので気にはなったがイヴは「んんっ」と少し咳払いをすると話始める。
「私も実際見たりしたわけじゃないんだけどこの世界にはね昔話があってね。」
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今からおよそ200年前。
ある日魔王が誕生する。
魔王の誕生はユグドラシル守護官の報告によりすぐ世界中に知らされた。
魔王は生まれたばかり、力や知識を身につける前に早急に討伐しようという話が上がり多くの勇者が魔王討伐を名乗り出た。
みな平和ボケせずいつ魔王が現れてもいいように鍛えてきたもの達、それ故に魔王討伐もすぐに終わるだろうと思われていた。
しかしいつまでも魔王が倒されたとの報告はない。それどころか意気揚々と出かけた勇者は誰一人として帰っては来なかった。
皆に不安が募るなか街を守る警備兵があることを言い始める。
「魔王誕生の時に比べて魔物が強くなっている。」
警備兵は勇者ではない。
街の治安を守ったり討伐ランクの低い魔物退治くらいしかできない。
そのため最初は強い魔物が街に進行してきているものだと言われたがいつしか最弱とまで言われていたスライムにすら負けるものが出てきたことから魔物が強くなったという話はしだいに大きくなっていった。
そんなある日魔王討伐に出ていたうちの1人が瀕死の状態で発見される。
皆が駆け寄り声をかけるが勇者はかなりのダメージがあるのかうまく喋れていない。
回復魔法を得意とする者たちが治療に入るが普通の傷ではなかった。
腕はちぎれ、体中の傷口が黒く侵されているのだ。
長い間治療は続けられたが一向に良くなる気配がない。
そして勇者の体はどんどんと衰弱していき最後に一言残して命を落としてしまった。
「皆…喰われちまった。」
それが勇者の残した最後の一言だった。