勇者と魔女2
「行くぞ!エアリアルスラッシュ!」
オールレンジを使い今回はエアリアルスラッシュを同時発動&連続発動する。
このエアリアルスラッシュで勝負を決めるつもりはなくできるだけ相手が避けれないようにするのが目的だ。
「なんじゃこりゃ!くそ!」
リーダー格の男は急に飛んでくる風の刃をなんとか自身の剣を使って防いでいる。
それを見て後ろの2人が援護しようと防御魔法や相殺するための魔法を放とうとしている。
もちろんそんなことを許すつもりはないので俺は2人の目を塞ぐために目の前に土属性の壁を出現させる。
「な!邪魔だね!この!」
2人は使う準備をしていた援護用の魔法をすぐに切り替え目の前の壁を破壊するための魔法に切り替える。
なるほど状況把握と機転は効くみたいだな。すぐに体制を立てなおそうとする行動に関心したが、ナルにはこの一瞬のタイミングだけで十分だった。
「エクスプロージョン!」
・エクスプロージョン
爆発魔法。術者の目の前で爆発が起きるので射程が短いがその分発動までが早く威力が非常に高い。
普通であれば至近距離でしか使えない魔法だが、オールレンジを使えば相手の周囲に発動するこどができる。
ほんとこのスキル便利ですわ〜!!
「っぐぅ!」
しかしリーダー格の男も自身の周りに魔法陣が現れるのを見て瞬時に察したのか魔法を‘‘弾く’’ではなく
魔法から‘‘守る’’体勢にシフトチェンジした。
だがその守りの体勢に入るのをナルは待っていた。爆発の衝撃に紛れ相手の懐に潜り込む。
爆風が晴れて相手が守りの体勢を解いた瞬間を狙って炎を纏った拳バーンナックルをくらわせる。
「ぐおぉおっ!ごふっ…」
ギリギリの所でナルの拳を防いだが勢いを殺しきれず吹き飛ばされ先ほどナルが出現させた壁に衝突する。
ちょうどそのタイミングで敵の魔法使い2人も壁を破壊することに成功する。
「ちょっとちょっと!大丈夫かい!?」
「あぁ…わりぃ。ちょっと油断しちまった。」
「思ったよりやりますね…あのガキ」
「お話してるところ悪いけどそろそろ諦めてくれないかな?」
「なっ!どう言うことだこれ…」
3人がお互いの状態を話している隙にオールレンジを使って3人を囲うようにフレアランスが待機している。
自分の見えているところにしかつかえないので3人の後ろの方にはフレアランスの魔法陣は出ていないが正面は埋め尽くされている。つまり今3人組ができるのはナルの攻撃を全弾喰らうか逃げるかの二択と言うことになる。
「っち!防御魔法を全力で展開するよ!」
「おうよ!」
後ろで援護をしていた2人は防御に徹してこの場を乗り切るつもりだ。
正直ナルとしてはさっさと諦めて欲しい所なので抵抗されるとむしろ困る。
全弾受けきるというのはあまり考えたくないがもしものことを考えて次に使う魔法の準備をする。
「待てお前ら。俺らの負けだ。」
2人に対してリーダー格の男は剣を鞘にしまうとあっさりと負けを認めた。
「ちょっと!いいのかい?」
「いいも何もねぇ。この状況じゃたとえこの魔法達を受け切ったとしても無傷じゃ済まね。
それにあの兄ちゃん…つええぞ。ちょっとしか戦っちゃいないが…よくわかった。」
「まぁ…あんたがそう言うなら…」
少し不満そうな顔をしたがリーダー格の男がそういうと周りの2人も戦う体勢を解き展開しようとしていた魔法も解除する。
「全く。魔女っ子退治にきたってのにまさか野郎と戦う事になるなんてなぁ…。一体何者だぁ?兄ちゃん」
戦う意思がなくなったのを感じ取ったのでナルも展開している魔法を全て解除して質問に答える。
「ただの勇者だ。」
「ただの勇者ねぇ?なんでその勇者様が魔女の味方なんてしてんだ?」
戦闘が終わったことがわかったのかイヴは隠れていた氷壁から姿を見せる。
「ナ、ナル?」
「大丈夫だよ」
不安そうな顔を浮かべる彼女に優しくそう声をかける。
「あなた達に何があってどんな依頼で彼女を捕らえようとしているのか知らないけど、僕は彼女のことをそんな危険な存在だと思ってないんでね。」
自分のことを危険じゃないと話すナルに対して相手側ではなくイヴが反論にしそうになったが
すぐ自分を守ろうとしているとわかったからか何も言わなかった。
少なくとも数時間前まではナルのことを完全に敵とみなして殺そうとしていたのに魔力を使い果たした自分を見捨てるどころか助けようとしているナルに対して今まで出会った人間とは違うという感情を抱いていた。
「依頼を受けた勇者でも冒険者でもないってことは兄ちゃん最近この世界きた口か?」
「こっちにきたのは2日前だけど…」
ナルの発言に敵だけではなくイヴも少し驚いた顔を見せる。
「コイツァ驚いた。まあそんな最近なら知らねえのも無理はねえ。いいか?そいつはな今まで多くの勇者や冒険者の命を奪ってきたやつなんだ。その中にはもちろん俺の仲間や知り合いもいた。わかるか?危険なんだよ。そいつは。悪いことは言わねぇ。そいつの味方をするのはやめとけ?」
その言葉を聞きイヴは下唇を少し噛み悔しそうな顔を浮かべている。おそらくこいつらの言っていることは事実なのだろう。その証拠にイヴは悔しそうな顔を浮かべるだけで何も言い返さない。
「え?いやですけど。」
「なに?」
相手よりイヴの方が驚いている。
「さっきの話聞いてなかったのか?放っておくわけにはいけないんだよ!」
「聞いてたさ。聞いた上での返答だ。」
「何を企んでやがる?」
「別に?何も企んでなんかいないよ?ただ…俺は仲間も知り合いも殺されてないし、俺が知っているのは
ちょっと気が強くて人一倍警戒心が強いただの女の子だってことだけだよ。そんな子をよく知らない上に捉えて依頼主とやらに受け渡そうとしているあんたたちに渡す方が俺からしたら無いね。」
「はぁ…まあお前の言ってることも一理ある。だが知らんぞ?そいつに恨みを持っているのは俺らだけじゃねえ。気をつけな。」
「心配してくれるのか?」
「まあな。こんな世界だ。人間いつ死ぬかわからねぇ。みんな命はって生きてんだ、その嬢ちゃんだってやらなきゃやられる状況だったんだろう。俺だってそんくらいわかってるよ。」
リーダー格の男は恨みや悔しさもあるがそれ以上にこの世界の状況をよく知っているのだろう。
それ以上敵意を出してくることはなかった。後ろにいる2人も同様に少し曇った表情をしている。
「お前らこの先どうすんだ?」
「うーん。まぁ僕はのんびり魔王の手がかりを探りつつ旅をしていくつもりだよ。一応勇者だからね。」
「そうか。ここから北に進んだところに俺らの街がある。もしそこまで来るってんならそこの【メイカー】っていう店を訪ねな。」
3人組は「じゃあな」と、そう言うと自分たちがきた方向に向かって歩き始めた。
(別の街か…先のことを考えるなら行っておいたほうがいいかもしれないな。)
「にしても急に現れてすぐ帰って行ったなぁ…」
急に不意打ちを仕掛けてきたりあっさり負けを認めて帰って行ったりまるで嵐のような人たちだった。
「ナル?」
流石に色々起きすぎてため息をついているとイヴが心配そうにナルの顔色を伺いながら声をかける。
「あ、あぁごめんね。少し考え事をしてた。どうしたの?」
「いや…その…」
イヴは少し言い辛そうに目を逸らしながらモジモジとしている。
「あ、ありがとう!その助けてくれて。それで…」
少し間を開けて意を決して質問する。
「ナ、ナルはこのあとどうするの!?」
この後の予定を聞かれるとは少し予想外だ。ナルも少し考える。
一度メインさんのところには帰るとしてその後だ。正直この森は大体調べたのでそろそろ他のところに足を進めたいとは思っている。それこそさっきの3人が言っていた北にある街とやらには是非とも行ってみたい。
もともとイヴと仲良くなるために今日この森に来たわけだが最初よりは話してくれるようになったし仲良くはなれたと思っている。なので街へは行きたいがこのまま別れるのは少し寂しい気がした。
しかしそんな事言ってられないのも現状である。普通ならばまだこちらきて2日だ。ナルのように次へ次へと行動していく勇者は多くない。念入りに散策したりその世界の情報を集めたり次へ進む準備をしっかりとしてから進むものだ。だがナルは「聞くよりみろ。習うより慣れろ」の精神なのですることがなくなったら次へ進むをモットーにしている。
(うん。少し寂しい気はするけど準備が出来次第北の街へ行こう。それに会おうと思えばいつでも会えるからね。)
「一度泊まっている宿に帰ったらそのあとはあの3人が言っていた街に行くつもりだよ。」
「そ、そうなんだ…」
再び沈黙。
ナルも何を話していいのか言葉が詰まる。
「あ、あのさ!」
するとイヴが少し頬を赤くしながら話しかける。
「私も一緒に行っちゃ…ダメかな?」
何…だと?
願ったり叶ったりだ。断る理由がない。むしろ嬉しい。是非とも一緒に旅したいものだ。
しかしナルも紳士だ、こんなことで浮かれない。ここはスマートにできる限りかっこよく返答しよう。よし。
「危険な旅になる。それでもいいのかい?」
「すごくにやけてるけど。どうしたの?」
全くスマートじゃなかった。どうやら僕は気持ちを隠すのが苦手なようだ。
嬉しさが顔に出てしまっていた。
「いやー、あはは…でも本当に危険だよ?いいの?」
「大丈夫!ナルを見てて私もいつまでもここに留まってちゃダメだと思った。いつまでも閉じこもってちゃダメだって…。まだお互いのこと全然知らないけれどナルと一緒なら!って思ったの。」
なぜここに留まっていたのかはわからない。けど何か彼女の中で覚悟を決める出来事があったのだろう。
それなら俺も力になりたいと思った。
「わかった。じゃあ一緒に行こう!」
「うん!」
ずっと1人で旅をしていたので急に2人になると思うと思わずドキドキしてしまう。
「これからよろしくね。」
ぎこちない顔でお互いの顔を見て笑うと2人はエルンの街へ向かって歩き出した。