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Catch81 神風は吹いていた

切羽詰まると次第に非科学的に傾斜する現象はいい加減ウンザリします。

 第二次世界大戦末期に劣勢どころか勝ち目が全く無くなった日本が、苦し紛れに繰り出した恐怖の攻撃方法「神風(しんぷう)特別攻撃隊」。通称の「カミカゼ」や「特攻」「特攻隊」の方が知られているかも知れません。


 爆弾を積んだ飛行機でそのままアメリカの軍艦に突っ込み損害を与えようという、マトモな近代戦の軍人ならば思い付かない愚かしい戦術でした。


 この「カミカゼ」が初めて行われたのは1944年10月にフィリピン南部で起きた「レイテ沖海戦」です。フィリピンを日本から奪い返す為に南部のレイテ島に近づいていたアメリカ軍を、日本軍がなけなしの軍艦を総動員して三方向から攻撃しようとした戦いでした。


 この作戦を援護するべく、既に旧式で役立たずになっていた零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦)で少しでもアメリカ軍に損害を与えようと「体当たり」をさせた訳です。


 「最初から体当たりするつもりで突っ込んで来る飛行機」の攻撃はアメリカ側の意表を突き、軽空母1隻を撃沈するなどそれなりの戦果を上げてしまいました。「これは行ける」「アメリカはこれからも特攻で被害を出し続けるに違いない」と思い込んだ日本は、以後終戦まで延々と特攻を続けました。



 「神風」の名は良く知られている通り、鎌倉時代にモンゴルが九州に攻め寄せて来た「元寇」の時に台風がモンゴルの乗って来た船団を直撃してモンゴルが敗退したという故事に因んだ物です。「神が日本を守る為に嵐を起こして助けてくれた神の風だ」と捉えた「神風」と呼ばれた物です。


 モンゴルの襲来は余程に恐怖を与えらしく、西日本一帯では良く分からないお化けの事を指して「むくりこくり」と呼ぶ言葉になりました。「むくり」は「モンゴル」、「こくり」は朝鮮半島の高麗王国を意味する「高句麗(こうくり)」の事です。


 第二次世界大戦でも、科学的に考えれば最早勝ち目など無くなっていたのに、日本の戦争指導者たちは「元寇の時みたいに神風が吹いて日本は勝つ」と言って国民を励まし続けました。


 「~だろう」「◯◯に違いない」と希望的観測・願望と科学的・合理的な判断を混同して根拠の無い楽観論が雰囲気を作る、慎重論を「臆病者」扱いして事態が破滅へと進んで行く、という現象は、昨今のオリンピック問題でも見られます。


 結局日本中が熱望し続けたにも(かかわ)らず、神風が吹く事は無く日本は負けた、事になっていますが、実はちゃんと「神風」が吹いていたのをご存知でしょうか。


 先ほどのレイテ沖海戦で日本が敗退した後、アメリカは本格的にフィリピン攻略に取り掛かります。レイテ沖海戦から2か月程経った1944年12月に、フィリピンの東側海上に展開して陸上の戦いを支援していたハルゼー提督の艦隊を猛烈な台風が襲ったのです。


 後に「コブラ台風」「ハルゼー台風」と呼ばれる季節外れの台風に巻き込まれたハルゼー艦隊は、駆逐艦3隻が沈没した他、軽空母や巡洋艦・護衛空母などに次々と損害を出し航空機や乗員が波にさらわれた結果、多数の死傷者を出す大惨事となりました。


 死者・行方不明者だけで790名、はっきり言ってレイテ沖海戦の飛行機による「神風」より余程損害を与えています。


 「神風」は吹きました。しかし戦局は全く(くつがえ)る事は無く日本は負けました。


 鎌倉時代にモンゴルの軍船には通用した神の力が、700年後の技術の進歩に敗北した、という事なのでしょうか。

原爆が投下され立ち(のぼ)った原子雲は「むくりこくりの雲」と呼ばれました。

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