Catch72 幕府
毎度大河ドラマは初めの方はいい出来なのですが。
「今晩は、徳川家康です」
嘗て無いメタフィクショナルな出だしで始まった今年の大河ドラマ『青天を衝け』。江戸時代260年を支えた徳川体制の崩壊と、欧米列強の存在を意識した“新しい国家”としての日本の再生を、崩れつつある旧体制を作り上げた本人に解説させるとは、正にうってつけの人物を起用した物です。
願わくば『八重の桜』の様に主人公の明治期に於ける活躍をろくに描かず「ほぼ幕末モノ」とならない事を。
第二次世界大戦中、開戦当初の政権だった東條英機内閣は、戦局の悪化に伴って総理大臣と陸軍大臣と陸軍参謀総長を東條が兼任する事になり「東條幕府」と揶揄されました(尤もこの内閣は成立当初から大臣のなり手に苦労しており東條はほぼ常に文部大臣やら外務大臣やら何かしらの大臣職を兼任し続けていました)。
「幕府」とは「本来の日本の主権者である天皇から実務の一切合財を任され執り行う政治機構」だったと言えます。
行政だけで無く軍事分野で軍政(予算や軍備)と軍令(実際の作戦指揮)を独占した東條英機は、正に「(夷狄たるアメリカを打ち払う)昭和の征夷大将軍」だったのかも知れません、討ち払えませんでしたけど。
元々「幕府」なるけったいな機構が日本を統治する事になったのは律令制度の形骸化が原因でした。
奈良時代に大陸の政治制度を背伸びして作ったのが天皇を頂点に据えた法治体制である「律令制度」です。
ところが行政を支える官僚機構、太政官は各役職が「家柄」で世襲する様になり、一方で国の収入源である農地は「荘園」という貴族や寺社の私有領地になって行き、農地の開墾者で管理者「武装農民」=「武士」が次第に治安も担当する風に変わりました。この間、法的根拠である律令は全く変化は有りません。
新しく出現した「武士」は律令体制の下で権利が無いに等しく、その権利を保証してくれる「武士の為の機構」が必要になりました。
長らく権力を手にする為に武力を用いる事が無かった平安時代でしたが、その末期には天皇家・摂関家の家督争いでついに武力が発動しました。保元の乱です。次いで宮中の主導権争いまで武力でケリを付ける様になり(平治の乱)、実動部隊の指揮権を持つ武士が階級として政治的発言力を高めました。
しつこいですがこの間、律令に変化は有りません。
法律を変えずに武士を統御する機構を新たに造り出す必要が生まれ、編み出されたのが「幕府」だった訳です。
戦時下に占領地の行政権を占領した軍勢を率いる将軍に一時的に与える中国の制度だった「幕府」を、拡大解釈に拡大解釈を重ねて「武士を統括する恒常的な機構」にしてしまえという発想はどうも貴族っぽい気がします。
源平合戦の激動を生き抜いた摂関家の御曹司・九条兼実、或いは草創期の鎌倉幕府を支えた凄腕官僚・大江広元のどちらか或いは双方が発案者ではないか?と昔から言われていますが真相は歴史の闇の向こう側です。
次は中世を代表するけったいな制度「院政」について。