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Catch71 センチメンタルな男たち

映像や音響の技術が進んでも、描く内容が薄くては物語として残念な作品にしかなりません。

 私は映画は映画館で見たい方です。DVDはたとえホームシアターと言えるくらい良い設備でも映画館で鑑賞している時のワクワクする感じは味わえない気がしています。


 物語や作品を知るだけならホームシアターでも変わらないハズですが、劇場という特殊な空間で見ず知らずの人たちと同じ映像作品を鑑賞し同じ感動をする、同じ時間を共有する、という辺りに決定的な「違い」があるように思うのです。



 大島渚監督の代表作『戦場のメリークリスマス』はとても優れた映像作品です。随分前ですが、私は幸いにも新宿でやっていたリバイバル上映を劇場で観る事が出来ました。今は無き「東急スクエア」館の壁一杯に『何をしでかしてくれるか、大島軍団』というキャッチコピーと共に主演の4人(デヴィッド=ボウイ・トム=コンティ・北野武・坂本龍一)の巨大な写真が貼られるという、ものすごいプレゼンテーションでした。


 原作者のヴァン=デル=ポスト氏は作中のローレンス中佐のモデルとも考えられている、複雑な経歴の方です。イギリス領オレンジ(現在の南ア)の出身ですが早くに国を飛び出しアフリカ各地の農業経営や著述をしていました。


 第二次世界大戦の南方戦線オランダ領インド(今のインドネシア)で日本軍の捕虜となり、収容所で通訳や簡易学校の運営責任者のような事をさせられた事もあるようです。正に映画の中のローレンス中佐です。


 戦後、イギリスでチャールズ皇太子の家庭教師を務め、テレビでは旅番組の司会者となり、世界中をアチコチ旅行し、その体験や環境問題に関する著作で揺るぎ無い名声を得た人です。


 彼が『戦場のメリークリスマス(英題Merry Christmas Mr. Lawrence)』の原作の1つ、『影の獄にて』(1954年)で提示したのは「西洋文明とは異なる文明の担い手である日本」とその独自の美学です。


 「日本は野蛮な“黄色い猿”などではなく、我々ヨーロッパ人とは違う価値観を有する文明人なのだ」と暗に示した日本軍人たちとのやりとりは「日本を美化し過ぎだ」と批判を浴びましたが、一方で妙な説得力を持っています。


 当時のヨーロッパ世界では“ヨーロッパではない”イコール“野蛮人 (非文明人)”という、雑把な文明観が罷り通っていたのです。


 結局彼の暗示した物はヨーロッパが潜在的に持っていた「東洋への憧れ」(私は“ジャポニズム”を初めとする表には出ないヨーロッパの日本に対するこうした“好意”或いは“買い被り”が列強による日本の植民地化をギリギリで防いだ一因ではないかと思っています)を地味に刺激する事になったような気がします。


 原作の忠実な映像化ではなく、大島渚監督がこうした“異文明の衝突”という部分を汲み取り、男たちのセンチメンタルな心の動きをドラマとして独自の脚本に仕上げたのは素晴らしい作業でした。


 最後の怒号に振り返るローレンスと一緒に、映画を観ている私たちも一気にあの収容所での日々に引き戻され、「戦争の結末」のやるせなさを強く感じさせらる演出は何度(DVDで)見ても涙が滲んできます。坂本龍一さんが担当した音楽も効果を倍増させています。色々な意味でスケールの大きな名作でした。

映画館にまた行ける日常が早く戻って欲しい物です。

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