Catch7 ガーリック
言葉と歴史と勘違い…
巣ごもりが続く中、先日アヒージョを作っているときにふと気になった事がありました。
“ガーリック”って何なのでしょう。
ご存じの方も多いでしょうが「アヒージョ」というのはスペイン料理でオリーブオイルとニンニクで色々な物を煮込んで作るエスニック料理です。
スペイン語でニンニクは「アホ」(ajo)。アホ(ニンニク)を使った料理の事です。スペイン語では牛肉の事を「バカ」というそうで、料理研究家の平野レミさんが“バカのアホ炒め”という絶対に日本語で考えてはイケナイ料理を発表していましたっけ。
で、ajoです。英語でニンニクは“ガーリック”です。
ガーリックって何なのでしょう。
普通英語で「~イック」という時、その意味は「~風」「~っぽい」「~的」ということを指します。“ストイック”とか先ほど出た“エスニック”とかですね。そうすると「ガーリック」とは“ガール風”となります。
大体「ニンニク」なる食材の呼び名が「~イック」というのはこの時点でおかしい訳です。“ドイツ風ステーキ”だの“イタリア風オムレツ”だの(←適当に書いただけで本当にそんな呼び名のメニューがあるのかは存じません)という場合、料理の名前にはなっても食材が「~風」というのはどうにもおかしい。
私は「ガーリック」=「ガール風」といった場合の「ガール」とはgirl(女の子)ではなくgard=ガリア、つまり現在のフランスの事なのかなぁと思っていました。
南仏に今も残る古代ローマ時代の水道橋「ポン=デュ=ガール」(ガリアの橋)などは映像や写真で見たことがある方も多いでしょう。あの「ガール」です。
中世のイギリス(ブリテン島といった方が正確かしら)はフランスの封建領主だったノルマンディ公の征服を受けて南部主要地域にノルマン朝イングランド王国が成立し、その後“本国”たるフランス王国の王位を要求して始まった百年戦争を経て大量にフランス由来の文物・食文化を取り込んでいった結果、ニンニクを豊富に使った料理を「ガリア風」と呼ぶようになり、さらには食材そのものを「ガーリック」と呼ぶようになったのではないかと思ったのです。
中世初期のキリスト教聖職者の報告に「彼ら(ガリア人たち)のニンニク・タマネギ臭い息に顔を顰めない様に愛想笑いするのはこの上ない苦痛だ」などと書かれているように、ローマ崩壊から神聖ローマ帝国が成立するまで(AD476~962)の過渡期にヨーロッパの北西部に居住するゲルマン・ガリア人たちはかなりスタミナ重視の食生活をしていたのではないかと。だからニンニク=フランス風。
ところがこれがとんでもない早とちりで、garlicとは英語教師をしている知人に聞いたところ古英語でgarleakと綴っていたのだそうで、その意味する所は「槍みたいに尖ったニラ」。Leekはニラとかネギですが、くっつけた上にスペルまで変えられては門外漢にはこの正解にはたどり着けません。
ガールもガリアも“~風”も全く関係なし。
そもそもローマ世界の標準語だったラテン語を母体とするヨーロッパ大陸諸国の言葉(イタリア語・フランス語・スペイン語など)と英語は“非共通性”が目立ちます。
先ほど例に挙げた「橋」などは大陸側諸国の言葉では大体「ポンテ」「ポン」「ポントス」などラテン語由来とその転訛かなあと想像がつくような似通ったスペルと発音を持つのに英語では「ブリッジ」です。「白」なら同様に「ブランコ」「ブラン」「ブランシェ」なのに英語では「ホワイト」。
何ですか「ブリッジ」って。「ホワイト」って。
「ブラン何とか」は一応英語にもありますが、意味は「白色」ではなく「空白」(blanc)です。
英語は大陸諸国の言葉とは違い、文法や話法が単純なので外国人が覚えるのは比較的容易な言語ではないかと思います。しかし綴り(スペル)が発音とかなり一致しないとか「ニンニク」問題のようにあまり法則的ではないなど、ヨーロッパ大陸に広がる“ラテン語由来”の言葉とはかなり違うので、時々妙な勘違いをしてしまう事があります。
言葉ってつくづく面白いと思います。