Catch67 守る者は
虐待事件や殺人事件は多すぎて「そんな事あったっけ」になり掛かっているのが怖いと思います。
2016年に狭山市で虐待を受けていた三才の女の子が熱湯を浴びせられて火傷で死亡する事件が起こりニュースになった事がありました。
当時の報道によれば幾度も近所からの通報を受けた警察が確認に行っており、亡くなった女の子に異常がない事を確認しているそうです。死亡時に女の子には顔の火傷とアザ、全身に及ぶ虐待の跡があったといいます。だとすると警察が行なった「確認」とやらは一体なんだったのでしょう。警察は何を「確認」したのでしょうか。
仮にまともな「確認」をせず(例えば玄関口に出てきた“犯人たち”に「確認」し、「やってません」→「ああ、そうですか」程度だったら殺されて事件になるまでエスカレートするのも当然です)、「異常なし」と判断したり報告書を作成したのであれば虚偽報告になります。
さらに警察は市役所の福祉課にも児童相談所にも情報を回していなかったそうです。縦割り行政の弊害などというレベルではなく、「子どもの命を守る」という意識が欠落しているとしか思えません。
民間人には「虐待かなと思ったら通報を」と呼びかけておいて、いざ通報があっても対応と言える対応をしない(或いは対応する能力がないのでしょうか)のでは、子どもの命を守れる訳が無いでしょう。
ニュースではしきりに「警察は動機などを追及しています」と伝えていましたが、意味が無いように思います。正直に言ってこの類いの行為に“まともな動機”など無いものです。仮にあったとして、警察が「防ぐ事が出来たはずの虐待死」を防ぐ為に有効な動きをしていない事と関係はありません。
予防や再発防止は別の問題で、「動機」を解明した所で事件を処理する警察以外にはどうでもよい事です。
母親と内縁の夫が逮捕されましたが、人の親になるにはあまりに幼な過ぎる人たちです。“ストレス”だの“しつけ”だの、どんな「動機」だったとしても、抵抗する術のない幼児に死ぬほど熱湯を浴びせればただの犯罪でしょうが。要は「犯罪」にあたる残虐行為をしたいという衝動が起きた時に、自分を抑えられるだけの成熟がないのです。
児童虐待の対策は相談所に立ち入り権・引き離し措置などを認め、以前に比べればやや進歩はしています。しかしその後も同様の虐待事件は後を絶たず、にも拘わらず行政が予防に十分な予算・人員を付けていません。
せっかく通報があっても小まめな見回りを出来る程人手を用意する人件費も無ければ、保護して面倒を見たり、親の方のケアに回る人員も、保護施設や相談所を維持・運営する費用も、全く足りていないのが現状です。
完全に税金の使い方を間違えています。一体だれを守ろうとしているのでしょうか。
私の好きな少女マンガ『海街ダイアリー』(著者は吉田秋生)に大人の在り方を考えさせられるシーンが出てきます。両親が亡くなり腹違いの姉たちと暮らすことになった主人公に、血のつながりのない姉たちの母方の親戚のおばさん(広瀬すずさん主演で映画化されたとき樹木希林さんが演じていました)が掛けた言葉です。
「大人は子どもを守るものなの。まともな大人なら誰もがしてきたことよ。そしてあなたが大人になった時、自分の子でも人様の子でも同じようにすればいい。そういうものなのよ」
“新自由主義経済”を日本に導入した張本人の竹中平蔵氏が、現在パソナ(最大手の人材派遣会社)の会長になっているのを知った時も開いた口が塞がりませんでした。
竹中氏が押し進めた“新自由主義経済”とは格差固定、格差拡大社会の事です。雇用関係でその柱となったのが「派遣法」の改正で、ほぼ無限に非正規労働者を非正規のまま雇えるように変わりました。正規労働者として雇うより、仲介する人材派遣会社に手数料を払っても会社の出費は安くあがるという、「人件費」「福祉費」のピンはねです。
本来なら労働の対価として働いた人に支払われるはずの賃金をピンはねし、はねたお金を会社と人材派遣会社で山分けする仕組みを考えついた「自称経済学者」が、そのピンはね会社のトップになって給料を貰っているとは驚くしかありません。
殺されかかっている子どもたちを守る為の予算を確保出来ず、家計から賃金をくすね取り、丁度この頃には「軽減税率」と称して安倍政権が増税に踏み切りました。
子どもを守ろうとしない大人、誠実に働く民間人を守ろうとしない政治。この国、この社会は「一体だれを守ろうとしているのでしょうか」。守る者を間違えていませんか?
ミャンマーや将軍様が民族を指導する国みたいになる前に、政治を「まともな大人」にする事でしょう。