Catch55 問題無罪
韓国の司法は最近も徴用工や慰安婦問題で判断が混乱している様ですが。
近年公開され日本でも高評価だった韓国映画に軍事政権下に起こった弾圧を描いた物や87年の民主化移行を勝ち取る戦いを扱った作品が相次ぎました。
「光州事件」に関わったドイツ人ジャーナリストと、彼を光州へ運び現地を脱出して国外へ無事出国させるまでサポートしたタクシードライバーを描いた『タクシー運転手』や民主化を求める運動の中で起きた公安警察による拷問死事件と事件を暴き不正を正そうとする検察や医師・ジャーナリストと事件を隠蔽しようとする政府側の攻防を描いた『1987、ある闘いの真実』です。
独裁政権を支えるのは暴力装置としての軍・警察、法律を整え弾圧を正当化する政府・司法、国民に事実を知られない様にする情報の統制が“三点セット”ですが、民主化移行から30年が過ぎ、ようやく当時の軍事政権がしでかした暗部を扱える様になってきたという事なのでしょうか。
上記2作品以外にも優れた映像作品が相次いで発表されていますが、この2つは出演者の豪華さ、シナリオの上手さで頭一つ抜け出していました。民主化に移行したとは言え、当初は全ての人が軍事政権下で暮らしていた人たちで、特に“三点セット”に関わる人は100%「あっち側」なのですから意識や価値観が民主的な物へ置き換わって行くのに時間がかるのは当然です。
2015年の12月に産経新聞の元ソウル支局長が「朴大統領を侮辱した」という訳の分からない理由で始まった裁判で裁判所は「無罪」の判決を出しました(1審で確定)。
そもそもこの裁判自体、何で起訴まで行くのか不明瞭でキテレツな物です。
件の支局長が配信した記事は“セウォル号沈没事故”の時の朴大統領の対応について、韓国の新聞記事を引用した物で、その他に取材で引っ掛かった“男性元秘書官と密会か?”という情報を加えていました。
その後の処遇も異常な物です。ソウル支局を離れて日本本社勤務に異動した彼を「出国禁止処分」にしたせいで彼は韓国内に止め置かれ続けました。完全に意図的な嫌がらせでしょう。
引用元の新聞記事と新聞社が何も咎めを受けていないのに、日本向けに日本語で書かれたインターネットの“派生記事”を罪に問う意味が全く分かりませんでした。
この件は当初から当時政権支持率が急落していた朴大統領を慮り検察が無理を承知で起訴したのではないかと言われていました。司法が政治に配慮するなど近代国家にあってはならない事です。
始まりが問題なら結末も大問題です。無罪判決を出す前に韓国の外務省から出された「韓日関係を配慮するように」という要請書が延々と読み上げられ、「それに従いました」と言わんばかりの演出でした。しかも意趣返しの様に被告である元支局長を3時間ほど立たせ続けての「無罪言い渡し」です。
最後の意地だったのか、「だから本当は有罪なんだけど無罪にします」とは言わず、尤もらしい判決理由をくっつけていましたけど。何なんでしょう、この国は。
韓国の法律に照らして元支局長の記事が裁かれるべき物だったのならば、堂々と裁判をすればよろしい。権力におもねり被疑者に仕立て上げ、権力に強要されて罪があったのか無かったのかすらウヤムヤにする。
考えてみれば韓国という国はほんの30年前まで軍が政治を独占し事あるごとに戒厳令を敷いていた、民主主義とは程遠い遅れた政治体制だった訳です。
反軍事政権、反保守政党の立場で権力の監視をする報道で知られるハンギョレ新聞などは弾圧されても発行が可能なように分解・運び出しが出来る輪転機を使っているとか。警察や軍に踏み込まれても輪転機さえ壊されなければ地下に潜って報道が続けられるようにとの工夫だそうです。
正式な名前が何というのか知りませんが、何年か前に「植民地時代に日本に協力していた事を罪に問う法律」が出来た時も驚愕した物です。近代法の大原則の1つ、「不遡及」を完全に無視したとんでもない代物だったからです。
「不遡及の原則」とは「法律とはそれが成立して以後のみ適用される。成立以前にあった行為を罪に問う事は出来ない」という物です。当たり前でしょう。勝手に後から法律を作って「お前はこれに違反して“いた”」とか言い出されたらたまった物ではありません。その時々の権力者が思いのままに誰でも犯罪者に出来る事になってしまいます。
この「トンデモ法」は植民地時代の協力者が韓国の政財界の保守派に多いため、その勢力を弱めようとする物だったらしいのですが、「民主派」でも認識が遅れた一面を持っているという事に考えさせられました。
日本とは近しい歴史を歩み人種も文化も近い事から、つい私たちは“韓国も同じような社会なんだろう”などと考えてしまいがちですが、日本が戦後の経済再建と民主主義の定着に専念出来ていた同じ時に、韓国が軍事政権の支配下で自由を知らずに過ごしていた事をこんな形で思い知らされます。
現在ミャンマーで起きているクーデター後の反軍事政権運動を見ると、“三点セット”の内では情報統制が一番定着していない様です。軍側が外国人ジャーナリストを含めて拘束や弾圧を強めていますが、軍に協力する市民が少ないのか様々な映像が国外へ流出しています。
権力側の不都合があまり妨害されずに伝えられる事は社会の健全さを保つ物です。ましてや行政側に司法が従属するなどもっての他。韓国の民主化はまだまだ道半ばです。
権力からの司法の独立は深刻な問題だと思います。日本も怪しい物ですが。