Catch51 映画『マルクスエンゲルス』
SDGsなどはかなりいい線に行っていると思いますが、既得権を持つ抵抗しそうな人たちの理性に頼る所が大きいだけ確実感がありません。
日本でも岩波ホールその他で上映された映画『マルクスエンゲルス』。マルクスが勤め先のドイツの地方紙を弾圧で潰され、パリへ亡命してから『共産党宣言』を発表するまでの、20代後半~30前後を描いています。
原題は『The Young Karl Marx』で、正に「若き日のカール=マルクス」です。日本語タイトルを『マルクスエンゲルス』としたのはサッカー選手や映画俳優と間違えないようになのでしょうか。
話は逸れますけど私は筒井康隆さんの初期の短編に出てくる「グルーチョマルクス、ハーポエンゲルス」というフレーズが好きです。残念ながらマルクスブラザーズを知らなければこのフレーズの面白さも通じません。
閑話休題、未だにマルクス=共産主義=独裁政治という図式だと思い込み (あるいは思い込んだ振りをして)拒否反応を示す人もいますが、彼が提唱した共産主義とは“搾取の構造の解決法”でした。
共産主義を実現しようとした国家で多くの権力者が国の運営・維持の手段として独裁制を採った事とは区別して認識しておいた方がいいでしょう。資本主義の問題点が解決しない限り、マルクス・エンゲルスの説いた共産主義思想はいつまでも甦り続けるという事です。他にもっと良い格差や貧困の発生を防ぐ方法が編み出されない限りは。
理論としてマルクスの共産主義が強いのは「歴史学」「哲学」「経済学」の3つを柱に組み立てているからです。どれか1つ2つで反論しても結局マルクスの言い分を“崩せていない”様に思います。マルクス並みに全ての柱を精査しマルクスを越えた視点を持たないと、科学的社会主義の正しさを否定できない訳です。
マルクス以前の哲学は世界を分析し解釈するまででしたが、マルクスは「理解した世界をよりよく変える為の行動を起こせ」と提起しています。これは学問の在り方を180度転換する驚愕の意見でした。今でもベルリンのフンボルト大学の中央入口の正面にこの言葉がデカデカと書き付けられています。
独裁制を敷いた自称共産主義国家が崩壊し、「資本主義が勝った」「資本主義の正しさが証明された」というとんでもない意見が声高に撒き散らされてから30年が過ぎようとしていますが、マルクスの糾弾した“資本主義の問題点”はますます深刻になっている様に思います。
ラウル=ペック監督は「ハイチ出身の私がヨーロッパ初のマルクスの映画を撮るのは皮肉な事」と語っています。ヨーロッパ・アメリカといった資本主義社会が自分たちの抱える問題点から目をそらし続けてきた事を弛く指摘したのでしょう。
暴力革命を正当化している様に見える所が既得権者の反発を呼ぶのでしょうけど、暴力沙汰にするもしないも既成の権力側次第 (香港やミャンマーの様に)なので、社会を歪めている搾取者の責任転嫁に思えます。