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Catch5 おらが殿様

前回『御館の後』の斜め上の続き、です

 ずいぶん前になりますが、気象衛星「ひまわり」の何号だかが故障して、後継機を打ち上げるまでの半年間くらい緊急措置としてアメリカの軍事衛星からデータをもらっていた事がありました。


 先の戦争中、新聞から「天気予報欄」が消えたように、気象情報というのは重要な軍事データでもあります。


 同居人と外食していた際にそのニュースの話になり、「そんな物を外国からもらえる物なのだろうか」と訝る同居人に「“外国”じゃなく“本国”だからでは?」と、かなり黒いジョークを返したところ、隣席の男性客グループが大笑いして「その通り!」と相槌を打って下さいました。

 アメリカが日本の支配者である事は薄々皆が気付いているのです。


 司馬遼太郎さんが亡くなるまで連載していた『この国のかたち』の中に「土佐の場合」というエッセイがありますが(注:別の巻にも同じタイトルの「土佐の場合」というエッセイがあるので気をつけて下さい)、その中で江戸時代を通じて土佐一国の領主だった山内家の支配の有り様を「進駐軍」と表現している部分があったのを記憶しています。


 要するに山内家は関ヶ原で徳川方が勝利した後に上方で浪人たちをかき集め“手勢”を準備した上で「占領軍」として土佐に乗り込み、地生えの“長宗我部侍”たちを「下士」(坂本龍馬もこの階層の出身です)という武士と農民の中間の地位に留めた結果、250年以上治めていた土佐の“地元”の人間からは“支配者かも知れないがあくまで他所者”と見なされ続けた、という内容です。


 山内家が地元の武士たちを採用せず、「掛川衆(山内一豊の前任地は掛川でした)」「上士」と呼ばれた“手勢”を重用した事で、山内家は土佐の元武士・農民からみれば何百年治めていようと最後まで“他所者”でしかなかった訳です。



 先日触れた『御館の後』の更に後の話になりますが、上杉家は秀吉の命令で会津に国替させられ、家康の命令で今度は米沢に押し込められ、そのまま200年過ごして戊辰戦争・明治維新を迎えます。

 上杉家の去った越後の行政区分は高田を拠点とする「高田藩」や信濃川流域の「長岡藩」、その他「新発田藩」や「村上藩」など幾つもの大名領・天領(幕府領)に分断され、細切れになりました。


 そして戊辰戦争で越後の諸藩は概ね会津と仙台を中心とする「奥羽越列藩同盟」に加盟し、東進してきた新政府軍と戦う事になります。


 越後戦線では家老・河井継之助が率いる長岡藩が頑強に抵抗し続けていました。

 「長岡危うし」と見た同盟側が米沢藩と会津藩から援軍を越後に送った時です。


 荒川口から越後に入った米沢藩兵たちは街道筋で炊き出しをしながら待っている越後の民衆に迎えられました。

 「上杉の殿様が帰って来て下すった」

 この時、上杉家が越後を退去させられてから実に260年が経っていました。その間、「他所から来た支配者」に従ってはいたものの、越後の民の心は上杉家にあり続けたのです。


 遠くに移されても越後は上杉の物。越後の人々にとって上杉家こそが「おらが殿様」だったのです。


 何と「地元に根差した意識」のタフな事でしょうか。「私たちのふるさと」は表層の「政治」がどうあれ、簡単に変えられない物なのだと改めて痛感します。



 敗戦以来、私たちは「ご主人・アメリカ」に大きな影響を受け、価値観や生活様式も少なからず変化しました。


 しかし日本的マナーや美意識がアメリカ流の雑な生活様式に侵食されようと、沖縄を好き放題にされようと、この根強い「文化の差」は簡単には越えられないようです。

 アメリカが事実上の支配者であっても、そんな事は表層的な「その時々の政治の都合」でしかないからでしょう。


 冒頭に書いたやり取りを考えても、敗戦からまだ80年ほどしか過ぎていない日本は、アメリカを「おらが殿様」と感じるには全然時間が足りていないように思います。


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