Catch42 空爆
メディアは誰の目線で物事を伝えようとしているのか。
空襲と空爆の違いって分かりますでしょうか。
メディアも以前は「空襲」或いは「爆撃」という表現をしていた様に思いますが、ある時期から急速に「空爆」の表記の方が増えて来ました。その時期とは東西冷戦が終わったとされ、世界が新しい秩序を模索し始めた1990年代初頭です。
冷戦終結に先行してアメリカとソヴェート=ロシアの融和を目的とした首脳会談が開かれていた“デタント”と呼ばれる時期に、反米活動の急先鋒だったリビアをアメリカとヨーロッパの有志連合が攻撃した際に、新聞を始めとする主要メディアが「リビア空爆」と報じ違和を覚えました。耳慣れない「空爆」表記はこれが最初だったと思います。
その後デタントどころか東ヨーロッパの自称社会主義諸国がバタバタと体制を崩壊させ、親分たるソヴェート=ロシアまで体制が変わってしまって暫くはアメリカの“一人勝ち”状態と思われていた時期に「空爆」は増え続けました。
湾岸戦争の「バグダッド空爆」、ボスニア内戦の制裁として行われた「ベオグラード空爆」、ケニアのアメリカ大使館爆破事件への報復として行われた「アフガニスタン空爆」。近年ではシリア内戦での双方の支援国が繰り返した物など、海外ニュースは「空爆」だらけ。
今この文章を書いていてもワープロソフトは何度か入力した物は予測変換機能で候補を出してくれていますけど、「く」で変換候補に「空爆」が出てくるのに「くうし」まで入れないと「空襲」を出してくれません。「空襲」は一体何処へ消えたのでしょうか。
冒頭の「空襲」と「空爆」の違いですが、何処が違うのか少し考えて見ましょう。「東京大空襲」「空襲警報」とは言いますが「東京大空爆」「空爆警報」とは言いません。ここから分かるのは立場の違いです。つまり「空爆」とは爆弾を“落とす側”、「空襲」は“落とされる側”が使う表現という事です。
活字には“間違いに気付くチェック能力を鈍らせる”性質が有るそうです。字体や大きさが揃えられた活字は「この文字は何の字だろう」という手書きの文字を読む時に必要なそもそもの注意力を省いてくれると同時に、記号に近付いた分だけ「言葉を読み取り吟味する」という読み取る時のフィルターも外れてしまう様です。
新聞やテレビニュースの字幕などで「空爆」「空爆」とやっているのを何となく眺めている内に知らぬ間に“爆弾を落とす側”の目線でニュースに接する事となっているとは。
念のためWikipediaで調べると、軍事用語として「空襲」という項目は有りますが「空爆」は有りません。アメリカの軍事行動を少しでも悪く無い事であるかの様に伝えたい日本のメディアの造語だったのでしょうか。
価値観や立場の刷り込みに近い用語の選択は深刻です。ジェンダーも環境も、既成の用語自体に問題が有る表現はまま有ります。