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Catch36 食べる事

美味しい食事は決して食べ物だけで成立する訳では無いと思っています。同席者や話題など。

 食べる事は「恥ずかしい事」。特に人前で自分が物を食べる姿を晒すのは恥ずかしい事だとされてきました。


 家族や友人といった「ドメスティック」な相手にのみ許される姿です。外食産業が日本で爆発的に発達した江戸時代中期以降も基本的にはこうした“慎ましさ”は残り、冠婚葬祭や数々の行事、あるいは今で言うビジネスランチ・ビジネスディナーは日常(=ケ)から離れた非日常(=ハレ)の場と見なされていました。


 日常のマナーが一時的に取り払われる一種の無礼講だった訳ですね。


 よく「三大本能」と括られる“睡眠”“食”“性”は何れも「(ドメスティックな相手以外に)人前で晒す物ではない」という共通の心理的「抑え」が掛かっていました。


 明治維新後の帝国憲法時代に「西洋化」の中で外食文化がむしろ「高級感」「ハイカラ」と見なされる風潮が広まり、ハードルが下がってきます。


 さらに1945年の帝国憲法体制の崩壊、平和憲法時代の始まりでアメリカ式の生活スタイルに憧れが強まり、マクドナルドを頬張りながら街を歩く、などの“無礼講”が日常的・社会的に許容されて今に至ります。


 これは実は“ハレ”と“ケ”の境目が曖昧になるという一面を伴っていました。封建社会にこうした「抑え」を振り払い「私は食べる事が大好きである」と世の中に明らかにする事は相当勇気のいる事だったと思われます。


 自分の“欲望”を明らかにした上に芸術家として名を成した人は低モラルかつハイセンスの“面倒”なタイプだったのかなぁ、などと考えております。



 日本を代表する美食家かつ芸術家と言えばこの人、北大路魯山人。人気マンガ『美味しんぼ』の強烈キャラクター「海原雄山」先生のモデルとして数々のエピソードを提供しています。


 パリの3つ星レストランにワサビと醤油を持参して、店の自慢の鴨肉の料理に掛けるソースを否定したり、展示即売会の主催者とケンカして展覧会をドタキャンしたり、残された逸話からは「協調」が社会の基礎にある日本の人間とは思えない「やりたい放題」の人生が浮かんできます。


 中国にも大物がいます。北宋時代最高の詩人と言われている蘇軾(そしょく)(1037~1101)。「東坡居士」と号したので、“蘇東坡(そとうば)”と覚えている方もいらっしゃるかと思います。


 この人は、このエッセイの『暗君type1』で触れた「新法党」と「旧法党」の政争のまっただ中に、旧法党の柱の1人として宰相・王安石と激しく対立しました(政治を離れた文化人としては交友関係が続く)。


 この人、名前は「そしょく」ですが美食家として有名で、料理番にアレコレ注文を付けて開発された新メニューの幾つかはいまだに中華料理に残っています。


 一番有名なのは『トンポーロウ』でしょうか。「トンポー」とは漢字に直すと「東坡」(ちなみに「ロウ」は「肉」)です。豚肉の角煮と照り焼きの旨みを併せ持つ中華料理の定番ですが、蘇軾先生の好みを試行錯誤しながら実現した料理人の方に脱帽いたします。

トンポーロー食べたい。

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