Catch33 団結せよ
真面目に社会の事を考えるには学校の授業では足りないと感じています。歴史の教え方しかり、税や福祉などの社会制度についても同様です。
ドイツ生まれの革命家カール=マルクスは、かつて代表的なパンフレット『共産党宣言』(1848年)の終わりを「万国の労働者よ団結せよ」と締めくくりました。
直後にフランスで勃発した2月革命 の衝撃と共に、「人民の時代」を予感させる独自の歴史観と経済論・社会運動論は、ヨーロッパに大きな影響を与えました。
このパンフレットに込められた様々な要素は後に彼の大著『資本論』で緻密に論証されていきます。彼の歴史観は「人類の歴史は紆余曲折しながらも“よりよい方向を目指して進歩し”て来ている」という『発展の歴史観』です。
そして「進歩を促すのは技術や経済の発展に依る“生産・経済関係の変化”」とし、「過去に上手くいっていた社会秩序が生産・経済関係の変化に対応しきれなくなった時に新たな社会秩序を求めて革命が起きる」と見ました。
社会秩序・経済関係の要素に「階級」という概念を導入しています。
“変化によって不具合を被る「被抑圧階級」が革命の主体になる”と。
マルクスが生きた時代は18世紀末に始まったフランス革命の影響を受け、全ヨーロッパが旧秩序の動揺に巻き込まれた“革命の世紀”でした。
「階級社会」が過去の物になった現代に生きる私たちが忘れがちな部分ですが、マルクスの時代に否定され消えつつあった「旧秩序」とは、「身分制社会」です。
それは「血の論理」とも言えますが、「ある血筋に生まれついたら、その事自体が血筋の持つ社会身分を保証し、秩序を形成する社会」の事です。
同じ罪を犯してもある血筋に生まれた者は死刑になり、別の身分に生まれた者は罰金程度で済む。あるいは収入の半分を租税として奪われる者がいる一方で、国内有数の富豪でありながら(というより富豪になれる身分だからこそ)税金を一切払わなくてもいい事になっている。
何事にもデメリットあればメリット有り。「身分制社会」の悪い所ばかり挙げましたが、当然良いところも多々ありました。
「王族」「貴族」「上級聖職者」など限られた血筋しか政治に関わる事が出来ないので、その身分に生まれた者は政治を専門的に身に付ける事になります。
「職業の固定」は身分制社会の大きな特徴です。
逆に身分が消滅し国民全てが“主権者”となった場合、建設現場のおじさんも八百屋のおばさんも「国家予算」やら「世界の情勢」やら、普段の仕事とは全く関係ない「難しい事」を勉強しなければならなくなります。
マルクスが『共産党宣言』を発表してからおよそ80年後、スペインの哲学者オルテガ=イ=ガセトが『大衆の反逆』を出版します。
機械化された生産手段(それは習熟度の占める比重の低下を意味しています)。国家の主権者となった大衆。今有る権利を“当然の物”と受けとめ、「主権者」として政治に関わる以上は自分も高度な見識や判断力・責任が求められるなど考えもしない一般人民が更なる権利を無制限に追求する社会。
オルテガは第一次世界大戦で甚大な被害を受けたヨーロッパを「(主権者としての訓練などしていない)大衆が利己的な欲望を求めて無秩序に向かっている危機的段階」と捉えました。
身分制社会の美点を見出し、国民主権社会の欠点を意識した分析の果てに「旧秩序」の再評価に至った物です。
オルテガに欠けていたのは「変化」と「進歩」の区別と、マルクスが原始時代から「今」まで起こる「変化」を「よりよい方向へ進んでいる」と捉えた“長期的な観点”でした。
変化を忌み嫌う「既成勢力」は「次の勢力」が団結するのを恐れます。
分断し、“比較多数”を保てても「自分たち以外」が団結してしまうとたちまち少数派に転落するからです。
団結こそ時代を進めるカギと見抜き「団結せよ」と呼びかけたマルクスは、やはり極めて優秀な革命家でした。政治の見識を備えた上で団結を果たす時、「大衆」は反逆ではなく次の時代の責任ある主人公となることと思います。自分の人生を守る為にも学び続けたい物です。
NHKドラマ『ここは今から倫理です』でザックリと共産主義について説明していました。社会変革を世界の同志と連帯しながら勝ち取る革命運動は、権力と体制の維持を資本主義陣営からの猛烈な妨害を受けながらやらねばならないとあって、中々健全には進んでおりません。