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Catch31 ハラスメント

女性には読む事をお薦め出来ません。

 以前ある番組でお笑い芸人のカンニング竹山さんが人気のイケメン俳優さんを見ていて気付いた事があった、と語っていた事があります。


 丁度幾つかの「セクシャルハラスメント問題」がマスコミ界を騒がせていた時期で、ある番組で恒例になっているプレゼントをその回のゲストが観覧に来ていた客へ投げ渡すパフォーマンスを行った際に、キャッチした客を客席まで降りて行って抱きしめたそうです。受け取ってハグまでしてもらった女性客は悲鳴を上げて感激していたらしいのですが、竹山さんはそれを見ながら「コレ、俺がやったらただのセクハラだな」と思ったのだという事でした。


 ハラスメントという馴染みの無い言葉がさも“皆さんご存知の”みたいな注釈抜きで使われ始めて大分時間が経ちます。「嫌がらせ」或いは「嫌がられる行為」と言えばいい物をわざわざ日本語ではなく「ハラスメント」とカタカナ英語で表現すると“罪を罪として意識しにくくなる”効果が有りますが、この類いの「言葉の選択による罪のぼやかし」についてはまた項を改めたいと思います。


 竹山さんが直面した“同じ事をしても相手の受け止め方次第で犯罪になる事がある” というのは、特にセクシャルハラスメントに大きなグレーゾーンをもたらしております。


 ハラスメントかそうではないかは“される相手が決める事”なのだと、竹山さんは問題の入り口にたどり着いた訳ですね。



 中国にはもの凄い例が記録されています。俗に「河間」と呼ばれる女性の伝記です。


 書き記したのは柳宗元。彼の作になる唐詩の傑作の一つ『江雪』は国語の教科書にも載っています。“弧舟蓑笠翁 独釣寒江雪”は覚えのある方も多いのではないでしょうか。


 「河間」とは正式な名は『河間伝』という柳宗元の小文章です。物すご~くかいつまんでいうと、或やんごとない生まれの貞淑な女性が彼女の振る舞いの立派さに肩身が狭くなった身持ちの悪い親族に陥れられてレイプされ性の悦びに目覚めた末に淫乱の限りを尽くして余りの乱行により官憲に捕らわれて処刑された、というあられも無い物です。やんごとない血筋ゆえに彼女の生前の名前を伝える事も許されず、ただ女性が暮らした地名を取って「河間の女」とだけ呼ばれています。


 柳宗元大先生は何を考えてこんなトンデモ伝記を残したのでしょう。伝記にはアホな親族が罠を仕掛けた場所へ危険を察して出かけるのを拒む女性を、姑に命令させて行かせたと書かれています。


 期年,乃敢複召,邀于姑,必致之,與偕行,遂入酆隑州西浮圖兩間,叩檻出魚鱉食之,河間為一笑,眾乃歡。俄而,又引至食所,空無帷幕,廊廡廓然,河間乃肯入。先,壁群惡少于北牖下,降簾,使女子為秦聲,倨坐觀之。有頃,壁者出宿選貌美陰大者主河間,乃便抱持河間。河間號且泣,婢夾持之,或諭以利,或罵且笑之。河間竊顧視持己者甚美,左右為不善者已更得適意,鼻息咈然,意不能無動,力稍縱,主者幸一遂焉。因擁致房,河間收泣甚適,自慶未始得也。至日仄,食具,類呼之食。曰:“吾不食矣。”旦暮,駕車相戒歸,河間曰:“吾不歸矣。必與是人俱死。”群戚反大悶,不得已,俱宿焉。夫騎來迎,莫得見,左右力制,明日乃肯歸。持淫夫大泣,齧臂相與盟而後就車。


 えーと、あまりにあまりな描写なので詳しく翻訳は致しません。ですが、“竊顧視持己者甚美”“鼻息咈然,意不能無動”、まさにレイプされかかっている最中の被害者がアホ親族の用意した美男子の顔を見て抵抗を止めた、という(くだり)など、この問題の難しさをよく表していると思います。


 この後何一つ問題無く家族に尽くしていた女性は姑も夫も顧みなくなり、家庭は崩壊します。河間が処刑された時に件の親族も殺されていますが、このアホウがこんな結末を望んでいた訳ではないでしょう。


 この伝記は人間の不可思議さを様々に考えさせてくれます。セクシャルハラスメントの問題は竹山さんが感じた様に(イケメンでもテクニシャンでもない大抵の男性に取っては)「俺がやったらただのセクハラ」なのです。

次回はもう少し真面目な話題です。

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