Catch3 情報の伝え方
バイデン新政権発足に寄せて
昨日、2021年1月20日(日本時間では今日の未明)アメリカでバイデン新政権が発足しました。12年前のオバマ大統領に続き私が“もしかしたら新大統領が暗殺されるのではないか”と心配になった不穏な情勢下での就任式でした。
12年前も今回も不安にさせている原因は熱狂的な共和党支持者の動向です。つい先日アメリカ民主主義の象徴とも言うべき連邦議会議事堂に乱入し、バイデン氏の当選確認を力ずくで阻もうとした人たちです。
自分の望む結果以外は嘘として認めない。トランプ氏が4年に渡って続けてきた振る舞いは極めて幼稚な政治姿勢であり、しかも暴力を使っても許される正義の行為と思い込む支持者を残しました。
先ごろ海外の経済調査系シンクタンクが『2021年の世界が抱えるリスク』とかいうランキングを発表していました。1位は「バイデン新政権」。記事を読むと「穏健なバイデン政権に変わってもトランプ政権下で生み出された分断は残ったままでこれが新政権の不安定化と世界政治・世界経済の最大のリスクとなる可能性が高い」という主旨でした。
しかしこれを報じる日本のメディアが電子記事につけたタイトルが『世界のリスク、1位はバイデン政権』。
事の原因はトランプ氏にあるのに、これだけ目にすると何かバイデン氏が世界に不都合をもたらす悪人に思えてしまいます。誤解を招きやすい表現や事実とは異なることをイメージさせる「問題あり」の報じ方にげんなりしたものです。
このことで思い出したのですが、皆さん「ドイツは3.11の福島原発事故を受けて国内の原発を全廃したが足りない電力を“原発で発電している”フランスから輸入している」という話を聞いた事はありませんか?
環境問題に詳しい知人に聞いたところ、これが正に「伝え方に問題あり」なのだそうです。
ドイツはヨーロッパの真ん中に位置し、多くの国と国境を接しています。日本のような島国にいるとついイメージを誤ってしまいますが、ドイツの電力供給体制は別に首都ベルリン辺りにドイツ全土の電力を賄う巨大な発電所があってそこからドイツ国内に送電網が延びている訳ではありません。
デンマークに近い辺りはデンマークと共有する発電送電網が、チェコに近い辺りではチェコとやりとり可能な発電送電網がある訳です。
当然フランスとの発電送電網もある訳で、ドイツ国内の発電所からではなくフランスの方から電気が来ている地域もある、というだけの事。ドイツ全体の電力の輸出入を見ると「輸出超過」、周りの国にクリーンエネルギーを売っているのです。
こうした全体像を伝えず「ドイツは自国の原発を廃止した一方で他国から原発電力を買っている」という報道をされたのでは、明らかに実像から程遠いイメージを持ってしまいます。
「人は自分の見たい物だけ見たがる」とは2000年ほど前、古代ローマに生きたカエサルの言葉ですが、正確な情報に接していてさえ「不都合な事実」から目を背ける人たちはいるのです。
ましてや不正確な物や事実無根、全くのデタラメすら本物の情報に紛れ込み同列の扱いで提供されている現代ともなれば、自分が得た情報の吟味がとても大切になってきます。トランプ氏のように権力者がデマを積極的に発信し始め、裏付けもせずに多くの人が信じ込むなど「まともな民主主義」とは思えません。
正確な情報の提供と保証は民主主義の大前提だという事実を、「民主主義の国」アメリカで起こった騒ぎを目にした今、改めて強く感じます。
優れた一人あるいは少数の人間に大きな権限を与えて迅速に問題に対処するという、“失敗した時の被害が大きすぎる”危険な体制より、時間がかかっても多くの人間の意見を集め間違いは正しながら“よりマシ”なものを目指していく。一人一人の有権者が自分の暮らす社会に責任を感じ行動する。それが民主主義の基本なのですから。
民主主義のもう一つの土台である相互理解とリスペクトについてはまた別項で