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Catch238 ロマン主義の時代

ベルばら鑑賞記はまた別に書きますけん。

 このエッセイで何度か言及している歴史少女マンガの傑作『ベルサイユのばら』が劇場版アニメとなり、先日 (2025年1月31日)から公開されています。


 上映している内に私も劇場へ見にゆく予定ですが、あの壮大な物語を映画1本分の尺に収められるもんかいなと首を傾げております。


 『ベルばら』はその後のナポレオン戦争の時代を扱った同一作者による作品『エロイカ』と比べてとても分かりやすく“ロマン主義的”です。メロドラマではなくドラマティック。やはり女性でありながら軍人という架空の人物を主人公に据え、君主制が否定された革命の時代を描いた手法が、激動の時代をより劇的に感じさせるからだと思います。


 『エロイカ』は『ベルばら』に出ていた架空のキャラクターも何人か登場しますが、主人公が実在した人物、それもナポレオンという史実で強烈な存在感を放つ歴史的な人物を持ってきてしまった為に、せっかくのベルばらキャラたちが霞んでしまっているのです。


 いっそのことナポレオンと敵対したロシア帝国に生まれてフランス革命が開いた“人民の時代”に憧れる架空の少年の視点などで描いた方が良かったのかも知れません。



 ロマン主義というのはそれこそナポレオン時代の前後、18世紀半ばから19世紀にかけてヨーロッパ諸国を覆った芸術運動です。ヨーロッパ文化圏では文学・絵画・彫刻・音楽など殆んどの芸術が影響を受け、もしかすると政治ですら影響を受けていたでしょう。


 代表的なのは文学ではゲーテやバイロン、絵画ならドラクロワ、彫刻ではロダン、音楽だとシューベルト辺りかなぁ。


 「ロマンティック」という言葉があるようにロマン主義の作品はとても激しく感動させる物です。「ドラマティック」とも言えます。今から振り返ると表現が分かりやす過ぎて少しベタに感じる手法です。


 文学や絵画では特に分かりやすいように思います。王政復古期に人民の蜂起と勝利で物語を終える文豪ユーゴーの大作『レミゼラブル』や7月革命の市街戦を描いたドラクロワの代表作『民衆を導く自由の女神』などを思い出していただくといい気がします。


 音楽でロマン主義と分類されているのはシューベルトの他にリストやベルリオーズなど「ポスト・ベートーベン」とも言うべき時期に活動した人々が含まれるようですが、作風はどちらかと言えば穏やかな物です。本来の意味でのロマンチック。革命の時代らしい激しさは少し時代は遅いですがビゼー(代表作は『カルメン』)の方が持っているように思います。


 他にこの時代の芸術家で表現の手法は古典的なのに本人の政治志向が革命に共感や賛同していた為にロマン派に間違われ安い人もいます。ベートーベンその人やクールベ(フランスの画家。自分で「根っからの共和主義者」と公言して権威に反発し続けていました)などがこれに当たります。


 政治志向もロマン主義の特徴の1つでしょう。それも血筋による支配者ではなく人民の側に共感する立場です。


 革命後フランス政府は革命を潰そうと四方八方から攻め込んで来る外国軍を必死で押し返そうとします。フランス北東部のヴァルミーで共和フランス軍とプロシア軍が激突した戦い(1792)では、貴族の職業軍人で編成されたプロシア軍が平民のフランス軍に敗れます。これをプロシア側の記録係として観ていたゲーテが「この日から世界史の新たな時代が始まる」と感動しながら書き残しています。


 いや、アンタの国が負けてんだっつの。感動の余り属する国ではなく(敵国である)人民の政権を支持しちゃうこのロマンティシズムこそ、この時代の、ロマン主義運動の本質を表している気がします。


 とってもエモーショナル。


 以前にも書きましたが、フランス革命とその落とし子たるナポレオン時代を経た19世紀のヨーロッパは、旧体制の動揺に見舞われ成功不成功問わず各国で革命運動が起こります。ロマン主義者はこうした被支配者や植民地の解放闘争を支持し共感する芸術家でした。


 有名なエピソードですがバイロンは貴族ながらオスマン朝トルコ帝国に圧迫されるギリシャの独立戦争を支持し、自身も義勇兵のように現地へ乗り込んで客死してしまいます。ただサロンで談論し詩人として作品を披露しているだけでなく、実際に行動に移して死を遂げた彼はヨーロッパ中の文学青年から神のように崇められる事になります。


 この「ロマン主義の時代」にマルクスが「世界を理解するだけでなく、理解した世界をより良く変える為に行動せよ」と訴え、主要国の官憲から追われながらも各地で社会の不具合で苦しめられている弱者を解放するべく革命運動を煽りまくったのは、歴史の必然だったのかも知れません。


 不可能と思われる既成秩序の否定と革命の成功という壮大な夢を求め続け、貧しい側・弱い立場の民衆に寄り添ったマルクスも、ロマン主義の時代の申し子だったのでしょう。

本当、ロマンチックというよりはドラマティックですわ。

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