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Catch233 役に立つか

知らぬ間に刷り込まれるのが社会の持つ価値観の怖い所。

 障がい者や女性に対する差別は何が大本にあるのだろう?と長年疑問に思っていました。


「国の役に立つかどうか」


 帝国憲法時代に日本が国の政策として目指していたのは「富国強兵」、「中国やインドみたいに欧米の植民地にされてしまわない様に“欧米基準で”強い国、文明国と認められる様にならなければ」との方針でした。


 実際、インドや中国が陥っていた欧米諸国に対する「居留地の治外法権」「関税自主権の喪失」「インフラ整備に際しての借金」などを明治政府が撤回或いは回避出来たのはこうした“侵略上等”の帝国主義に合わせて舵取りを上手くやったからでしょう。


 それが日清日露両戦役で日本が「侵略国」として成功した影響だった所にこの時代の下らなさが現れています。



 ヨーロッパ・アメリカがアジアやアフリカに近代文明を背景に侵略していたのはフランス革命とその余波たるナポレオン戦争が収まり、「革命の世紀」でイギリスを含めたヨーロッパ諸国が自分たちの国の体制を見直した頃でした。


 ある国は議会制民主主義に、ある国は立憲君主制に、ある国は君主による専制に、それぞれ落ち着いていった19世紀の後半です。


 先行するイギリスはすでに世界中に領土を持つ「日の沈まぬ国」となっていましたし、対抗するフランスも度々起こる革命で体制を二転三転させつつもイギリスに準じる植民地を蓄積していました。


 この時期に長らく分裂していた国内を統一して「列強」の一角となったのがイタリアとドイツです。特にドイツは優れた工業力・軍事力を使って英仏の間に割って入り、盛んにアフリカやアジアに勢力を拡げようとして両国と衝突し始めます。


 先ほど「近代文明を背景に」と書きましたが、これは中国 (当時は清朝)を見ると分かりやすいでしょう。


 イギリスは中国を相手に貿易赤字を解消するためにアヘンを売り付け、中国官憲がアヘンを焼き捨てたら賠償を要求して戦争を吹っ掛け、近代兵力でコテンパンに叩きのめしました。講和条約で「治外法権」「関税自主権の取り上げ」「領土の割譲」などを飲ませ、中国に住む欧米人が罪を犯しても中国側は裁く事も出来ず、関税も一方的に欧米側が決めるようにする。「欧米の経済力・技術力に追い付こう」と工場やインフラ整備 (港湾整備や鉄道の敷設)を進めるととんでもない利息で借金を背負わせる。見る間に大国・清帝国は半植民地、カモにされてしまいました。


 これはインドやアフリカも同じです。


 良いように絞り取られ「遅れているお前たちが悪い」と責任転嫁されたアジア・アフリカ諸国はたまった物では有りません。


 アヘン戦争とその後の中国を横で見ていた日本は、こうした轍を踏まず、どうにかこうにか1920年代には「1.5流国」くらいになっていたのです。



 2024年4月から放送された朝ドラ『虎に翼』ではこの時期 (私が“帝国憲法時代”と呼んでいる体制)の中で女性がいかに教育や職業で差別されていたかを描いて話題になりましたが、その根本には国の方針である「富国強兵」に役に立つか立たないかが「人間の価値」を決める考え方、社会の中で待遇や地位・選択肢を決める仕組みがあった訳です。


 そしてその考え方は戦争に負け、憲法が変わった今でも世の中のあちこちに蔓延っています。私のような反差別を自覚している者ですら、知らぬ間に汚染されている程に。


 以前、人権擁護活動をしている方と障がい者について話していた時に大変叱られた事が有ります。私が「障がい者でも有秀な人もいるし」と不用意に発した言葉にその方は「どんな人でも役に立つかどうかで生きる権利が有るか無いか他人に決められる筋合いは無い」と仰ったのです。


 差別と人権についてこれ程端的に表した言葉はそうそう無いでしょう。貴重な経験でした。そのおかげで少しは愚かで酷い振る舞いを減らす事が出来るようになれたと思いますし、これからも心掛けたいと思います。

有り難し。

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