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Catch224 学者一族

田舎で高学歴を目指す者からすると、生まれながらにアカデミズムの中心に近い人たちはやはりアドバンテージがあるように感じます。

 日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹博士。子ども用の伝記を読んだ時に思ったのは「良く分からん人だ」という事と「親や祖父が学者先生」という点でした。


 為人(ひととなり)は口下手で他人に自分の思った事を上手く伝えるのが苦手なクセに頑固で、幼少期に家族から付けられた渾名は「いわんちゃん」。その由来は嘘をつくのが嫌いで、しかし嘘をつかないと叱られてしまう状況になると何を訊かれても「言わん」としか返さなくなるから。


 まぁ、こうしたエピソードを連ねて幼少期から物理学の研究者になってゆく辺りまでを扱った本でした。


 家族として博士のご両親が出てくるのは当然ですが、お父さんがまず大学の先生と書かれています。それから秀樹少年が小学校に上がる前に始まった漢籍の素読 (漢文を原文で読み下す勉強法)を叩き込んだ駒橘(こまきつ)おじいさん(母方の祖父)。少し歳が離れた長兄の芳樹お兄さんと闊達な人柄で秀樹少年を振り回したりアドバイスをくれたりした茂樹にいさん。自分の後をちょこちょこ付いてくる弟の環樹。京大在学中に出来た友人の朝永くん。


 伝記を読んでいた時 (小学校低学年くらい)には知るよしもありませんでしたが、お母さん以外の全員が学者として名を残している人たちでした。


 祖父小川駒橘は慶應義塾の地理学の教授。ご尊父・小川琢治が京大の地質学の教授。芳樹お兄さんこと小川芳樹は東大の教授で冶金学者。茂樹にいさんこと貝塚茂樹は金石文・漢字学の研究者 (京大教授)。弟の小川環樹は中国文学者 (京大教授)。朝永くんこと朝永振一郎氏は湯川博士の次にノーベル賞を受賞した物理学者。


 何だそれ、ですよ。


 明治体制のアカデミズムで文系理系問わず人材を出した一族に研究者仲間。家族から求められ本人が想い描く勉学のレベルが違うんだろうなぁと思います。いや、そんな本読まされましても。


 私の同級生にも何人か東大に進学した者たちがおりましたが、余り幸せそうには見えませんでした。自分でも何をやりたくて東大に行ったのかが分からなかったのでしょう。中には心を病んでしまった者もおりました。


 社会人になり、従業員の1/3が東大卒というすんごい職場にいた事がありますが、在学中に司法試験に合格していたり、「やる事」「成りたい物」がとてもハッキリしていた方々でした。

同級生たちとは随分と違う風に感じた物です。中には神田生まれ神田育ちで「近くの大学で一番学費が安かったから」なんて人もいましたけど、これは諧謔でしょう(たぶん)。


 湯川博士のご家族は、もう1つ「よく養子になる」家風があるように思います。学閥の中で出世も計算に入れた振舞いだったのでしょうか、よう知らんけど。


 家父長制で動いていた帝国憲法時代に、お父さんの小川琢治氏がそもそも浅井家から養子に入った入婿です。貝塚茂樹氏と湯川博士も名字で分かる通り結婚して相手の家に入った人たちでした。


 私は中国文学を学んでおりましたので貝塚教授と小川環樹先生の著書や論文にはお世話になりました。新潮文庫から出ている王弼註の『老子』は訳者が小川環樹氏です。貝塚茂樹氏が岩波新書から幾つか出した本も高校の頃に読んだ覚えがあります。


 伝記には漢籍の素読で様々な基本文献を叩き込まれた中で秀樹少年が一番心を惹かれたのは『荘子』だったと書かれていました。湯川博士自身が生前に対談やインタビューで良く『荘子』を好んで引用していましたが、漢文から実学・哲学まで身内にトップレベルの「先生」が居たわけです。


 先端物理学と古代中国の哲学が自然と融合した、奥行きのある世界観・宇宙観を養ったのかも知れません。

晩年は核兵器廃絶運動にも良く賛意を表明しておりました。

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