Catch212 国際平和主義
憲法がどういう意味を持つのか、理解出来るような授業をしている学校はどのくらい有るのでしょうか。私は授業ではこういう理解に至りませんでした。
日本国憲法が朝ドラ第1回放送の冒頭に使われるとは思いませんでした。
今年 (2024)前半の朝ドラ『虎に翼』は主人公が日本初の女性裁判官という事で、ある程度は法律の場面も出てくるのだろうと予想していました。しかし最初から最後まで満遍なくその時代その時代、主人公の年齢や立場によって向き合う事になる法律の場面が配され、一方で個人としての主人公が様々な人と出会いながら生きていく様子も描かれるバランスを良く保ったドラマでした。
先日完結しましたが、近年まれに見る意義深い作品に仕上がったように思います。扱った問題も朝ドラではあまり見ない物が多かったように感じます。
進学や就職、働きながらの結婚や出産・育児に伴う問題は、これまでも女性が主人公の作品では多々取り上げられていました。しかし今回は冤罪、判事餓死事件、浮浪児、地方地主、在日朝鮮人・韓国人、障がい者、原爆訴訟、同性愛、熟年婚、お団子 (←?)、痴呆、カリスマが使嗾する少年犯罪、尊属規定、などこれまでにないテーマが盛りだくさんでした。
「これまで朝ドラを見ていた人が見なくなり、朝ドラを見ていなかった人が見始めるようになった作品」という評価を目にしましたが、そうであったなら勿体無い。是非「見なくな」った方の人たちもご覧になって頂きたかった。
「世の中に何故誰かが我慢しなければならない事が有るのか」を様々な角度から見せ、主人公がつぶやく「はて?」で問題に向き合いはじめる描き方は多くの我慢している側の共感を呼んだのだと思います。今でもドラマでスポットを当てた諸々の「はて?」は大して解決解消していませんし。
『虎に翼』は戦後部分で現行の平和憲法の人権規定を主に扱いました。しかし現行憲法の特徴や帝国憲法との違いは作品のテーマから外れる為に余り大きくは扱われていませんでした。
新旧両憲法の最大の違いは国の目指す方向です。主権 (国の事を決める者)が天皇から国民全てに変わった事も大きかったのですが、安全保障の戦略を国際平和主義に変えた事が一番大きかったのです。
明治体制の戦略は前半が欧米列強に侵略されないように「近代化」「富国強兵」でしたし、後半は「防衛圏の拡大」でした。振り返るとこの「防衛圏の拡大」をどこで線引きするのか判断を誤った為に際限のない侵略戦争に嵌まったと言えるでしょう。経済力を伴わない軍事戦略が失敗した後にアメリカを主とする連合国の占領下で決まったのが現行憲法でした。
前文で「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」と謳い、第九十七条で「基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」と規定するこの新憲法は、諄いまでに「自分の国だけの都合では平和は守れない」と念を押しています。
敗戦直後の日本が新憲法の柱としたのは、日本1国だけでなく「人類史」をも俯瞰した国際平和主義と人権国家の建設でした。
新しい方向と連動するはずだったのが国際連盟に代わって国際平和主義の実行機関となった国際連合でした。新憲法の下で国造りに臨んだ多くの人は「日本が戦争を仕掛けない事はもちろん、他所の国の戦争も国連に協力して防いだり止めさせたりする」という形での国際貢献と平和の実現をイメージしていたはずです。
敗戦後の日本の統治は主権回復と従属化の、軍事同盟頼みの安全保障と国際平和主義とのせめぎあいでした。せっかく明治体制での遅れた部分をほぼ解消し、法律として人権を大幅に保証したのに、戦後の日本を立て直した人々が自分たちの生まれ育った明治体制に近い世の中しかイメージ出来ず、具体化が遅れに遅れて今に至る訳です。
非自民党政権も含めて保守系のオジサン中心の政治しか経ていない1946年以降の日本は、そろそろ本当の意味で現行憲法を柱にした社会に進んでも良いと思っています。
現在の憲法をキチンと実行する事さえ出来ていないのに何が「改正」なのでしょうかね。