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Catch210 世紀末師匠

芸術の秋らしい物を、と思いまして。

 ギュスターヴ=モロー(1828~1898)

 オディロン=ルドン(1840~1916)

この2人は19世紀後半にフランスで活躍した幻想絵画を得意とする画家です。


 政治や社会問題を扱う“啓蒙的な”絵が評価されていたり、安定した構図と歴史上のエピソードを描く古典派が主流だった時代に幻想画と言える主にギリシャ神話や聖書の物語を描きました。モローは油彩画を多く残しましたがルドンはパステルや版画も手掛けています。


 上野の国立西洋美術館にあるモローの作品『牢獄のサロメ』が好きでして上京したての頃お金も時間も無い癖によく見に行っておりました。やはり大都市圏は映画館や美術館の数が違います。地方との文化格差を強く感じた物です。


 モローやルドンに限らず19世紀末のヨーロッパは文学も絵画や彫刻も「世紀末スタイル」と括る事が出来る芸術の流れが有りました。文学ではアイルランド出身の耽美的な作家オスカー=ワイルドや詩人のバイロンに影響を強く受けた青年芸術家が大暴れしていましたし、オーストリア=ハプスブルク帝国ではクリムトが、ノルウェーではムンクが、繁栄の陰に寄り添う人生の不安を華麗な色使いで表現していました。



 同じ世紀末でも20世紀末には見られなかった文化の流れです。


 むしろ出来上がった社会の仕組みに不満と不安を抱え、セックスやドラッグ、暴力などで「社会は一見安定しているのに未熟で残酷な人間関係を作っていた」世紀末スタイルに似た暗い面を持つ時期だったのは日本では1980年代、東西冷戦末期だった様に思います。



 漫画家の岡崎京子さんが量産していた作品などが代表的ですね。時期は少し後になりますが、哲学で流行したポスト=モダンも思えば着地点の見えない世紀末っぽい考え方でした。


 モローは晩年にかけて国立の美術学校の教師を務めていますが、不思議な事にその門下から彼とは全く作風の違う20世紀をリードする若手の画家たちが巣立って行きます。激しい色使いと造形で既成の画壇から攻撃を受けたフォービスムの担い手たちです。


 ルオー、マティス、マンガン、マルケ。皆モローに指導を受けた「新しい画家たち」でした。ルオーが後半生に手がけた宗教画は東京ではブリジストン美術館に何点か納められています。


 モロー自身はナポレオンが失脚してようやく少しだけフランスが落ち着きかけた雰囲気の中に生まれましたが、幼少期に7月革命 (1830)、青年期に2月革命 (1848)を経験しています。まだまだ予断を許さない不穏な社会情勢の下で画業を重ねました。


 聖書の「サロメ」の物語やギリシャ神話のエピソードを端正な造形と絢爛豪華な色彩で描いて生前から高い評価を受けていましたが、美術学校の校長としては自身の得意とする古典的な画風を生徒に強制する事はなく、学生たちの個性を伸ばす事に注意を払っていたようです。


 その為時代を先に行き過ぎた絵を描くルオーらに矯正の必要を感じた他の教師陣からは不満を持たれていたとか。美術品の製作は美意識の発露でもありますから普通は自分と違う美意識の尊重などなかなか出来ない物です。モローのような有り難い先生の方が珍しいのです。


 彼の方針の下で「やりたい放題」に見える創作を許されていたマティスたちは彼が退官して学校を去ると学校を追い出されてしまいます。


 彼らがモロー以外の先生たちに反発し、印象派さえまだ充分には受け入れられていなかった時代にフォービスム運動を起こして大騒ぎになるのは世紀を越えた1905年の事です。


 モローは世紀末に生き世紀末スタイルで描きながら次世代の才能を大きく伸ばし育んだ偉大なる師匠だったと言えると思います。

モローとは違いルドンは孤独に内面を追求していたように思います。2世代ほど前のゴヤに似ているかも。

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