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Catch204 チャーリー

ブラウンでもチョコレート工場でもない方のチャーリーです。

 20世紀の新技術・映画で才能を発揮したチャールズ=スペンサー=チャップリン(1889~1977)。


 ロンドンの貧しい舞台役者の家に生まれた彼は世界に冠たる大英帝国の絶頂期に生まれ育ち、繁栄するイギリスの中心部で貧困故の悲惨でそれでもささやかな愛情で結ばれた家庭で幼少期を過ごしました。


 同名の父親は幼い時に離婚で家を離れ、彼の側には母親と異父兄のシドニーが残されました。彼が成功者となった後に記された自伝には様々なエピソードが載っています。


 母親が兵隊たちが集い騒ぐ場末の劇場でブーイングを浴びて声が出なくなり、舞台の上で立ち往生してしまった時に、急遽舞台袖から飛び出して母が歌う予定だった歌を歌って満場の拍手をもらった事。


 舞台出演を諦め内職で生活費を稼ぐようになった母が文字通り食うや食わずの極貧生活の中で精神に異常を来した事。


 一足先に働ける年齢になった兄が家にお金を入れる為にボーイになって外洋船に乗り組んで側にいなくなってしまった事。


 内職用に借りていたミシンをやむにやまれず質屋に入れて食費に変えた事で母が窃盗罪で捕まってしまった事。


 その際に以前一度収容されて待遇の酷さに何度も脱走を試みた貧民院に入れられそうになったので、咄嗟に「母が出てくるまで叔父 (そんな人は存在しない)の家でお世話になる事になると思います」と民生委員に嘘をついて逃れた事。


 世界中から富をかき集め栄えに栄えていたロンドンでの出来事とは思えない凄まじい体験です。チャップリンは後に映画『Monsieur Verdoux(邦題:殺人狂時代)』で殺人鬼アンリ=ヴェルドゥを演じた時、ヴェルドゥに「冷酷な世間には冷酷で応戦だ」という科白を吐かせていますが、こうした無情な経験がこの殺人鬼の哲学を生み出すインスピレーションとなったのかも知れません。


 やがて舞台専門の喜劇役者として人気が出始めた彼は、劇団が試みたアメリカ興行のメンバーとなり、新たな娯楽としてアメリカの低所得労働者の人気を得始めていた映画と出会います。


 彼の舞台を見た映画会社からスカウトされたチャップリンは、慣れ親しんだ舞台の世界とは違い、計算された脚本や演出もなく監督や出演者のその場の思いつきでドタバタ喧嘩したり追い駆けっこしたりつまづいてひっくり返ったりしているだけだった撮影風景に驚きます。


 その代わり失敗した部分を編集でカットしたり、ストーリーの順番通りではなく場面場面をバラバラに撮影してつなぎ合わせる事、完成作を焼き増しして同じ物をアメリカ中の映画館で見る事が出来る点などに、1発限り1度きりで劇場に来た客しか見る事が出来ないライブの舞台喜劇とは違うメリットを見出だします。


 舞台と映画の良い部分を合わせてキチンとしたストーリーと演技を映画に持ち込んだチャップリンの作品は瞬く間に人気になり、彼は一躍大スターとなりました。


 優れたパントマイムを武器に俳優・監督として無声映画(サイレント)時代のトップコメディアンとして世界中に知られる様になります。


 山高帽にステッキ、サイズの合っていない服に大きすぎる靴、そしてチョビ髭。放浪の紳士チャーリーが繰り広げるのは貧しいながらも時にチョロまかしたり時に知恵を絞ったりバレて警官に追いかけられたり、様々な人と生み出す物語でした。


 世界がまだ「冷酷な」時代に、優しさと少しの勇気で世間に応戦する様を演じました。


 笑いと切なさを生んだのはチャーリーの貧しさも一役買っています。多くの作品で住む家や家族を持たず、出会ったヒロインと結ばれる事を夢見、最後は身を引いて去ってゆくチャーリー。貧しさ故の笑いと哀愁が大きな特徴でした。


 やがて有声映画(トーキー)の時代が来てなおも言葉の壁が無いパントマイムに意義を感じていた彼が「チャップリンもこれで終わりだろう」と時代遅れ扱いされ始めた後で、天才の天才たる所以を世界中が痛感する事になるのですが、それはまた次回。


映画が「活動写真」から「映画」に変わったのは彼の出現が大きかったと思います。

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