Catch199 地域差・地方差
身近で遠い、それが目白。
私の生活圏の一部である新宿区下落合は北東部分が所謂「目白エリア」で都内でも比較的お金持ちが住まう地域となっています。
先日道を移動中にすれ違った小学生たちが「お弁当の歌」を歌っているのが聞こえてきました。「これっくらぁいのっ、おべんっとばっこにっ♪」というアレです。おにぎりをちょいと入れるまでは私の知っている歌詞と違いはなかったのですが、続きが「フィレ~ステーキにお醤油掛けて、松茸さん、伊勢海老さん、キャビア乗っけた、フォアグラさん♪」
待て待て待て待てぃ!
何じゃそりゃあ?
え?
コレ何?
ただの替え歌?
それとも目白のお子様たちはそんなの持ってくの?
これじゃお弁当じゃなくてお節料理ですよ。
聞いてしまった場所がなまじ高級住宅地だった為に「目白では歌われているお弁当の歌」なのかその時限りの替え歌だったのか不明なまま通り過ぎてしまいました。真相はどうだったんでしょうねぇ。
『秘密のケンミンショー』という人気番組は日本各地の他に無い食べ物や習慣を各地の出身タレントを集めて紹介しています。最近は見なくなってしまいましたが、趣旨はとても面白い。自分では「普通」「全国どこでも同じだろう」と思っている事が他から見れば「は?何それ」な事はままある物です。
日本がこんなに狭くて小さい(面積でカリフォルニア州や四川省よりも小さい)国なのに何でこんな地域の差があるのか。大小様々な山脈や河川に細かく分断された複雑な地形と、2世紀半以上続いた幕藩体制が原因だと思われます。
幕藩体制って支配領域の細分化、生活圏の縮小でしたからね。「越後の国」「長門の国」などとまだ大きめの行政区画が通用していた中世前期ならマシだったのですが、鎌倉時代辺りからおかしくなってきます。武士の支配地が細かくなったからです。そして武士の時代の総仕上げに徳川家が藩を配置しました。
「越後」の中にコチャコチャと細かく藩や天領(幕府の直轄地)がひしめき合い一体感なんてどこにも無かった「国」がある一方で「長門」1国どころか「周防」「石見」までもが毛利家が治める「同じ藩」だった地域もあります。
川1つ隔てただけで「違う藩」でそんなのが260年も続いたらそれぞれの藩の中で独自の食べ物や習慣が生まれて根付き「他所とは違う」物になるのは当然です。分かれているうちに言葉も違ってきますし。
知人の岩手県出身の方から聞いたのですが、その人の生まれ育った所は仙台に中心部があった「伊達藩領」の境目近くなのだそうです。同じ県内なのに山1つ越しただけの伊達藩側では雨の日でも開いた傘を肩に担ぐ全然雨よけにならない差し方をしていたと言っていました。まぁそれが「ダテ(カッコいい・お洒落)」だったんでしょうね。………カッコいいかな。
文化人類学だか民俗学だかを専攻していた知人に「どれにしようかな♪」の続きを教えて欲しいと頼まれた事があります。
なんでも各地の「どれにしようかな」は本当にそれぞれバラバラで、その分布や傾向を調べて卒論にするつもりだと。後日調査結果を纏めた物を頂いたのですが、驚愕でした。
皆さんの知っている続きはどんな物でしょうか。私の出身地である新潟県新発田市本丸中学校エリアでは「神様の言う通り、赤豆白豆南京豆」と歌います。件の研究者によれば結構レアなんだそうです。レアも何も子どもの時には自分たちが歌う順指し占いの「どれにしようかな」に他の歌詞が有るなんて想像もしていない訳でして。
資料には「神様仏様の」やら「天神さまの」やら「ゴンベエさんの」やら「お稲荷さまの」やら(ソコからかい!)と突っ込みたくなるような違いが容赦なく収録されておりました。
更に後半に至っては「鉄砲バンと撃ってバンバンバン」とか「四つ葉のクローバーのお告げだよ」とか想像の限界を置き去りにした別次元の順番占いが次々と出てきて「嘘ぉ~ん」と叫んでしまいました。冒頭の「お弁当の歌」目白バージョン何て目じゃありません。
ラジオ・テレビの普及と標準語教育が方言をはじめ地域の特色を急速に無くしておりますが、まだまだ民俗学の研究対象になるような面白い違いは各地・各分野で残っているようです。
中国みたいに沿岸部と内陸部の経済格差が何百倍何て地域差はご免です。