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Catch197 ペケペケ

タブーの多い社会は遅れた物だという見解は文化人類学の物でしたかね。

 私の蔵書の中に面白い本があります。


 1つは東北の温泉に出掛けた際にバスを待つ間にバス停近くの古本屋で手に入れた明治時代の中学校の国語の教科書。中学校とは言っても旧制中学ですから今の学制なら高校にあたります。明治42年 (1909)2月の検定合格印が押されていますのでその年の4月から学校で使われた物と思われます。


 今でも国語の教科書を出している大手の明治書院の『新訂中等国語読本 巻4』と言う物ですが、編集者と補修者が凄い。落合直文が編集者、2人記された補修者は森林太郎・萩野由之となっています。森林太郎、つまり鷗外ですよ。明治の高校生たちはどエライ贅沢な学習環境で学んでいたんですね。


 中を見ると意外にも中々ハイカラな題材を取り上げております。発行のわずか4年前に終わったばかりの日露戦争で戦われた日本海海戦の戦闘概要が収められているのにも驚きましたが、『濠洲(オーストラリア)航路』とか『アレクサンドル大王の逸事』とか『春の巴里(パリ)』『ナイアガラの(たき)』など、結構欧米諸国の情報がふんだんに盛り込まれています。


 その一方で『農業の快楽』や『地殻の変動』『暦法』といった「これ、国語か……?」と首を傾げたくなる物も載っています。近代日本が一所懸命人材を育てて欧米に追い付こうとしている真っ最中の必死な光景が想像出来て微笑ましいと言うか何というか。


 陸軍軍医のトップとして医療の近代化の陣頭指揮を取っていた鷗外に国語の教科書の監修までやらせていたなんて想像もしていませんでした。


 もう1つは戦前に発行された唯物史観に基づくソヴェート=ロシアの世界史論文集の翻訳本です。『歴史科学』第3巻5号付録の『東洋歴史』がとにかく伏字だらけで物凄い中身になっています。


 発行は昭和9年 (1934)ですから既に日中戦争は始まっています。例えば「(近代)ギリシア史」の一節では「✕✕テロルにも拘わらず✕✕✕✕はますます展開された。一九二八年における煙草工場の✕✕✕はギリシアのプロレタリアートに✕✕✕✕✕✕✕と✕✕を与えた。現在ギリシア労働者の当面せる問題は外国✕✕との✕✕、主として利権資本-それは最も重要な産業部門 (道路敷設、運輸、電化、給水、灌漑)に固定している-との✕✕である」なんてなっています。


 更に「朝鮮史」のある部分は「朝鮮の貴族、農民、官吏は・・・・・・・・イデオロギー的に再教育され(それは✕✕資本の✕✕への✕✕によって既に準備されていた)、その結果✕✕崇拝の「日進月歩党」が発生するに至った。(10字分空白)✕✕は日本の在朝鮮公使伊藤公爵指導の下に・・・・・・・・・・・。」ですよ。最早ギャグのレベルです。


 察するに伏せられた部分は労働運動や共産主義から見て積極的な意味を持つ文言だと思われ、こんな物すら伏せなければならなかった昭和前期の大日本帝国の(もろ)さが透けて見える気がします。だってこの程度の論文で支配体制が動揺するレベルの底の浅い権力でしか無かったから臣民の目に触れない様に“目隠し”していたのでしょう?


 明治末年に出された国語の教科書が“坂の上の雲を目指して一心に駆け登って行く”頃の日本を表していたならば、この伏字だらけの不幸な出版物は司馬遼太郎氏が愕然とした昭和の日本を表しているのでしょう。


 わずか四半世紀で坂を上り切ったつもりになり、鳥なき里の蝙蝠と化していた様子が出版物からも伺えます。


 翻訳された元の論文がいつ発表されたのか不明ですが、翻訳本の発行の時点で革命からわずか17年の初々しい社会主義国の雰囲気と唯物史観に基づいて世界史を新たに解釈し直そうとするソヴェート=ロシアの歴史学者たちの意気込みが見えるような論文です。必死で伏字にする箇所をチェックしている帝国当局の卑小さと比べて何とも好対象ではないですか。



 これ以外にもた~くさんオモロイ本は持っておりますけれども機会があればまたご紹介させて頂きます。

そのうち✕✕を✕✕✕して✕✕✕✕✕✕ようと思います。

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