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Catch187 貧乏物語 その5

持たざる者は学ぶべし。

 1960~70年代に全世界でいささか頭でっかちな資本論ブームが起きた事があります。マルクスブームと言っても良い「解放と革命の時代」。現実の成功例を交えて大きなうねりとなりました。


 前段階として第二次世界大戦後に起こった植民地の独立運動があり、1959年にキューバ革命が成功したのを切っ掛けとして60年代に迎えたアフリカ諸国の解放闘争と独立、70年代のベトナム反戦運動、それを支援する世界の学生運動・労働運動と結び付いて大きなムーブメントとなった訳です。


 その時主に思想面で拠り所とされたのが「革命を成功させて被抑圧者が時代を進めろ」と発破を掛けたマルクスの『共産党宣言』『資本論』であり、それをいち早く実現したレーニンや毛沢東の方法論 (代表的なのはロシア革命の直前に発表された『国家と革命』や文化大革命でばらまかれた『毛語録』)でした。


 『資本論』はもとより『レーニン全集』やら『毛語録』を読んだ学生・労働者は国を問わず山ほどおりました。映画『アナザーカントリー』でも主人公の親友がデスクの上にレーニン像を置いて全集を読んでいましたね。


 そしてヨーロッパでは保守政権打倒の運動やナチス時代の清算(被害者たちへの謝罪と救済)を求める動きを生み、アメリカで大規模な黒人民権運動と反戦平和運動が、日本でも学費値上げ反対から火を吹いた学園闘争と日米安保反対闘争、ベトナム反戦運動と繋がって行きます。


 しかし既に「労働者の政権」ではなくなっていたソヴェート=ロシアの思惑とロシアの欺瞞(うそ)に危険を感じなかった甘さがこの「解放と革命の時代」を尻すぼみに終わらせてしまいました。


 結局この時点で旧植民地が概ね独立を勝ち取る事が出来たのとベトナムで共産陣営が勝利し南北が統一された以外で決定的な成果が無い中、主要国でマルクスを思想の基盤に置く勢力が政権を取る事はありませんでした。


 先ほど「いささか頭でっかち」と書いたように生活実感から運動に加わるのではなく理想や理論から入ったために、理論を踏まえた具体的なイメージが左派諸勢力で統一されておらず、効果的な政治戦線を組めなかったのも大きいでしょう。特に日本は無様でした。



 2015年に起きた安保法制の成立を阻もうとするsealdsその他の動きは久しぶりに日本で起きた若い世代の政治運動でした。しかし60~70年代の展開とはかなり様相が異なっていたように思えます。理論の無さと組織化の無さが気になりました。


 よく「自由主義」のように漠然と括られますが、マルクスが示した様な体系的な理論も方法論もなく“弛く広く”「自由に」呼びかけ「自由に」集まり「自由に」散ってゆく。スマートフォンというツールの登場も大きかったでしょうが、組織を作って持続的に要求を続ける運動に比べ、要求される側には圧力をそれ程強くは感じなかったと思います。


 実際、無理筋を通し法案が成立してしまうと、あれだけ連日国会議事堂前に押し掛けていた学生たちは雲散霧消しております。


 団結を拒めば運動の圧力が落ち、要求の実現は遠ざかります。何のための「自由」でしょうか。国の将来より目の前のお給料を選んだ為政者と同じく、目先の「組織に束縛されない自由」を選んで安保法制の成立を許してしまった様に見えました。


 賃上げ要求と同様に政治要求も人数が必要です。何のために団体交渉権が認められていると思っているのでしょうか。あ、組合に加わるのも嫌なんですっけ。


 どういう理屈で税金やそれでやりくりする公務員 (国会議員や大臣も公務員です)が認められていると思っているのでしょうか。あ、マル経の講座も無くなっているから知らないんですっけ。


 思考の弱さと裏付けの無い正義感に解決できる問題などありませんよ。

為政者を「上級国民」なんてひねた見方をしたり「親ガチャ」なんて言い回しで現状の不平等を認識しているなら「原因」を探りましょう。

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