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Catch180 土木と奪門の陰で

権力は人を狂わせると言いますが……。

 先日書いた『Catch176 暗君(正統派)』でご紹介した明王朝の危機。


 BAKATONO皇帝英宗が有名な孫子の「彼を知り己を知れば百戦危うからず、彼を知らず己を知れば1戦1敗す、彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず危うし(戦う相手と自分の量力を弁えていれば何度戦おうとも壊滅的な被害には遇わない、相手の事をよく知らず自分たちの事を知っているだけならば(時によっては)勝ったり負けたりする、相手の事も知らず自分たちの事も分かっていなければ何度戦おうと必ず負けるだろう)」という一節の「必ず危うし」を実行した結果、モンゴルを中国本土から追い出し4000年来東アジアのトップとして君臨してきた漢民族文明の復興を為し遂げたと自負していた明王朝は一転して滅亡の危機にさらされました。


 そりゃそうでしょう。


 明王朝の体制は一言で言えば(明王朝を創った)朱家が全ての権限を握りその家長(皇帝)が一切合財を取り仕切る仕組みになっており、皇帝その人が交戦中の騎馬民族の捕虜になってしまったのですから。


 戦争の発端となった明とオイラートが揉めた理由はあまりにも下らないので割愛しますが、とにかく戦争中に作戦指揮や予算の計上を決める事が出来る唯一の存在が敵に捕らえられてしまったのです。


 しかもオイラートは機を逃さずがら空きになった明の防衛体制を突いて長城線を突破し首都の北京を大軍で囲もうとしました。


 皇帝(責任者)は不在、首都はオイラートの大軍が迫り風前の灯。これが危機でなくてなんでしょうか。



 歴史上にはこうした危機に際して「ワシがやらねば誰がやる」と奮起して歴史の流れを変えてしまう偉人が現れる事があります。アヘン戦争敗北以来ヨーロッパ列強に好き放題侵食されていた清朝(祖国)を見て「何とかしなければ」と絶望的な革命に挑み成功させたお医者さんこと孫文もその1人ではなかっただろうかと思っています。


 土木の変の絶体絶命な状況にも立ち上がった「ワシ」がおりました。于謙という人です。


 この人、科挙に合格した官僚で軍人ではなかったのですが、文官として軍を監督する部署にいました。


 遠征軍が壊滅してアホ皇帝が捕虜になった、オイラートの大軍が万里の長城を越えて北京 (当時は順天府と称していました)に攻めて来る、と次々に届くロクでもない情報の中開かれたもう駄目だぁーどーしよー会議で「もう首都は持たないから一旦南京 (こちらは応天府)へ遷都しよう」という意見を「歴史上南へ逃げて奪われた北の国土を取り戻した例は無い、ここを守れなければ国が滅ぶと覚悟せよ」と徹底抗戦を主張しました。


 逃げようと言った大臣や官僚の本音が「国がどうなろうと知ったことか、とにかく自分は死にたくない」とのエゴにあるのを見抜いたのです。


 歴史を例に上げて論ずるのは王朝時代の中国の常ですが、確かに鮮卑族の北魏に攻め込まれて南京へ移った晋も女真族の金朝に淮河以北を奪われた宋も北を取り戻す事は出来ませんでした。


 今でいう「防衛副大臣」にあたる地位にいた于謙の主張が通り、後は既に書いた通りアホ皇帝の弟が皇帝になり体制を整えた北京は持ちこたえオイラートは北に引き上げて行きました。


 于謙は当然ですが新たに即位した景泰帝から絶大な信任を得て、今回の惨事を惹き起こした国防体制の不備を改め、そう簡単に草原の騎馬民族が長城を越えられない様にしました。しかしそれはおバカな皇帝が好き勝手に軍を動かす事もしにくい物でした。


 奪門の変でBAKATONOが皇帝に返り咲くと後ろ楯だった景泰帝もすぐに亡くなってしまい、于謙は反逆罪をでっち上げられて処刑されてしまいます。


 さすがに居たたまれなかったのか、アホ皇帝の後継ぎ(土木の変の後も皇太子とされていました)が即位(成化帝)すると父親の尻拭いで反逆罪は撤回され名誉が回復されました。


 本人や家族が軒並み殺されてしまった後での事ですが、これをしないと于謙の親族や知人も引き続き「犯罪者の関係者」扱いされ続けてしまいますので。


 正義感から国の危機に立ち上がり滅亡を防いだ恩人にする仕打ちではありません。皇帝の権力を強め過ぎた明の体制の被害者としか言い様の無い生涯でした。

于謙は国よりもそれが崩れた時に巻き込まれ被害を受ける人々の事を考えたのでしょう。為政者としては正しいのですが、家族としてはどうだったのでしょうか。

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