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Catch159 感覚に変調を来す(時間編)

 たまーに往年の芸能人やスポーツ選手の訃報を聞いて「あ、まだ生きてらっしゃったんですね」と失礼な事を思ったりしませんか?


 自分が特に興味を持っていない大物有名人だったり、事実上引退して動向が長く不明だった方だとこの失礼な感想を持ちやすい様に思います。



 1980年代だったと思いますが、「キャプテンクックのゾウガメが死んだ」というニュースを聞いて「はあ?」と驚いた事がありました。何でもクック船長が世界一周の航海をしている途中で、ガラパゴス諸島で捕まえたゾウガメを同じくその先で立ち寄ったトンガで王様にプレゼントし、何百年だか王宮で飼われ続けておりそれが死んだ、という物でした。


 いや、そりゃ混乱しますわな。キャプテンクックって日本でいえば江戸時代中期、暴れん坊将軍こと徳川吉宗と同時代の人ですよ? ニュースが出た時、時代はバブル真っ只中、カメさんが捕まってから亡くなるまでの間に日本は徳川幕府が崩壊し明治の富国強兵を頑張り、頑張り過ぎて勘違いからの世界を敵に回した戦争に突入しコテンパンに()され、焼け跡から復興を遂げて経済成長が最盛期を迎えていました。


 縄文杉ならともかく「カメ」って。時間の感覚がおかしくなります。



 張学良の死去を伝えるニュースも驚愕でした。2001年に「ハワイで療養中だった張学良氏が死去。氏は1901年満洲軍閥の指導者・張作霖の長男に生まれ…」云々と新聞の海外欄に写真入りの記事になっていた物です。


 張学良なんて知名度があるのか無いのかもよく分からない「知る人ぞ知る」感じの方ですが、ある意味では東アジアの歴史を変えた人物の一人、まあ「歴史上の人」です。有名な「辛亥革命」 (1912)で王朝体制を終わらせた中国が、近代化を目指してもがいている中で、歴史の転換点を作った人と言えるでしょう。それと生まれ年のお陰で西暦の下2桁を見ると近代アジア史上の事件の時に何歳だったのかが分かるという、伝記を書くときに便利な人でもあります。


 張学良は中国東北部 (いわゆる“満洲”)を地盤とする軍閥の首領・張作霖の長男として生まれ、父が後ろ楯としていた日本に見捨てられて爆殺 (1928)された後、父親の地盤を引き継いで政治・軍事の表舞台に出てきます。


 彼が歴史に名を刻んだのは「西安事件」 (1936)の首謀者としてです。当時中国東北部を中心に日本が勢力を拡大しつつ在りましたが、蒋介石が掌握する中央の中華民国政府は「まず国内を統一してから日本に対処する」という方針で、陝西省(せんせいしょう)の延安に立て籠り抵抗を続ける中国共産党の討伐を優先していました。


 父の部下と軍隊を受け継いだ張学良は、政府の方針に従って本拠地の東北部を日本に明け渡す形で中国本土に移り、更に共産党討伐の最前線に送り込まれていました。捕虜交換などを通じて中国共産党が民国政府と停戦して侵略者・日本への共同戦線を作りたいと考えている事を知った彼は、決断をします。一向に進まない共産党討伐に業を煮やした蒋介石が討伐軍の根拠地・西安に督戦に来たのを逮捕・拘禁し、共産党側の交渉者を西安に呼んで対日同盟の結成を強要したのです。


 この時、西安に入った共産党の代表は後に首相になる周恩来でした。この“西安事件”で蒋は中国共産党討伐を一時止め、協力して日本軍と戦う事を強要されました。歴史上「第二次国共合作」と呼ばれる対日統一戦線の成立です。この事件が余程屈辱だったのでしょう、日本がアメリカなどの連合国に降伏し、直後に始まった中国本土の支配権を賭けた国共内戦に国民党政府が敗れて台湾に逃げ込む際に、蒋介石は張学良も台湾へ連れ去って長く監禁していました。


 活躍したのが30代半ばで、その後60年以上消息不明だったせいで「まだ生きてたんだ」と失礼な感想が浮かんでしまった訳です。

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