Catch147 ブーム到来
楽しければそれが正解。
音が耳で聞く物である以上、紙に印刷されたマンガで音楽を表現するのはとても難しい事です。作中で流れている事になっている音を実際に聞ける訳じゃないんですから。
小椋冬美さんの『さよならなんていえない』(1982)や藤田貴美さんの『EXIT』(1990)のように、バンドなどが物語の味付けとして出てくる作品は有りましたが、本格的に「紙の上で音を表現しよう」と試みたのは林倫恵子さんの『音吉君のピアノ物語』(1989)辺りが最初だったかなあ。いや、『EXIT』もかなり力入れてましたけど、音をどう表現するかはあくまで登場人物たちの織り成す物語の「横」でしたし。
その後さそうあきらさんの『神童』(1998)、一色まことさんの『ピアノの森』(1998)、酔っ払い研究所所長こと二ノ宮知子さんの『のだめカンタービレ』(2001)と、音楽、特にクラシックをテーマに据えた作品が時折見られるようになりました。中でも『のだめ』はヒット作となり、ドラマ化され映画化もされかなりの認知度となったように思います。
今、全く新しい「音楽をメインテーマにしたマンガ」が話題になっています。石塚真一さんの『BLUE GIANT』(2013~)。友人に連れて行かれて聞いた初めての生のジャズ演奏に魅せられて、サックスプレーヤーを目指す青年の成長を描くお話です。出会いと別れ、時には大きな喪失を経験しながら成長して行く主人公と周りの物語を一際魅力的にしているのが、作中で描かれる浴びせるようなジャズ演奏の表現です。
聞いている観客の表情の変化で、プレーヤーたちの眼差しや動きで、演奏している主人公たちの心の声で、何より画面の背景を埋め尽くす激しい字体の「バララバララ」「バッバー!」「ダカダカダダダダ」といった擬音と音符で「その場でこの演奏を聞いている人たち」の中にいるような感覚にさせられます。演じられているナンバーを知らなくても熱演のボルテージを共感できるとは、なかなか新しい読書体験でした。
もう1つ、この『BLUE GIANT』は、今まで敷居が高くて難しい物、通だけの世界と思われがちだったジャズの間口を大きくした気がします。スタンダードナンバーを知らなかろうが大御所プレーヤーを知らなかろうが、曲を聞いた自分が「これ、イイ!」と感じればそれでOKだろ? と言われている感じです。
その通り。
ソニー=ロリンズがどうのコルトレーンを知らなきゃ恥ずかしいの、蘊蓄よりも、まずジャズを聴いて心地良けりゃいいんです。知りたくなったら調べたりダウンロードすればよろしい。
この作品の人気が出始めて音楽業界でも徐々にジャズの売れ行きが良くなっているそうです。すでに名門レーベル『BLUE NOTE』とコラボして作中で登場するナンバーを集めたCDが発売されていますし、有名ライブハウスで『BLUE GIANT NIGHTS』と題したイベントが行われたとか、ジャズ界・音楽業界に地殻変動が起こりつつあります。今年2022年にはアニメ映画が公開される予定だとか。
来るのか?ジャズ! 来てます、ジャズ!
私はMJQを愛しております。