表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/240

Catch142 クイーンオブわらしべ長者

自分で人生を切り開く事に成功した豪傑のお話。

 2006年にアメリカ人男性がインターネットの物々交換でゼムクリップからスタートし、一軒家を手に入れる事が出来るかチャレンジした話がニュースになっていました。結果は14回の交換で見事成功。チャレンジスタートから1年半くらいで達成し、大いに話題になりました。


 これにインスパイアされてつい最近も「コロナ禍で何かに挑戦してみようと思った」とイギリスの女性がヘアピンから始めて一軒家の獲得に成功したと報じられています。日本の民話『わらしべ長者』のような話です。もっとも当のイギリスにはもっとすごい女性がおりましたが。


 映画の『ハリー=ポッター』シリーズの最後、『ハリー=ポッターと死の秘宝 part1/part2』を見た人は思い出して頂きたいのですが、主人公ハリーのライバルで同級生のドラゴ=マルフォイはイギリス魔法族の名家の出身で、実家の「マルフォイ邸」はお城みたいな凄い建物でした。


 このマルフォイ邸の撮影に使われたのはイギリスの貴族が領地の管理や滞在の為に建てたマナーハウス(minor house)・カントリーハウス(country house)の代表作「ハードウィック=ホール」です。このお城を作った女性、ハードウィックのべス (Bess of Hardwick)と呼ばれた方が「リアルわらしべ長者アット イングランド」です。


 彼女は有名なエリザベス1世(在位1558~1603)の時代に生きた貴婦人です。女王の方も「べス」なので、区別のために居住地から「ハードウィックの(方の)べス」と呼ばれていました。つまり単に「エリザベス」と言うと「え? どっちの?」となるくらい、「女王に匹敵する富豪」だった訳です。


 彼女はイングランド中部ダービシャーの郷紳(ジェントリ)=地方地主階級に生まれた、ごく普通の田舎のお嬢さんでした。15歳で近所のバーロウ家に嫁ぎます。婚家は実家より少しだけ家柄の良い、末端ながら貴族の家です。爵位は無く、「サー」の称号を許されているだけですが貴族は貴族。彼女が平民ではなくジェントリの家に生まれたから可能だった結婚でした。


 2年程で夫のロバートに先立たれ、エリザベスは「貴族の未亡人」となりました。そして今度は同じく妻を亡くしてやもめになっていたウィリアム=キャベンディッシュの目にとまります。この人も近所に領地を持つ貴族で、「デボンシャー伯爵」の位を相続していました。べスはこの方と再婚し「伯爵夫人」になりました。


 嘘みたいな話ですがこの2番目の夫にも先立たれたべスは「伯爵家の未亡人」として近隣の社交界の花形となり、もう一段上の人と結ばれる事になります。ダービシャー選出の国会議員で国王警護隊の指揮官でもあったウィリアム=セントローの後添いとなったのです。


 セントロー家の財産が彼女に渡る事を恐れた親族から毒を盛られて死にかけるとか、この3番目の結婚生活は夫婦仲が良かったのに不穏な物だった様です。夫が訪ねて来た親族と不審死を遂げ(たぶん相続の件で言い争いになり相討ちになった)、またしても財産を増やして未亡人生活に。ただ相続で領地を増やすだけでなく、鉱山や企業の経営など遣り手ぶりも垣間見せています。


 ウィリアム=セントローの職業柄、エリザベス1世にも面識を得ていた彼女が最後に結婚したのは更に大物でした。当時、女王エリザベスの王位継承問題で最大のライバルだった隣国・スコットランドの前女王メアリ=ステュアートが失脚し、イングランドで捕らえられていました。その監視役だったシュルズベリー伯爵・ジョージ=タルボットがべスの4番目の夫です。


 前出ハードウィック=ホールは「壁より貴重品だった窓ガラスの面積が大きい」彼女の富豪ぶりを示す建物でしたが、この頃の彼女の年収は現代に換算すると約30億円くらいになるそうです。ここまで来ると格差がどうとかいうレベルではありません。まさしくクイーンオブわらしべ長者。見事なサクセスストーリーではありませんか。


 余談ですが、金属と硫酸・塩酸などの強酸を反応させて水素を発見した事や電流の抵抗を計測する実験などで有名な18世紀後半の化学者ヘンリー=キャベンディッシュは彼女の子孫です。

現デボンシャー公爵など彼女の子孫は他にも数多くおります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ