Catch119 年に一度
私の知り合いで「まだ貰ってないぞー」という方、ご連絡下さい。
2022年、東京や南関東では桜が咲き始めたと思ったら生憎の雨が続き、せっかく咲いた桜も堪能する間もなく散って行きました。私は毎年この時期に中野区にある「片山橋」に「花見」に出かけるのが、習慣になってしまいました。
変な橋です。
最寄りの駅は西武新宿線の「新井薬師前」ですが、道を知らないとなかなか辿り着けない迷路の様な住宅街の先にあります。
この橋は私が知り合いにばらまいている『夕凪の街 桜の国』というマンガに出て来ます。『夕凪の街 桜の国』は映画化もされテレビドラマにもなった作品ですので、ご存じの方もいらっしゃるかも知れません。作者のこうの史代さんは『この世界の片隅で』のヒットでこちらの方が代表作みたいになってしまいましたけれど、どちらも劣らず読む人の心を打つ優れた作品です。
ウクライナで多くの一般人を捲き込む戦争が始まり、日々その悲惨なニュースが流れています。「戦争とは何だろう」と多くの人が考え、知ろうとする中で、『戦争は女の顔をしていない』という本が売れ行きを伸ばしていると先頃ニュース番組で報じておりました。
元はスヴェトラーナ=アレクシエーヴィッチさん(女性です)というロシアのノーベル賞作家が、第二次世界大戦でソヴェート=ロシアの兵士として戦場を経験した300人ほどの女性たちに取材して聞き取った事をまとめたノンフィクション作品だそうです。日本の漫画家によって漫画化され、番組を見た限りでは興味本位の薄っぺらい「戦争マンガ」ではなく原作のテイストをなるべく再現した「読者に考えさせる作品」に仕上がっているようです。
『夕凪の街 桜の国』は二部構成になっていて、『夕凪』の方は原爆投下から10年が経った広島が舞台のひっそりとした話です。原爆で生き残った20代の主人公は大きな火傷の跡を気にして半袖の服を着ることが出来ません。遠くで暮らしている弟にお母さんと二人で会いに行く為に、近くの会社に勤めながらお金を貯めている女性です。同僚の男性社員から想いを寄せられてもサバイバーズギルトから交際に踏み出す事をためらっています。被爆者である事を打ち明け、受け止めて貰えた事でやっと「自分も幸せになっていいんだ」と思えるようになった矢先に原爆症で亡くなってゆきます。
『桜』はその会いに行こうとしていた弟くんの娘が主人公の話です。被爆二世で周囲の大人からさりげなく気遣われている元気過ぎる女の子で、「お転婆」というよりはっきり「悪ガキ」なのですが、大人になりある事から自分のルーツを知り、自分や家族や友人の事を振り返るようになる物語となっています。
『戦争は女の顔をしていない』を紹介した番組で流された読んだ人たちのインタビューの中で「ニュースで“何人亡くなった”“被害はこうだった”と伝えられる戦争の現場で、その犠牲者や居合わせた一人一人にそれぞれの人生と家族がある事に思い至り、自分が戦争を分かっている積もりに過ぎなかったと考えるようになった」という主旨の発言をしている方 (この方も女性でした)がいらっしゃいました。
『夕凪の街 桜の国』も「それぞれに人生があり、色んな思いの中で生きている」事を意識させてくれる作品です。私が年に一度「片山橋」を訪れるのも、『夕凪の街』を配って回っているのもこうした想いを共感してもっと多くの人に知ってもらいたいからなのです。
小泉吉宏さんの絵本『戦争で死んだ兵士のこと』もこうした一人一人のかけがえの無さを考えさせる作品でした。残念な事に絶版になってしまった様ですが。