不釣り合いだからとパーティ追放されたけど……???
短編です。評価次第では続きを書くかもしれません。
僕の名前はルイ。ドラゴン討伐を成功すれば、いよいよSランクの昇格試験を受けることが出来る。そして今まさに5人でそれを成し遂げたのだ。本当にここまで辛かった。俺は4人の幼馴染たちと共にパーティを組んでいる。というよりも、組んでくれていると言った方が正しいのかもしれない。――だって僕は〈盗賊〉なのだから。
「おっしゃ、これでSランク冒険者だ!」
僕たちに向かって、イケメンスマイルを向けているのはクリスだ。天職〈勇者〉を授かっただけではなく、金髪蒼眼といった見た目の美貌から引く手数多と聞く。
「あたしたちにしては上出来だったっしょ」
「みんないい働きをしてたんじゃないかしら?」
「そうですね。私たち5人の勝利です」
茶色い髪のショートカットで、いつも明るくパーティをいつも盛り上げてくれているイリナ。ピンク色髪が肩にかかるまでの長さで、性格はやや傲慢なところはあるものの、根はとても優しく実はいつも周りを気遣っているソーラ。水色の髪で言葉遣いも丁寧でどこかのお嬢様かと見間違えてしまうほど可愛いミレイユ。
彼女たちはそれぞれ〈剣聖〉〈賢者〉〈聖女〉といいう〈勇者〉に並ぶほどの天職を持っていた。この転職は8歳くらいになると、神から与えられるらしく教会に行き、鑑定を行うことで初めて分かるのだ。クリスを含めた4人の天職が同じ村から出たといった時は大騒ぎになった。村を挙げてのお祭りが行われたし、王都の方からもお偉い様が歓迎の馬車が来たりなんかもしていた。
あれから6年が経ち、今に至る。それから僕たちは5人で様々な場所を旅をした。魔王を倒すために、様々なモンスターと戦ってレベルを上げた。俺もクリスを中心とした勇者パーティの一員として胸を張れるんじゃないだろうか。そう思えるようになってきた。――そう錯覚してしまっていた。
「じゃあ、あたしは先に部屋を取ってくるね」
「私は少し買い物に行ってきますわ」
「私は孤児院で少しお仕事が残っているので少しそちらに出向いてきます」
「じゃあ俺たちはギルドに依頼の報告をしてくるよ。行くぞ、ルイ」
「うん」
昇格に関する手続きなどがあることを踏まえて、他の3人にはそれぞれの用事を済ませてほしいとのクリスの申し出により、僕とクリスの2人で依頼達成の報告を行うことになった。
依頼報告が終わり手続きを行うと、俺たちはSランク試験を受けることが出来るようにななった。ギルドを出ると僕たちはイリスが予約しに行っているという宿へと歩き出した。その宿屋に向かうためにはここを通る必要がある。
とはいえ、人通りも多く子供たちがよく遊んでいて、子供を何人も連れたシスターのような恰好をした人も歩いていた。そんな風に周りを眺めていると突然肩をたたかれた。
「なぁ、俺さやっぱり思うんだよ」
「何を?」
クリスは僕の肩を叩くと、突然そんなことを言ってきた。何を思ったのだろうか。僕は彼の目をじっと見つめた。
「あいつらも言ってたんだけどさ、お前は俺たちには不釣り合いだと思うんだよな」
「……え?」
「はっきり言うよ。邪魔だ。〈勇者〉〈剣聖〉〈賢者〉〈聖女〉の勇者を倒すために必須の天職を授かった俺たちに、〈盗賊〉とかいう汚れたスキル持ちはいらねえ。そう言ったんだよ」
「……っ」
頭の中では分かっていたんだ。幼馴染だからっていう理由だけで、同じパーティとして居られるわけがない。彼らなんかとじゃ不釣り合いだ。ギルドでよく同じことを言われていたし、世間的にもそういう風に言われているのは知っている。それでも、パーティの皆が励ましてくれたし、周りの人を注意してくれた。そんな彼らの存在は僕の心の支えになっていた。だからそのパーティメンバーのリーダーでもあるクリスにそう言われたのはかなりショックだった。
「言っとくけど、こう思ってるのは俺だけじゃないからな。あいつらもお情けってだけでパーティに入れてやっていたんだし。何より、俺の女たちに色目を使いやがって」
「いや、そんなつもりじゃ…うっ」
その瞬間腹に強い衝撃が走った。周りからは見えないぐらいの速度で俺の腹を殴ったのだ。周りを気にしているのか、倒れかかった僕を支えた。
「ほら、しかも弱い。お前に出来るのは荷物持ちと、マッピングくらいだ。なのに平然といつまでも俺のパーティにいやがって。色目は使うし、俺たちの力を使ってSランクには上がるし、むかつくんだよなぁお前は」
「そんなことは……ぐっ」
僕が彼の言った言葉を否定しようとすると、彼は先程と同じように僕の腹を殴った。支えられているように見えて、押さえつけられているので躱すこともできなかった。もう僕はほとんど意識がない状態だった。
「今日の夜、暗くなり始めの人目につかない時間に密かにこの街から出ていけ。安心しろ、ギルドには適当に誤魔化しておくから」
彼はそう言うと、今までよりも強く僕の腹を殴った。
ベットで寝かされていたのか。窓を見ると空は橙色に輝いており、あともう少し経てばそらは暗くなるだろう。
「一応感謝はしてるんだぜ?お前がいなければ、ここまで事がうまくいくこともなかっただろうからな」
「……どういうこと?」
「天職を授かる前の俺には、お前たちみたいに深い関係ではなかった。天職を貰った際も、別々で旅をすると言われたからな。でもお前が俺をパーティに誘った。そのことだけは感謝しているんだぜ?」
あの時は彼女たちが心配だし、〈勇者〉がいれば魔王を速く倒すこともできるんじゃないかと思っていたからな。今でもその判断が間違っていたとは思っていない。そんなことを考えていると空が暗くなり始めた。
「さてと、そろそろだな。俺は十分後に門まで行く。その時に街にまだいたりしたら、ただじゃおかないからな?あいつらは今日は早めに寝ると言っていたし、彼女たちに最後に手を出そうものなら……」
「わ、分かった」
結局僕の思い過ごしだったのかもしれない。〈盗賊〉だって出来ることはあると思っていたのに、結局そんなことはなかったんだ。そう思っていると、目から涙がこぼれてきた。俺はそのまま部屋から出た。そのまま宿屋から飛び出し、門の方へと歩いていた。その道なりはとても長く感じた。
「えいっ」
「うわっ!?……って。イリナ?……どうしてここに?」
突然後ろから声がしたと思ったら、柔らかいものが背中に当たった。振リ返るとここにはいるはずのない人物がいた。
「あたしだけじゃないよ」
「全く、少しは相談してほしいわね」
「置いていかないでください」
後ろを振り返る――先程まで歩いていた方向を見ると、そこには若干呆れているような表情を浮かべているソーラと、目に涙が溜まっていて、今にも泣きそうなミレイユがいた。
「え、みんなは俺を追放することに反対してないって」
「反対も何もあたしたちそんな話知らないんだけど。あいつがルイ君に話しているときにちょうど聞いたの。声をかけようとしたら何か真剣な話をしてるようだったから」
「意外と聞こえていましたわよ。買い物してたら、聞き覚えのある声がしたのですわ」
「孤児たちのお散歩をしていたら、偶然その場に居合わせてしまって」
「じゃあ、つまりあの時みんなあの場所に居たってこと?」
「うん、それにしても酷い。ルイ君を追放しようなんて」
「本当ですわ、全く。誰もあんなやつと付き合っていないのに」
「本当ですよね。私たちが好きなのはルイさんだけなんですから」
「……え?」
今、ミレイユは何て言った。私たちが好きなのはルイさんだけって言わなかったか。
「ミレイユ、今のはどういう意味……」
俺はミレイユに聞き返そうとしたのだが、それは叶わなかった。俺の唇は、イリナの柔らかい唇によって防がれてしまったからだ。
「イリナ!?」
「ちょっと、抜け駆けはずるいですわ!」
「そうです、私ともキスしてください!」
二人とキスをした。3人の話によると、天職につく前から、俺たちが4人で遊んでいたころから、俺のことが好きだったらしい。全然気づかなかった。そうか僕がやっていたことは、結果として彼女たちを不幸にさせてしまっていたのかもしれない。
「おい、何をしているんだ、ルイ」
「えっと、僕は何も……」
「彼女たちを離せ、盗賊風情がいい加減に」
「ルイ君を傷つけておいてよく言うね」
「ならばもっと傷つけてやるよ。そうされたくなかったらおとなしく3人とも俺のものになるんだな」
「最低ですわね」
「で、どうするんだ?」
「や、辞めてください!」
彼はそう言うと、あっと言う間に僕の背後に回り、僕にナイフを突きつけた。暗くなってしまっているので、人通りは少なく周りで見ている人はいない。
――勇気を出せ。いつまでも弱気でいたら彼女たちを守ることなんて出来ない。僕は強くなりたかった。彼女たちを守るためじゃないか。今のこの状況は僕がむしろ足風となってしまっている。守られてばかりはもう嫌だ。これからは僕が――俺が彼女たちを守る!
〖条件すべてコンプリート〈盗賊〉が進化し、〈神奪〉へと変化しました〗
「これって?」
「何を一人で呟いている。まぁいい、こいつが殺されたくなかったらおとなしく俺のものになるんだな」
〖クリスの〈勇者〉を盗むことが出来ます。盗みますか?〗
俺は迷わず盗むを選択した。すると、どんどん力が溢れてきた。
「分かった、分かったから。もうやめて」
「くっ、卑怯だけど手出しできないわ」
「ルイさん、ごめんなさい」
「そうかそうか、なら約束通りお前たちは俺の物に……ぐはっ」
俺は肘を使って、クリスを弾き飛ばした。これが〈勇者〉の力なのか。〈勇者〉としての知識がみるみる入ってくる。
「くそっ、てめぇ」
「『聖剣召喚』」
「な、なんでその技をてめぇえが!?『聖剣召喚』……なっ!?」
クリスの声には聖剣は応じない。俺が〈勇者〉を奪ったから。俺から大事な人を奪おうとしたお前を俺は許すつもりはない。
「や、やめてくれ」
命乞いをしていたが、俺は、無言で彼に剣筋を掠らせた。彼はそのまま気絶してしまった。
「ルイ君、格好良かったよ」
「やればできるじゃない」
「流石です」
彼女たちは笑顔でそう言ってくれた。彼女たちの笑顔が見れただけでも良かっただろう……ってなんで腕を組んでるんだ!?
「好きな人へのアピールをしないとって思ってね」
「あ、私もします」
「ちょっと、二人とも抜け駆けは許さないわよ!」
彼女たちに抱きつかれて、恥ずかしさからか俺の頬は真っ赤になっているだろう。彼女たちのことが好きかどうかは分からない。でも、また彼女たちと旅を出来るというのは嬉しいと思えるし、これからも一緒に居たいとは思っている。この感情が何なのか何となく分かるけど、いざ口に出すのは恥ずかしいしそんな勇気は今の俺にはない。いつか強くなったらきっと、その時は自身を持って彼女たちの気持ちに応えたいと思う。だから、今は言わない。いつかもっと強くなったときのために。だから俺は彼女たちに違う言葉をかけた。
「これからもよろしくな」
「うん!」
「ええ!」
「はい!」
―――伝わることがない、遠回しの告白を。
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