乙女3.
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ーーー俺は走っていた。それはそれは脱兎のごとく!!
「こらっ!!!ミコトぉぉぉ!!」
遠くから行きつけの酒屋のオカマのババアが俺の名前を呼んでいる。やべぇ。あんな妖怪に捕まったら、今度こそ殺される。
ちらりとさっき振り返ったとき、鬼のような顔でこちらに叫んでいるのをみて、髭を剃り青くなった顎とピンクのアイシャドウとドレスから出るムキムキの上腕二頭筋が相まって、この世の終わりだと確信した。
「ーーーーまた私のコレクション割りやがったら、ケツ差し出してもらうわよ!!!覚えてなっ!!!」
「げぇっ!!!!」
オカマの仁王立ちから放たれる覇気は、奴の持つ身体能力向上の魔力を寄るものだが、その覇気を乗せたその言霊は、ミコトの身体を震わせるに十分だった。(というか街ゆく老若男女全員とびあがってた)。
昨日いつものように朝まであのオカマの店で、飲み明かしていた。そうこうしているうちに、調子にのったミコトは、あのオカマーーーークレアのコレクションである貴重なワインボトルを床にブチまかしたのだ。
明らかにミコトが悪かったし、ミコトも悪いとは思っていたが思わず有金全部置いて逃げてしまっていた。ヘタレの習性と本能が反応してしまった結果である。
とはいえミコトの置いていった有り金と言っても、飲み代ぴったり分しかないのだが…。明らかに下衆の所業だった。反省はしている、後悔はしてない!
「おーい!ミコト!またクレアのとこでなんかやらかしたのか!」
「っるせー!」
街の人々が笑っていた。
道ゆく男どもは茶化すようにミコトに次々声をかけていく。女たちはいつもの光景だとばかりに、呆れたように肩を竦めていた。
そんな人々を尻目にミコトは、クレアが見えなくなったあたりで走る足を緩めた。走って乱れた息を落ち着かせるために吐き出す。
そのまま乱れたこの街ではよくある茶色の髪を撫でつけて、ゆっくりと歩き出した。疲れたし、飲み明かしだあとで走ったので頭が痛い気がする。最悪の気分だ。
今年で27歳。毎日飲み明かすのはどうかと自分でも思っているが楽しいので辞められないのも事実であった。
「くっそ、クレアのやつちょっとくらい許せっての」
『それはマスターのせいだよな』
急に話しかけられて、ビクッと震えた。視線を下にすると小さなネズミが真っ赤な瞳をくりくりしながら、二足立ちで腰に手を当てて、こちらを見上げていた。
真っ白なネズミのくせに、ネズミらしくなく体毛がモフモフとついているそいつは、地面にいても汚れなく真っ白でより気味が悪かった。しかも喋る。
そんなネズミはここ10年ずっとついてくるストーカーネズミであり、本人は"ハムスター"という種族だと主張しているがそんな種族知らないので、ネズミの戯言だと思っている。
「あ?ワサビは黙ってろっつーの、ブサイクめ」
『は?目おかしいんじゃね?この俺は、めちゃくちゃかわいいだろ』
チューチューと主張して叫ぶネズミは自然とミコトの肩まで登り、定位置の右肩におさまった。
喋っているというものの、こいつの言葉は俺しかわからないものらしい。外野にはチューチュー言ってて可愛いとかなんとか。
ーーー世の中には魔力を持った動物が本当に稀に存在する。魔力を持った動物は、例えば足が早かったり、その動物とは造形が変わったりなと突然変異が起きる。そういう魔力を持った生き物をこの世界では、魔獣と呼んだ。
そんな魔獣と呼ぶにはあまりに小さく不思議な存在がこのネズミーーー、ワサビである。
『相変わらずムカつく人間だな…で?今日は仕事か?』
「まあ、このままいこうかと。有り金ねぇし‥…」
『クズだな…』
チュウ…とちょっと肩の上で後退りしたワサビ。え、ネズミにまで引かれるってどういうこと?
ミコトは少しショックを受けつつミコトは歩みを進めていた。
帝国首都であるカザールの中心部を向かうと、白を基調とした建物は徐々に荘厳となり、至る所に彫刻が置かれている。建物には様々な彫刻が施されており、その先には画家の彫刻、医者の彫刻など種類は多種多様のものが並ぶ。
昔は識字率が低く、こうして彫刻によって住所を明らかにしていた時代の名残であった。
そんな一角に巨大な翼が施された建物が現れた。その扉に手をかけて押した。




