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ヤクザ者  作者: 夜市
1話 岩島という名の男
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 岩島に出会ってから二日目の夜。きらびやかなネオンが輝く飲み屋街に和真は居た。今まで無縁だったその場所は、着飾った男女で溢れていて、自分は場違いだとさえ思ってしまう。

 着慣れないスーツを身にまとっている和真は、人々の視線を集めていた。その理由を知る由もない和真は、居た堪れない気持ちになった。帰りたいと思うが、一緒にいる岩島がそれを許さない。

「白石、なにしけた面しとんねん。せっかく散財しとるんやから、楽しまなあかんで?」

 微酔い状態の岩島が、肩に手を回してきた。和真はやんわりと断ろうとしていたが、色々と世話になっている手前断れずにいた。

 神田組の若頭と聞いた時には、驚いて耳を疑った。ヤクザとは思ってはいたが、銀楼会ぎんろうかいのそれも神田組の若頭とは思ってもみなかったからだ。

 九州の広域暴力団として有名な銀楼会。その中で最も有名なのが神田組だ。幹部の神田孝則かんだたかのりは実力者の一人で、外部までその名を轟かせている。

 そんな組の若頭はもっと堅苦しい人間かと思っていた。しかし、実際は違って、おちゃらけた若者でしかない。服装もワニ柄のジャケットというふざけた格好。だから、若頭という威厳は微塵もない。

「すみません。こういう店苦手なんで」

「ほうか。せやったら、今から好きになればええ」

「いや、だからーーー」

 何度も断ったが無駄だった。和真を強引にキャバクラの店の中へ入れようとする岩島は、どこか楽しそうだ。

 楽しそうにしている岩島を見ていると断ることが出来なかった。なぜなら、和真にとって岩島は命の恩人だからである。

 店の中へ入ると、眩しいくらいに照明が輝いて見えた。それと同じように、着飾った女達も輝いて見え、まるで別世界の人間のようだ。

 テーブルを囲むソファーに座れば、三人の女達がソファーへやってきた。

 和真の隣に座ったのは里奈りなという女。垂れた目を細めて和真を見る里奈は、わざと彼の腕に身体を密着させ、

「お兄さん、どこからいらっしゃったんですか?」

と甘えた声で訊ねる。

 それを聞いて何になるというのだ。里奈に興味のない和真は、彼女を見ずに、

「どこでもいいだろ」

「……そうですよね。じゃあ、お好きな物は何ですか?」

「それを知ってどうするつもりだ?」

と聞き返されて、里奈は返事に困った。

 やり難いことこのうえない。これでは、気の抜けた見合いだ。

「白石、ちゃんと答えなあかんで? そんなんやと、女が逃げるわ」

「俺は別に逃げられてもかまいません」

「お前、一生独り身でおるつもりか?」

「そういうカシラはどうなんです? 楽しそうには見えませんが」

と和真が言い返した瞬間、岩島はジロリと彼を見た。

「ワシは楽しく酒が飲みたいさかい、ここに来たんや。せやのに、しけたこと言うなや」

「女好きだからじゃないんですか?」

 それがどれだけ失礼な質問か和真は分かっていた。それでも聞いてしまったのは岩島という人間に興味があるからだ。

「あんなあ、ワシには心に決めた女がおんねん。せやから、他の女には興味あらへん」

 女達は驚いた顔をしていた。少なからずも、彼女達は岩島が女好きと思っていたのだろう。

 その一方、和真は岩島が好意を寄せている女に興味があった。岩島が好きになる女だから、よほど美人に違いない。

「どんな女なんですか?」

と和真が聞くと、岩島は照れ臭そうに、

「お兄ちゃんお兄ちゃん言うて、めちゃかわええんや。ほんま、抱きしめたくなるわ」

「え、子供?」

 岩島の右隣にいた女が思わず呟いた。その瞬間、岩島が女を睨む。

「あ? 恋愛に年齢は関係あらへんやろ?」

 そそそ、と女は舌をもつれさせて、

「そうですよね! 恋愛に年齢は関係ありませんよね」

「店は綺麗やけど、接客は最悪やな。白石、帰るで」

 岩島は吐き捨てるように言うと、ジャケットの懐から財布を取り出した。そして、彼はその中から壱万円札を数枚抜き取ると、テーブルの上にそれを叩きつけた。直後、岩島と和真は店から出ていく。

 すると、女達の機嫌が頗る悪くなり、彼女達は蔑むような目で岩島達を見ていた。





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