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すると男は和真を食い入るように見て、
「ちゅうか、なんちゅう格好してんねん。ええ男が台無しや」
と言われ、和真は店の窓ガラスに映る自身を見た。
ボロボロのダウンパーカーに血だらけのアウターウェア。紺色のジーンズには赤い斑点模様が出来ている。そして、ボサボサの黒髪はなんと血生臭いことか。
何も答えずにいると、男は溜息を吐いて、
「ジブン、名前は?」
と聞かれたが、答えることを躊躇してしまう。なぜなら、男が和真の命を狙っていないとは限らないからだ。
訝しむように男を見ていると、彼はまた溜息を吐いた。そして、男はガシガシと頭を掻いて、
「ワシが信じられんならそれでもええ。少しでも信じよう思うなら、黙ってついてこい」
男は背を向けて歩き始めた。静かな路地にカッカッという足音が響き、男の背がしだいに遠退いていく。
行くべきか行かぬべきか。和真は悩みに悩んだ末、男の後を追うことにした。
飲み屋街を抜け、小倉駅方面に向かって歩く。感じる人々の視線。これでは見世物小屋と変わらない。
いったいどこへ向かっているのか、そのことを聞こうとした矢先、男性はコインパーキングへ入った。
「あんた、なんでーー」
「ワシはあんたやない。岩島や」
精算機にお金を入れようとしていた岩島が和真をジロリと睨む。その目は威嚇する猛獣のそれと変わらない。
いいい、と和真は舌をもつれさせて、
「岩島さん、なんで俺を助けてくれたんだ?」
「助ける? 何のことや?」
「俺を助けてくれたんだろ?」
岩島は精算機からお釣りを取って、
「何でワシがお前を助けなあかんねや?」
和真は返事に困った。質問に質問で返されては答えようがない。それに、てっきり助けてくれたのだと思っていたものだから拍子抜けだ。
「ワシはおもろいモノ見つけただけ。ただそれだけのことや」
男性が白の乗用車に向かって鍵を向けた。セダンタイプのクラウンから、鍵が開閉する音が聞こえてくる。どうやら、それが岩島の車らしい。
「早う来い。早う来んと置いてくで?」