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平和の定義  作者: 雨宿り
妖精の森
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湖と妖精王の寝床との間に、兎和の家は建てられることになった。獣人の村からは離れているが、この方が獣人達も安心して生活できるだろうという兎和の考えである。

とは言いつつ、建てる場所を探していた所、元々妖精達が憩いの場として使っていた、平地を見つけたのだ。今はもう別の場所にこうして同じようなものを作っているらしく、使わないと言っていたので、木を切り倒す手間も省けるとそこに決めた。


獣人達の仕事は早く、獣人の村から離れたこの場所へも資材を運び終えるのに数日、建てるのに数日、という猛烈なスピードで、家を仕上げてみせた。


レンガ造りで、立派な煙突があるその家に、兎和は感動して、目をきらきらと輝かせた。



「お嬢ちゃん、中もちょっと凝ってみたんだ。見てくれや」

「はい!」



猪の獣人である彼は、厳つい見た目からは想像できないほど細かい作業が得意で、家の中の装飾を全て手掛けたという。

キッチンの引き出しや窓の縁などには、花の模様が彫られており、綺麗にペンキで色が塗られている。

なにより、兎和は暖炉を初めて見て、一層舞い上がった。冬になるのが楽しみだと今からウキウキする兎和に、獣人達は皆顔を揃えて笑い合った。


こうして、兎和の妖精の森での生活は幕を開けたのだった。









「…まぶい」



家が完成し、ちゃんとした寝床に安心した兎和は、惰眠を貪ったようで、朝の4時過ぎに目が覚めた。壁に掛けられた時計がチクタクと時を刻む。

欠伸をしながら、昇ってきた朝日を眩しいと遮り、開いていない目をぱしぱしと瞬きさせた。

顔を洗いに水を汲もうとドアを開け外へ出る。



(これだけが不便なんだよな)



水はヴィーが住む湖から引いている。

衛生面的に人が浸かってる水って大丈夫なの…?と兎和が言えば、ヴィーは失礼だなあとぷりぷり怒る。魔法はなんでも出来るからね、なんて言っていたから、きっと平気なのだろうけれど。



「ぷはっ」



不思議なくらい透き通ったように感じる水の冷たさに目が覚める。そうして、背伸ばす為にストレッチをすると、ひと息ついてから家のドアの前に目を移した。…なんだあれは。



(え、もしかしてさっきからいた?)



そこには2匹の犬がじっとこちらを見たまま動かずにいた。


1匹は真っ白で、もう1匹は真っ黒。見つめる瞳は2匹とも綺麗なブルースカイで、思わず吸い込まれそうだ。長い扮と尖った三角の耳を持ち、がっしりとした牧羊犬のようだが、毛並みも綺麗で、足元も汚れてる様子がない。



「ちょっと、ごめんね」



近寄り、目線を合わせるようにしゃがみ込み、兎和が1匹の首元に触れる。どうやら、首輪はつけていないようだ。当たり前ではあったのだが、飼い犬ではないらしい。ならば迷子か?と首を捻るも、この森で?という疑問が頭に浮かぶ。


大人しいな、と、兎和が白い方に触れていると、隣の黒い方がすりっと兎和の足に頭を擦り寄せた。



(あ〜〜〜〜かわいい…)



まぁなんでも良いか…と軽率に、兎和は2匹を部屋に招き入れた。



「白い方はシロで、黒い方はクロ…ってそのまんまだけど、呼び名があった方が何かと楽だよね」



2匹が喉を鳴らす。


この出会いが後々、波乱を巻き起こすなどとは露知らず。









「おや…」



いつもの通り湖へ足を運んだ兎和だったが、ヴィーは兎和の後ろを従順に着いてくる2匹を目にすると、頭を抱えながら、ぷかりと仰向けに水面に浮かんだ。


そんな光景に首を傾げた兎和だったが、目の前から飛んで来て胸に飛び込んだ毛玉を抱き留めると、両手で子供に高い高いをするかのように持ち上げた。これもいつものことだ。



「毛玉〜おはよう」

「きゅ!」

「かわいい〜〜〜〜〜〜」



毛玉のもふもふに顔を擦り寄せる兎和だったが、ヴィーが軽蔑の眼差しを向けてくるのに気が付いた。


最近分かったことだが、ヴィーは中々失礼だ。

穏やかで美しい見た目をしているのとは裏腹に、何を考えているのか思考が読めないだけでなく、唐突に貶し始める。まぁ最も、兎和が日常的に危ないものに手をつけたりするからであろうが。



「さっきからなんで見てるの?」

「いや…」

「?変なの」



ね?と毛玉に言うと、毛玉は嬉しそうに鳴いた。


ヴィーが少し焦ったように何かを言おうとしたその時、兎和の足に絡み付くように、シロとクロの尻尾が巻き付いた。それはぎゅっと離れない。



「クロ?シロ?」



2匹の視線は鋭く、兎和を見つめて離さなかった。否、2匹が見ていたのは、兎和ではなかった。



「え?え?」

「…はぁ…トワ、ファルムを今すぐに降ろしなさい」

「わ、分かった」



毛玉を草に降ろすと、2匹の視線はそちらに釘付けになった。


ギョッとする兎和に目もくれずに、2匹が喉をぐるるると低く鳴らすと、毛玉は身の毛を立たせ、震えながら森の奥へ逃げてしまった。



「え、ちょ!?」

「トワ、キミはその2匹が何だか分かって連れてきたのかい?」

「何って、犬じゃないの?」

「…前から思っていたけど、キミは阿呆なんだね…」



湖の水を操り、ヴィーが鞭のような形を作ると、それを2匹がいる兎和の足元を目掛け振り下ろした。バチンっと音が反響し、小鳥や虫の鳴き声が止む。


兎和の足が震えた。2匹の無事を確認しようと下を向くも、2匹の姿はそこにない。少し離れた場所から、威嚇するように前のめりにヴィーを睨んでいる。



「トワ、いいかい。この森には憲法や法律もないが、暗黙の了解があるんだ」

「暗黙の了解?」

「そう。毛玉…ファルムを初め、妖精には絶対に名を与えてはいけないんだよ」



ヴィーが2匹を見る。


兎和の顔がさぁっと青白くなる。いや、あれは名付けたことに入るのだろうか。アウトか、セーフなのか。



「ク、クロ、シロ…こっちおいで…?」



ぐっと拳に力を入れながらそう言えば、2匹の表情が一変する。消えて見えるほど一瞬で、大人しく甘えるようにして兎和の足元をくるくると回った。嗚呼、やってしまった。ヴィーの顔が見れない…と、兎和は口元を引き攣らせる。

ヴィーが眉間に皺を寄せながら水を操ることを止め、湖の縁に頬杖をついた。



「トワ」

「…うい」

「なんなのその返事」




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