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平和の定義  作者: 雨宿り
妖精の森
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「危うく死ぬところだったんですよ!誰だって怒ります!」



あの出来事があってから二日が経った日。

兎和は湖のほとりで、出会った日のように、ヴィーと毛玉含む動物達とお話をしていた。お話という名の愚痴だが、ヴィーは嫌な顔ひとつせずに兎和の話に耳を傾ける。


あの日のことを、簡単に許せるほど、兎和は優しくなかった。首には今でも赤く痕が残っているのに、むしろ怒らない人が何処にいるのだろうか。


だが、オベロンは第一印象で感じたほど意地悪では無かった。

常識を外れた行動を取ることが多いだけで、根は優しい。ヴィーがオベロンは不器用だ、とよく口にするが、果たして、これを不器用と言っていいのだろうか。ただ、妖精や動物に舐められている態度等も、彼を信頼してこそのものだろうという事くらい、兎和は分かっていた。


首を絞めたことに関して、声を荒らげ怒れば、オベロンは眉を下げ謝った。そしてこうも言った。



「なるほど、魔法を弾くことができる、か」



ヴィーが、心当たりがあるように頷く。



「ああ、だから、キミが空からこの湖に降ってきた時、水の力で押し上げようと思ったけど無理だったんだ」



そういえば、自力で岸まで上げたと言っていた気がする。



「…すみません。まだ制御が上手くいかないみたいで、無意識に発動してしまうこともあるだろうって」

「確かに、魔法にも制御が出来るのと出来ないのじゃ雲泥の差があるから、出来るようになったら、きっとそれはトワがこの世界で生きていく上では、強い武器になるかもしれないね」



兎和は、既に同じような事をオベロンに言われていた。それと共に、森にいるという選択をするならば、森の為になることを自分自身で見つけろとも。


確かにそうだ。森に住む者達も、誰もが呑気に暮らしてはいない。憲法や法律がない分、自由ではあるが、皆が皆自分のやるべき事を見つけて、バランスを取って生きている。

それこそ、毛玉たちファルムは、草が長く伸び過ぎないように調整する役割を担っているらしく、可愛い上に立派だ。



(草食べてるだけだけど)



ファルムのように、小さなことでも良いからやれる事を見つけてみせるのを約束し、オベロンには此処に居ても良いという許可を貰ったのだ。



「で、話が戻るんだけど、オベロンにお願いをしたんだって?」

「はい。此処にいても良いことになったので、家を作ってもらえることになって」

「それはまた、骨が折れそうな話だ」



兎和が首を傾げると、ヴィーは指笛を吹く。すると数秒して、何処からともなく現れた青い鳥が、ヴィーの腕に止まった。その口には紙のようなものを咥えている。ヴィーが紙を受け取ると、鳥は役目を終えたかのように空に消えた。


ヴィーが、ヴィンテージ感溢れたその紙を広げてみせた。



(地図だ)



オベロンの部屋にも貼ってあったのを思い出し、地図に指を添えながら、頭の中で覚えていることを確認する。



(北のアスティアラ、東のミルドコル…西の凛星に、南のシーラ…そして真ん中と国境にあるのが妖精の森…)



こちらの世界の文字は理解出来ないが、与えられた情報から何となく場所は掴んだ。最も、首都やら国内の街の名前等は以ての外だが。


こうして見ても妖精の森は広い。

森の中にも幾つか名前がついた場所があり、ヴィーの白く長細い指が、森の中心部を差した。



「此処が妖精王の寝床。そして、僕達が今いる湖は、そこから少し西に行った所だよ」

「地図で見ると、結構凛星に近いんですね」

「うん。凛星は四国の中でも比較的争いを好まない国で、自然も多い。妖精達の中には、たまにお忍びで遊びに行く者もいるよ」

「そうなんだ」



そういえば、観光業が盛んって言っていた気がする。ただ、国の収入源がほぼ観光業であるから、他国の人であろうと、咎を起こすと、他国に許可なく罰すようになっているらしい。


ヴィーの指がするりと東に移る。



「そして此処が、獣人が住む村だ」



獣人。

名の通り、獣と人の間に生まれた種族である。

今でこそは妬み嫌われ、妖精の森の片隅にひっそりと村を置くほど追いやられているが、過去には何処かの国で活躍していた者もいる。



「オベロンは、彼等を頼るつもりなのだろう」

「…でも、人間が嫌いなんですよね」

「…そうだね、あまり良い顔はしないと思う。この森が守られているのはオベロンのお陰だから、彼の言うことは絶対だけど…どうだろう」









「人間の、ですか」



ヴィーが言っていた予想は当たった。


数人の獣人を前に、兎和はどんな顔をしていいのか分からず、無言で直立していた。獣人達からの視線は困っているというような、迷っているような、というもので、兎和が思っていた嫌悪の情ではなかった。まぁ、十中八九、隣に王さまがいるからであろうが。


オベロンが、腕を組みながら獣人達に要件だけを伝える。こいつの家を作ってやってくれ、と。言葉足らずにも程がある…、と兎和は心の内で苦笑いをした。



「作る…分には構いませんが、何故人間をこの森に住まわせることに…?」



猫の獣人が困惑したように問う。



「こいつは何処の国から来たわけでもなく、異世界から来た。帰る場所もない。それと、」



(なに)



ちらりとオベロン兎和を見る。



「俺が、傷をつけてしまったから」



そう兎和の首につっと指を這わせた。

げんなりする兎和の表情と同時に、しん、とその場が静まり返る。


兎和が、パッとオベロンの腕を弾く。

キョトンとするオベロンを後目に、兎和は一歩前に出ると、獣人達に向き直り、頭を下げた。


獣人達は驚いた。過去にも未来にも、人間は自分達に頭など下げる生き物だとは思ってもいなかった。



「私、この世界のことがまだよく分かりません。貴方達が人間のことがあまり好きではない理由も、全然知らないです。…でも、この世界で生きてみようと思っています。私がこの森で出来ることを、見つけたから」



バッと顔を上げた兎和の表情は真剣だ。



「私が、貴方達を、森の皆を守ると誓います」



自分自身が森の為に出来ること。

つい最近知った自分の力を、彼等のために使う。それが兎和の出した結論であった。



「あぁもちろん、オベロンのことも守るよ」



付け加えたようにそう言いながら、ニッと兎和が子どものように笑う。

ギョッとした獣人達は、ハラハラしながらオベロンを見る。


オベロンは、少し目を細め額を抑えると、溜息をつき、頷いた。




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