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平和の定義  作者: 雨宿り
妖精の森
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リスタリース大陸。

この世界の中でも最大の広さを持った大陸であり、兎和がいた日本と同じように、四季が存在するという。


リスタリース大陸は四つの国と妖精の森と呼ばれる場所から成り立っている。

北のアスティアラ、東のミルドコル、西の凛星、南のシーラの四国だ。妖精の森は、大陸を四国に分けた内の中央とその境に蔓延(はびこ)っており、ここに身を置く者は妖精や動植物達、そして獣人だ。中でも、獣人の多くは人間を嫌っている。


その四国は、平等に区切られてはいるが、隙を狙っては大陸統一を目指す、野心的な国もあるらしく、いつ戦が始まるかは分からない状態だ。



「国の王は、何処も魔力の強さで決まる。たとえそれが平民だろうが奴隷だろうが、王族や貴族より魔力が強ければ上の位に立てるということだ」



オベロンの説明は丁寧であった。


最も、そうは言いつつ、魔力を持っていない親から魔力を持った子供が生まれることはない為、結局王族貴族が有利な立場であるそうなのだけれど。


魔力を持たない者も、武器や首飾りなどの装飾品などから力を借りることで、素の状態よりも能力が発揮出来るという。

魔法石がよく採れる山の多いこの妖精の森は、人間達が何としてでも手にしたい場所である。森以外の四国にも幾つか採れる鉱山はあるが、やはり量が少ない。魔法石は高い値で売れるし、一定数を使い続ける程度であれば効力は数十年持つ。魔法石の量=武力にもなる。ここ数年、そんな理由で魔法石目当てに、森に侵略して来る人間が後を絶たなかった。

だが、万能な魔法石が、貪欲で傲慢な人間の手に渡ったらどうなるかなど、オベロンには分かり切っていた。



「それ故に、この森と四国の境とその上空には、俺が作った結界が張られている。人間と、爆弾などの害を与える物は通り抜けないように作ってある。…それを、どっかの誰かさんが突き破ってくれたお陰で、修復しなきゃいけなくなったがな」

「うっ…すみません…」



オベロンが大きな溜息をつく。だから怒っていたのか、と、兎和は申し訳なさでいっぱいだった。



「ただ、気になることがある。何故壊れたのかだ」



森の遥か上空にオベロンの結界は張ってある。普通の人間なら、上空からなど、到底侵入出来ないだろうが、魔力持ちはそうではない。境ほどの厚さでは無いが、念には念を入れて森全体を囲うことにしたのだ。

オベロンは、人間を好いていない。が、攻撃を仕掛ける気もない。であるから、結界の作りは何十層もになっており丈夫だが、危害を加えないように作っている。もし結界で怪我をして、戦の理由にされたら骨が折れるからだそう。

その為、通常、結界は侵入者を拒む。入ろうとすると壁に当たったかのような感触がするのみということだ。

それを考えると、"普通の"人間であるなば、兎和は息もできない上空、結界の上に取り残されるはずだった。



「だが、お前はそれを破った。この大陸一の魔力を持つ俺の結界が、硝子かと思うほど(もろ)く散った」

「…それは、私が普通の人間じゃないってこと…?」

「そう考えるのが妥当だろう。しかし、お前から魔力という魔力は感じない。魔力でない他の何か…俺の脅威となる力を持っているとしたら、あまりにも危険だ」



オベロンの目付きは鋭い。つまり、早い内に排除すると告げているのも同然だ。

背をつーっと冷や汗が流れ、兎和もキッと睨み返すようにしてオベロンを見つめながら口を開く。



「どうしたら良いんですか」

「…そうだな。試しに、…」

「っ!?」



オベロンが王座から消える。背後に何かを感じ、後ろを振り返ったその時、兎和は自身の首が絞められていることに気づいた。それはオベロンであるが、オベロンの腕ではなく、彼が身に纏っていたオーラで作られた魔物の腕だ。ギリギリとそれが兎和の首を絞めつけた。



「ぐっ、ぁがっ…」



苦しむ兎和を前に、オベロンはいつの間にか王座に座り冷たい目で兎和を見下ろしている。



(っこのままじゃ、死ぬってば!!)



どうしたら、と頭で考えるも、段々と酸素がなくなり思考が停止してくる。



(っ、んのっ!…)



すると、途端に身じろいでいた兎和の動きが鈍くなる。オベロンがもう限界か、と魔法を解除しようとしたその瞬間だった。


兎和が魔物に向けて力を振り絞り腕を伸ばした。震える手のひらを魔物に掲げると、そこから白く眩い光が放たれる。それを浴びた魔物は、音も声も出さずに、サラリと兎和の視界から消えた。


どさりと地に体が落ちる。



「げほっげほっ、ぁ"〜…」



(死ぬかと思った)



人生で初めて生死をさまよった兎和は、地に四つん這いになると咳き込みながら、呼吸を整える。肺に空気が溜まっていくのがこんなに気持ちいいなんて、首を絞められてまで知りたくもなかったが。心臓のどきどきは暫く鎮まらないだろう。



「う"っ!?」



休む間もなく、勢いよく降りてきたオベロンが、兎和の前にしゃがみ込み、その肩を強く掴んだ。表情には戸惑いと焦りが浮かび、肩を掴むその手はわなわなと震えている。



「お前…」



兎和がゲンナリした顔を上げ、汗がだくだくのまま虚ろ目でオベロンを見上げる。ぴくぴくと引き攣る口角。明らかに兎和は苛ついていた。




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