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第一章 旅立ちは突然に。6

地味でたいして美人でも可愛くもないただ少しばかり幼顔なだけで、むしろ子供に見えるわたしにわざわざ手を出そうなんて男性はそうそういない。

 わたしは結構本気でそう思っている。

 実際子供扱いされることの方が多いくらい。


 だけど逆に地味で幼く見えるから、強引で乱暴な真似をしてもおどおどするばかりでろくな抵抗もせずに流されてしまうようにも見えるのか、実はこういったことは始めてではない。

 さすがに国にいるときは公女相手に襲いかかる人間はいなかったけど、国を出てからは似たようなことが何度かあった。

 いきなり外で引き倒されて襲われるのは始めてだけど。


 ご子息様--いえ、もう男でいいわよね。男は股間を押さえてうずくまる。

 けれどすぐに激情した様子で掴みかかってきた。

  

 わたしはするりと避けると、その手を両手に握る。

 そうして掴みかかってきた勢いを利用して、投げた。


 どすん、と鈍い音がする。

 

 くるりと一回転して背中から地面に叩きつけられた男は、衝撃で肺から空気が一気に抜けたのか小さく呻いて次いでゴホッと咳き込んだ。


 わたしは仰向けに倒れたその顔面に、思い切り体重を乗せて右足を振り下ろした。


 わたしは性犯罪者には容赦も遠慮もいらないと思う。

 むしろとことんまで一度痛い目に遭っておくべきだと思う。


 だってわたしがこの場でただ逃げ出したとして、きっとこういう男はまた別の女性に同じことをする。

 その人はわたしのように抵抗するすべを知らないかも知れない。

 わたしのように「これもう護身術のレベルじゃないわよね?」というほど武官たちから体術やらを仕込まれてはいないかも知れない。

 襲われて怖い思いをして、トラウマを負って、その上で貴族相手、雇い主だからといって泣き寝入りするしかないかも知れない。


 だからわたしは決めている。


 こういう相手には逆にトラウマになるほど痛い目に遭ってもらうと。 

 正直他人を傷つけるというのは、あまり気分のいいものじゃない。

 でもやる。


 ぐしゃり、と音がして、靴を履いた足の裏に柔らかい肉を感触と、固い骨の感触がする。


 ぐしゃり。ぐしゃり。


 続けざまに三度それを繰り返すと、男の顔は鼻水と鼻血と涙と唾液でグチャグチャになった。


 後で仕返しとか、訴えられたりとか、そういったことを心配する人がいるかもだけど、わたしは曲がりなりにも一国の公女だ。

 いざとなれば男爵家ごときなんとでもなる。

 少なくともここがフランシスカである限り。

 わたしは王妃様に可愛がられているし、お義兄様--この国の第二王子にも実のところ溺愛されているから。


 その場合、身分を明らかにしないといけないので、できれば避けたいけれど。  


 いえ、でもきっと、表沙汰にはしないでしょう。

 だって、そうすると襲ってきた自分にも都合が悪いものね?


 男がピクピクとしか動かなくなって、わたしはようやく足を止めた。

 鼻の骨が折れて歯もたぶん折れたからか、心なし顔の形が変わっているような気がする。


 でも仕方ないわよね?

 だって自業自得だもの。


 新しいお邸に勤めるのだからと新調したばかりの靴がずいぶんと汚れてしまったので、男の服にこすりつけて拭ってから、わたしは母屋へと歩き始めた。

 与えられた部屋に戻ってしっかりと鍵を閉めてからベッドへ入った。

 色々問題は起きるかも知れないけれど、すべては明日になってからだろう。


 そう思って目を瞑るとスプリングがいいのか、寝心地の良いベッドはすぐにわたしを眠りの中に連れて行ってくれた。



 そうして朝一、わたしはクビを言い渡されたのだ。

 なにもしてなくもなかったかも。


 うん、これも自業自得かも知れない。

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