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第一章 旅立ちは突然に。2

最盛期には鉱山には百を越える鉱夫がいて、裾野にはその家族が暮らす街があった。

 血気盛んな鉱山の男たちを相手にする夜の酒場や花街。

 家族たちを相手にする昼の様々なお店。

 道には露店が立ち並び、路地の奥には金を錬成する工場や金細工の工場が立ち並ぶ。


 ヴィルトルの繊細で瀟洒な金細工は大陸中の王侯貴族に人気で、次から次へと注文が入り、商人たちがひっきりなしに街を訪れた。


 すると商人たちを相手にする宿屋や食事所がたちまちに増え、人が増えるから土地を切り開き街を広げていった。

 この頃のヴィルトル公爵領は間違いなくフランシスカのみならず大陸中でも有数の大都市だった。


 わたしは生まれる前の話。

 わたしが生まれた頃にはすでに金は採り尽くされていて、鉱山は閉鎖されていた。

 街には人がいなくなり、店は数を減らしていた。


 薄汚れた石畳と空き家だらけの家。

 街に住む人々の食べ物を自領で開墾し賄っていればまだ別の先はあったのかも知れない。

 けれどそのほとんどを輸入に頼っていた我が領地には他領に売れるだけの農作物もなくて。

 錬成や細工物の職人は皆他領や他国にスカウトされ外に出て行ってしまった。


 残ったのは広いだけの領地と決して多くはない領民。

 復興させるにも農地を広げるにも特産品を作るにも観光地を作るにも先立つものがいる。


 けれどどんどん先細りする財政では資金を調達することも難しくて。


 フランシスカの援助でなんとかギリギリ公国の体面は保っているものの、わたしのお父様の代にはヴィルトル大陸有数の大都市から大陸有数の貧乏国家に様変わりしていた。



 それこそ再来年、13才で大陸の王侯貴族の子息が集まる学園--グノーブ貴族院に双子が入学するための学費にさえ事欠くほど。


 大陸一の大国グノーブにあるグノーブ貴族院は諸国の王侯貴族の子息たちの交流の場であり、学びの場として20年ほど前に設立され今では大国各国の王侯貴族の子息たちはここに通うことが当たり前となっている。

 逆にいえばここに通わないということは、将来をドブに捨てるに等しい。


 貴族院を卒業しているか否かによって将来の道が大きく違えられる。


 成人した後は貴族に下ってある程度自立しなければいけない双子には必須な学歴。

 双子たちの成人後の面倒が見れるほど公国に余裕はないのだから。



 けれども一人でも高額な学費が一度に二人分。

 それ以外にもグノーブまでの旅費に日々の生活費、教材費に寮費。

 もろもろかかる経費はずっしりと公国の財政にのしかかった。


 わずかに残っていた城の中の金目の物を売り払って、一人分の学費と二人分の生活費は確保した。

 けれどもどうしても一人分の学費が足りない。

 借金をしようにもろくな担保もない公国にはどこの金貸しも必要な額を貸してはくれないしまして返す宛てもない。



 そこでわたしは決意した。

 可愛い弟たちのために。


 自分が出稼ぎをして足りない学費を稼いでこようと。

 ついでにできればお小遣いの少しも持たせてあげたい。

 貧乏国とはいえわたしは公女で箱入り娘だ。

 しかも人見知りが激しく夢見がちなところもあると言われるしぼんやりしたところもある。

 おっとりしているといえば聞こえはいいが、つまるところ世間知らずのお嬢様。

 掃除や洗濯どころか雑巾を絞ったことさえない。

 そんなわたし--リディアに出稼ぎといってもいったいどんな仕事が出来るのか。


 両親や城の皆の反対を押し切り隣国フランシスカの王都に侍女を一人だけ連れて出てきたのは三年前。

 持参金も出せない貧乏公国の第三公女になかなか嫁入り話が来ないのをいいことに18になったばかりのわたしは半ば以上家出に近い状態で城のみならず国さえ飛び出した--。


 

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