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第一章 旅立ちは突然に。17

 ずっと走り続けて、息も上がっているし足はズシリと重い。痛む横腹を押さえながら、わたしは広い港を見回した。


 勢いに任せて走って来たものの、そういえばわたし、リルたちがどんな船に乗るのか知らない。

 そのことにここまで来て気がついた。


 女将さんに聞きに戻れば良かったかしら。


 もしかしたら聞いていたかも知れないのに。

 でも、聞いていないかも知れないし。


 ここまで来て戻るのも躊躇してしまう。

 足も限界で、引き返して出直すのはキツい。

 なによりわたしの気持ちが、戻ることで怖じ気づいてしまいそう。



 わたしは辺りを見回して、一番近くにいた人に声をかけた。


 この国で、獣人は珍しいもの。

 きっと見かけた人は覚えているはず。


 知らない人に声をかけるのは勇気がいるけれど。

 これからわたしがしようとしていることと比べたら、どうってことないわよね?


「……あの、すみません」


 声をかけたのは、商人らしき男の人だった。

 手にした書類をみながら船に載せる荷を確認しては、船員の人たちに指示を出しているみたい。


 恐る恐るかけた声は、小さすぎて聞こえなかったみたいだ。

 男の人はわたしを見ずに指示を出し続けている。


「あの!」


 とわたしはより近づいてお腹から声を出した。

 するとようやく手元から目を上げてわたしの方へ顔を向けてくれる。

 でもその顔に「邪魔」って書いてある気がするのはきっと気のせいじゃないわね。


「すみません!」  


 と、わたしはガバッとばかりに頭を下げる。

 だけどここで引くわけにはいかない。

 ここで引いてしまったら、わたしはこの先も引いてしまうもの。

 大抵の船が出航時間には早いこの時間。

 港にいる人たちは皆忙しそうに立ち回っている。


「獣人の人たちを見ませんでしたか?港にいるはずなんです」


 わたしが言うと、男の人は露骨に眉を寄せた。


「獣人だと?そんな汚らわしいものは見ていないな。あんたもあんなものには関わらない方がいいんじゃないか?」


 その言い方と台詞にムッとしてしまうけれど、顔には出すまいと唇を噛んだ。


「そうですか、ありがとうございます」


 口早に礼を言って、その場を後にする。


--リルたちは、汚らわしくなんかない。


 けれどこのような差別主義者はまだ大勢いる。

 近頃では、西の諸外国とも国交も増えてきて、獣人の国との貿易量も少しずつ増えてきている。

 それでもまだ、こういう人は驚くほどたくさんいるのだ。


「……商人ってのは、世界を股にかけるものでしょうに」


 ここでわたしが文句を言っても仕方ない。

 ああいう人は小娘の戯言と鼻で笑うだけだ。

 余計な時間を消費するだけ。


「その内痛い目に合うわよ。これからは獣人との取引が重要になってくるんだから」


 義兄様が言っていたもの。

 これから西との取引は拡大していくと。


 ぶつぶつと口の中で悪態をつきながら、港をより奥の方へと歩いた。


 

 腹が立つ。

 だけど一つ気づいたこともあった。


 ああいう人が少なからずいる以上、リルたちは目立たない場所に船を止めているんじゃないかしら。


 目立たない場所。

 と、頭の中で港の地図を思い浮かべる。


 港は好きで、わりと良く来る。

 大きな船を見るのも楽しいし、落ち込んだ時に人の少ない場所で静かに海を眺めるのも好き。

 だからきっとわかるはず。



 リルたちは全員で隊の人間が6人とそれ以外にも二人いると言っていた。

 なら船は恐らく中型のもので、他に客がいない。

 中型の船が停められる場所で、目立たず人目につかない場所。

 そしてそこまでのルートもあまり人目につかずに移動できる場所--。


 思い浮かんだのは二カ所。

 だったらとりあえず向かうのは、近い側だろうか。



 わたしは一つ頷いて、方向を変えた。

 向かうのは、高台にある灯台の裏手。


 そこから険しい道を降りた所に中型の船が二隻ギリギリ停められるだけの船着き場がある。


 周りは整備もされていないし、よほど船の多い時に一時的に停めるくらいにしか使われていない。


 その昔、この辺りに縄張りのあった海賊がコッソリ使っていたという噂の場所。


 わたしは両手両足を使って半分滑り落ちるみたいに灯台の高台を降りていく。

 おかげで服が葉っぱと砂だらけ。

 スカートのポケットには職員からもぎ取ってきた貼り紙が畳んで入っている。



「……い、た!」


 船が見える。

 そばには獣人らしき人たちの姿も!


 わたしは足の重さも忘れて夢中で足を前に出した。

 走るというより、ただバタバタ足を出しているような格好で、あまり見目の良いものではないと思う。


 けれどそんなことを気にしている場合ではなくて。


「--副隊長さんっ!」


 その場にいた人の中に、見知った顔を見つけて声を上げる。


 豹の獣人である副隊長さんが、尻尾を揺らしながらこちらを振り向く。

 それにわたしは手を振って、走り寄った。


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